ラスボスはゲームマスター3
ネクロマンサー・ヘカテは、防御力を失ったアスカロンにとどめを刺すべく、攻撃魔法の呪文を詠唱し始めた。ゴミ屑を見るような目での悪態付きで……。
「……我ら、幾千年にも渡る悠久の時を経た超霊長類なり。貴様らの一生など、瞬きにも等しいわ。さあ! 己の無力さを、骨の髄まで感じて死ね!」
ヘカテが指先から黒い稲妻を発したが、カゲマルを始め、のべ太もアビシャグも、刻一刻と数を増すスケルトン戦士を食い止めるのに精一杯だった。
「もうアカン! 殺られる!」
鼓膜を痺れさせる、嫌な音が響き渡る。
ダケヤマは、心を掻きむしられるような光景を想像しながら、恐る恐る目を開けた。
――そこには、アスカロンに覆い被さる赤い鎧姿の人物が、更に赤い鮮血を床に滴らせていたのだ。
「あ……穴金……!?」
「俺は……悪魔に魂まで売った訳じゃない……これで皆に証明できた……かな?……」
そこまで言うと赤騎士は、装備の一切合切をポリゴン状の粒子に溶かしながら倒れた。早くも魔法の杖を抱えたアビシャグが二人に駆け寄り、回復魔法の儀式に取り掛かる。
ネクロマンサー・ヘカテを侍らす白い悪魔ヤマナンは、ただただ不気味に微笑を湛えながら、緩い文言を吐いた。
「ふッ……面白くなってきた……じゃないか」
ヤマナンが一瞥するだけで、円卓の騎士・のべ太自慢の強弓が、矢筒や防具と共にポリゴン粒子に還元され、煌めきながら消え去った。凶大なゲームマスターの権限の前に3名のプレイヤー達は、インナーを残して裸同然の状態まで戻されたのだ。
もはや、これまでなのか……アスカロンは額から血を流しながら、傍にいたダケヤマに伝える。
「……すまない、ダケヤマ殿。こんな戦いに巻き込んじまって……」
「何言うとるねん、アスカロン! 俺は相方のカヤタニを助けるためやったら、一人でもここまで乗り込んできてたがな。どっちかって言うたら、ありがとうや。こんなとこまで連れてきてくれて、一緒に戦ってくれて!」
それを聞いたアスカロンは、全身骨折した痛みに耐えながら続けた。
「ダケヤマ殿、君を見込んで最後の頼みがある。……聞いてくれ」
「何やねん? 縁起でもないなぁ、最後の頼みなんて」
「ふふふ……さすがだな、まだやるつもりなのか? 俺は……君の、お笑い芸人としての気概と能力を高く評価している。そこでだ……」
「だから何やねんな? まさかとは思うけど――?」
「そのまさかだ。奴に……ヤマナンに……一発かましてきてくれ……!」
白き悪魔と黒き死霊魔術師は、楯突く者達を嘲笑うかのように一瞬、陽炎のように揺らめいたのだ。




