40日目 「何を犠牲にしても」
静寂な朝だった。小鳥が囀り、葉が風に揺られてカサカサと音を立てるのが聞こえる。ゆったりと目を開けると、目の前にはすぅすぅと寝息を立てるリリの姿があった。
徐に起き上がると、みよ以外はまだ寝ている。
「ふぁ~、早く起きちゃったかな」
みよが伸びをしながら窓をあけると心地よい風が吹き込む。
「ちょっと寄り道しちゃったけど、そろそろ行かなきゃね」
身支度を整えようと廊下を歩いていると、ばったりルキアと出会う。
「あら、もう起きたのね。ゆっくり眠れたのかしら?」
「......寝れました。リリさんのおかげです」
「そう、ならよかったわ。もう少し泊まっていったらどう?」
ルキアが優しく提案する。
「いえ、私達にはやることがあるので。あわせてあげたいんです。みいをお母さんに」
みよは覚悟を決めた顔でそう答える。
「そうだったわね。わかったわ。でも、気をつけるのよ。あなた達、まだ若いのだから。危ないと思ったら必ず身を引くのよ」
ルキアは真剣な顔つきで諭すように話した。
「わかってます。でもきっと大丈夫です。うちにはシエルという協力な見方がいますから」
「......そうね。彼女がいれば、大丈夫かしらね。彼女は信用できるの?」
思いもよらぬ言葉に、少しだけ言葉が詰まる。
「はい。シエルはマリーのお父さんに恩があるみたいなんです。だからついてきてくれるって、そう言ってました」
「そう......ならいいけれど。私も妖精と会うのは初めてだけど、良い妖精ばかりではないと聞くわ。彼らの価値観は、時に人と外れたところにあることもある。人間と同じ尺度では語れないこともあるわ」
「......考えたことありませんでした」
みよは少し考え込む。
「ちょっと......」
ふわりと音もなく近づいてきたのはシエルだった。
「あんまり余計なことを言わないでちょうだい。不信感を抱かせてどうするのよ」
「あら、用心するには越したことはないと思って」
ルキアはニコリと微笑む。シエルははぁとため息をつきながら、
「みよ、大丈夫よ。少し癪に触る部分はあるけれど、レオン......じゃなくてマリーのお父さんとは結構長いのよ。少なくともあなた達に危害が及ぶ状況には絶対にさせないわ。何を犠牲にしても」
シエルは今までにない真剣な面持ちでそう語る。
「......わかったわ。この子達のこと、任せるわね」
「言われなくても。もともとそういう役回りなんだから。あんたが気にすることじゃないわ」
シエルはそう言い放つと窓から出ていなくなってしまった。
「嫌われてしまったかしら」
「そんなことないですよ。シエルもルキアさんの才能は買っていました。ルキアさんが強いからこそ、シエルも警戒してるんじゃないでしょうか」
そうみよがいうとルキアは頬に手を当てて
「妖精さんには流石に敵わないわよ、心配しなくても」
そう話すルキアにはどうもただならぬ力があるように見えてならない。まるで、全力を出したらどうなんだろうかと品定めをしているようにも見えた。
「さて、と。朝ごはん用意しておいたから食べていくといいわ。ちゃんと食べないと元気でないでしょうから。みんな育ち盛りでしょう。他の子達も起こしてきてくれる?」
寝室のドアを開けると、マリーが目をこすりながらこちらに近づいてきて、ハグをする。
「おはようみよ、早いのね......」
優しく頭を撫でる。相変わらず可愛い。このためならどれだけでも早く起きられる、そんな気さえした。
部屋を見回すと、ちょうどみいやリリも起きたところだった。
「おはよう......なのです」
「んー! あ、みよちゃん、おはようございます」
「2人ともおはよう、朝ごはんだって」
程なくして各々が身支度を終えて、ダイニングへと向かう。
キッチンの方からは香ばしい匂いが漂っていた。




