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幼女のようじょ  作者: えあのの
第三章 新しい街へ
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42日目 「忘れじの花畑」


「リリちゃん、大丈夫かな......」


「きっと大丈夫よ! リリはとっても強かな子だもの!」


 マリーは自信満々にそう答える。


「それもそっか......うん。きっとリリなら大丈夫だよね」


 そうしてみよとマリー、そしてみいとシエルは森の中で歩みを進めていた。


「あ、蝶々なのです!」


 ヒラヒラと羽ばたく蝶に釣られてみいはどんどんと前の方に進んでしまう。


「こら、あんまり進みすぎないでちょうだい。離れすぎると何かあった時に守るのが大変じゃない」


 シエルも手早く後を追う。走り抜けた先に見えたのは大きな花畑だった。


「とってもきれい......」


 眼前に広がるのは色とりどりの花々が咲き誇る場所で、思わず目を奪われる。


 花畑の先で、みいは蝶を追いかけながら走り回っている。


 「なんだかとっても楽しそうね!」


 マリーはその光景を微笑ましそうに見つめる。


 よく見ると花畑の中腹にはいくつか石が積まれている場所があるのが見える。


 「あれ、なんだろう」


 ぼんやりと見つめていると、一瞬かちりという音が聞こえたと思えば、花畑の中に轟音が鳴り響いた。音の中心は......先程までみいがいたはずの場所だった。


 「みい!!!」


 遅れた声は届かず、煙が上がっている。


 「そんな.....」


 突然の出来事に理解が追いつかない。


 「みい......」


 「何が起こったのです?!」


 横から聞き馴染みのある声が聞こえる。そこにあったのはけろっとしていて傷ひとつないみいの姿だった。


 「みい! 大丈夫なの!」


 みよとマリーは急いでかけよるが、相変わらずみいはきょとんとしている。


 「どういうことなのかしら......」


 マリーが訝しげに辺りを見渡す。煙の向こうから小さな影が見えた。


 「けほっ、けほっ、全く。世話がかかるわね。だから近くにいろとあれだけ言ったのに」


 そこにいたのは煤を被った小さな可愛い妖精の姿だった。


 「誰.....なのです?」


 みいがそういうとわかりやすくおでこに怒りマークを作りながら、


 「わたしよ! わ、た、し! シ・エ・ル」


 シエルは身震いをしながら体についた煤を払う。


 「全く、今回ばかりは本当に死んでたかもしれないわよ、あなた」


 「私があなたの位置と入れ替わって衝撃を肩代わりできたからいいものの、あのままだったらイチコロよ」


 シエルははぁとひとつ大きなため息をついた。


 「ねえシエル、これどういうことなの」


 「大戦争時代の名残よ、この森には多くの地雷が眠ってる。そう言わなかった? 森を抜けるまで私より先には絶対に行かないで、いい?」


 シエルがみいのおでこをパチンと弾く。


 「うぅ......痛いのです」


 「本当ならもっと痛い目にあっていたんだから、いうこと聞いてちょうだいね」


 そんな話をしていると先程の衝撃からか近くに積んであった石がずるりと滑り落ちた。


 「これは......」


 みよが拾い上げるとそこにはたくさんの名前が刻まれていた。


 「ここは忘れじの花畑、かつてこの辺りで命を落とした人が眠っているわ」


 シエルは少し寂しげにそう呟く。


 「悲しい話ね......」


 マリーは優しく石を拾い上げ、撫でるように汚れを落とし、元に戻すように石を積み上げた。


 「でも綺麗よね、この場所。だいぶ前にもきたけれど、時を経るごとに華やかになっている気がするわ」


 シエルは、先程煙を上げていた場所に魔法をかける。


 「ちゃんと治しておかなきゃね、起こしてしまってごめんなさい」


 シエルは祈るように手を合わせ、ひらりとこちらに戻ってきた。


 続くようにみよとマリー、そしてみいも祈りを捧げていた。


 「戦争は再び起こしてはダメよ、絶対にね。憎しみは何も生まないわ......さあいきましょう」


 シエルの合図とともに、美しい、忘れじの花畑を後にした。


 花畑を抜けてしばらくいくと、ひらけた草原が広がっていた。


 「森は抜けたみたいね......」


 「みて、みよ! あっちの方に街があるわ! 行ってみましょう!」


 みよはマリーに手を引かれて足を進める。しばらく歩いていて疲れてしまった。新しい街には何があるのだろう。美味しいものはあるだろうか。そんな邪念もよぎりながら、一同は街の方へと向かっていった。


 遠くの方からはカランカランという鐘の音が聞こえる、それは新しい旅の始まりを知らせる音にも聞こえた。

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