39日目 「優しさに包まれたなら」
「そういう関係も何も.....ねぇ、マリー?」
みよがマリーの方を見ながらそういうと、
「みよは私の家族よ!」
とマリーは堂々の宣言をした。
リリはそれを聞くと驚いたように、
「か、家族ですか! え、でも女の子同士なのにそんな......じゃなくて姉妹ってことですね!」
と言いながら納得したようだった。
「あー......それはちょっと違くて」
「ええ! じゃあ本当に?!」
リリは目を丸くしている。
「みよは私の娘なのよ!」
マリーが元気よくそう言い放つとリリはますますわからないという顔で混乱している。
「え、っと......え? あえ?」
「も~どうして混乱させるような言い方しちゃうの!」
みよはマリーにそう詰め寄ると、マリーはきょとんとした表情で、
「だって、本当のことじゃない?」
と答える。いよいよリリが宇宙にいる猫さんみたいな顔になってきてしまった。
「おーい、リリさーん。リリお姉ちゃん!」
と言いながらみよが肩を揺すると、
「ひゃい! あ、みよちゃん。ごめんね、ちょっと理解が追いついてなくて」
「無理もないよ、だって私も聞いたことないもん」
続けてみよはことの経緯をリリに全て話した。
「......なるほど、です。そんな事情が。でも、それじゃあなんでこんな森まで来たの?」
リリは純粋な疑問を投げかける。
「それに関してはかくかくしかじかで......」
みよはみいとの出会いや旅の目的を淡々と話した。
「そんなことが! ミラリアの話ですよね......私の故郷でもあるので、少し思うところはあります」
「本当に偶然だよね......でも同じ状況の人はきっともっといるはず。お母さんと離れ離れになるのは誰にとっても辛いと思う」
みよは少し俯きながらそう答える。
「なんだか私恵まれてるんですかね...事情はあるとは言え、今はお母さんと一緒に暮らせてますし」
「そんなことないと思う。それが普通で当たり前なんだよ。そうじゃなくなってる状況がおかしいはず」
みよが真剣にそう答えるとリリは思いついたように、
「そういえば、みよちゃんもマリーちゃんもお母さんと離れ離れになって寂しくないの......?」
純粋な疑問に、少しだけみよは口篭ってしまう。
「寂しくないと言えば嘘になるわ! でも今はみよがいるもの。大切な家族がここに。だから大丈夫よ」
そう言いながらマリーはみよのことをぎゅっと抱きしめる。
「マリー......」
みよは静かに受け入れる。
「あのね、私達、実はママがいなくて......小さい頃の記憶しかないの。もちろん会いたいって思う時もあるけど、今はマリーや大切な仲間がいる。だから、大丈夫なの」
できるだけ平静にそう伝えたはずなのだが、リリの方がぐすりと泣き出してしまった。
「ご、ごめんねぇ、私知らなくて。2人とも、う、うぅ」
リリは暖かく2人のことを抱きしめて背中をさする。
「ちょ、ちょっと大丈夫だって言ってるのに」
「2人とも頑張っててえらいね。たまには甘えてもいいんだよ......?」
そう言いながら横になって2人に毛布をかけ、優しく頭を撫でる。
(あったかい。いつぶりだろうか、こんなふうにされるのは。昔お母さんにもこうしてもらってたっけな)
「あれ、おかしいな……なんでだろ」
そういう声は不思議と震え、涙がこぼれ落ちていた。
「大丈夫、大丈夫だよ......」
みよはリリの胸に顔を埋める。どうしようもなく暖かかった。確かに感じる年長者の温もりに、身を任せる他なかった。みよは背後にマリーの温もりを感じながらゆっくりと目を閉じる。
「おやすみ、ゆっくり寝てね」
薄れゆく意識の中で懐かしい声を聞いた気がした。




