お笑い芸人ダケヤマ
「おい、あんた、本気で言うとるんか? アスカロン……」
「もちろん、俺は真面目に頼んでるよ」
「マジか……」
「上級の悪魔相手に、剣技や魔法攻撃は全く通用しない。歯が立たないのは当たり前だ。奴はゲームマスターであり、この世界……ディアブルーンの創造主なんだから」
「それは分かるが……だからって何で俺やねん?」
「……条理を超えて破るんだ、ダケヤマ殿! ヤマナンもヘカテも人間を全て理解したつもりで、高を括っている。だが……俺達は、そんな単純なモンじゃないだろう?」
「おうッ! せやな」
「人の潜在意識に眠っている無限の小宇宙。つまり根底に流れる……大河のような果てしない先、いや底なしの奥深さを、今こそ見せつけてやるんだ!」
「よぉ~分からんが……偉そうな奴らに俺の……ハイレベルなお笑いを披露すればええんやろ?」
「そうだ、君の全てをぶつけてこい!」
「うおおぉ! やったるで! 見とれよ、お前ら!」
さすがに回復魔法中のアビシャグが心配して、ぼんやり蒼く光る手を止めた。
「ちょっと、アスカロン! 一体何をやらせようとしているの? ダケヤマさんに無茶させないで!」
「彼の力を信じてみよう。『混ぜるな危険』作戦はきっと成功する。……見てみなよ」
ダケヤマは勇んで立ち上がると深呼吸した。大きな舞台の前では、いつもこうしている。緊張感や、ぎこちなさは微塵も感じられず、堂々としていた。数々の前座舞台をこなしてきたダケヤマは、出番が回ってくれば、恐ろしいまでの集中力と巌のような落ち着きが巡ってくるのだ。
「ダケヤマさん……あなた……」
「心配すんなって、あっちゃん! すぐ戻ってくるさかい」
「…………カッコいいけど、ここで死ぬかもしれないって事を、本当に理解しているの……?」
ここに来て、お笑いコンビ『スカンピン』唯一無二の相方、カヤタニは隣にいない。
「よっしゃああああああっ! 今日はカヤタニの分までハジけんといかんなぁ!」
……壊れた電灯が瞬く度にヤマナンとヘカテの顔に影が差し、暗闇に赤く光る4つの瞳が、妖しげに浮かび上がる。
ついに白き悪魔が、待ちくたびれたように口を開く。
「……何だ? 皆で葬式の相談なのか……」
すかさずネクロマンサー・ヘカテも続けた。
「さあ! ゾンビになりたいのか、それともスケルトンか? 10秒以内に今すぐ答えろ!」
そんな中、根拠のない自信に彩られたダケヤマは、満面の笑みで人外の前にしゃしゃり出てきた。
「そんなぁ〜ご冗談を~旦那~! ハイハイは~い! どうも~、スカンピンのダケヤマです~! 残念ながら、相方のカヤタニは便秘で入院中なので、今日は俺一人でっっっす!」
「…………誰だ、お前は?」
「だ・か・ら~、お笑い芸人のダケヤマで~す! さて、一発ギャグからいこうかな?」
ヤマナンと違い、ヘカテには多少なりとも面識があった。『また、こいつか!』といった表情になる。
「マシンガン・ギャグ炸裂! ……君ィ……ひょっとして!? 運送屋? うん、そうや!」
「……………………………………!」
「………………………………………………?」
いきなり思いっきしスベった。




