36日目 「お姉さんはやめて!」
しばらく色んな話をしていると、ぐぅ~という音が軽快に響き渡る。音の鳴る方を見るとみいが少しだけ恥ずかしそうに後ろで手を組む。
「お、お腹が空いちゃったのです......」
「あら、そういえば何も食べてなかったわね、ちょっと待っててくれる?」
ルキアはポンと手を叩くとそそくさと部屋の外へ出ていってしまった。
「こんな時間に悪いかなって言おうと思ったけど、流石にお腹すいちゃったね......」
「そうね! 何が出てくるのかしら」
「何かあるならいいけど、お手伝いとかした方がいいのかな......?」
みいはリリにちょっかいをかけて遊んでいる。リリは少し困った顔をしながらそれでいて楽しんでいるように見える。
「私、ちょっと見てくる!」
そう言って扉の方に早足で向かい、扉を開くと、ちょうどばったりルキアにぶつかる。
「あらあら、どうしたのかしら」
ルキアはたくさんの料理を載せた台車を片手に開きかけた扉を開いた。
「ええと......早くないですか?? 一体どうやって」
「実は先週作りすぎちゃってね。保存魔法で残しておいたのよ」
「本当に色んな魔法が使えるんですね......!」
「まあ、これでも一応宮廷魔法使いだったからね」
「そういえばそうでしたね!」
みよは思い出したように手を叩いた。
それを聞いていたマリーはふと浮かんできた疑問を投げかける。
「作りすぎちゃったってことは、来客でもあったのかしら?」
「違うわね。そもそも来客なんて貴方達くらいよ。もう暫くきていないわ。というかくるに来れないようにしてあるし不在の時にこられても聖獣が......」
聖獣と聞いてさっきの事を思い出したのかみいは身震いしている。
「じゃあ何かあったんですか?」
みよは極めて自然な質問をする。
「ちょうど先週リリの誕生日だったのよ」
そういうと、みいと戯れあっていたリリに視線が集まる。
「そうなのね!とてもおめでたい事だわ!」
マリーはリリに駆け寄り手を取った。
「えへへ......ありがとう」
リリは少し照れくさそうに笑った。
続くようにみよもみいもそしてもちろんシエルもお祝いの言葉を告げた。
「そういえば、リリは何歳になったの?」
「先週で14歳かな」
「ええ?!」
リリが歳を答えると露骨に驚いてしまった。
(もっとずっと幼いと思ってた......てっきりマリーと同じくらいかと)
リリはきょとんとした顔をしている。
「あ、ええと、リリって意外とおねーさんなんだなぁって」
「ええ?! みよも同じくらいじゃないんですか? てっきりそう思っていたんだけど......」
「私、13歳だよ?」
「そうなんだ......! なんだか凄くしっかりしてるから」
リリは左手を口に当て驚いた様子だ。
(そんなことないんだけどなぁ......でも、マリーに会ってからちゃんとお姉さんしなきゃって思ってたからそういうのもあるのかも)
「ってことは私ってもしかして、ちゃんとしてないって思われてた.....?」
漫画だったらガビーンという文字が入りそうな様子でリリが少しあわあわしている。
「ああ! 違うの! その可愛らしいって意味で特に深い意味は、ほら後身長とか、ね?」
そうフォローを入れると、
「そ、そうかな。うーん」
「そうだよ、リリ"お姉さん"!」
「そ、そのお姉さんとか付けるのはなんだかむず痒いから、いつものままで......」
リリはもじもじしている。可愛い。
「ほ、ほら、早く食べよ? 冷めちゃうから」
リリは話題を逸らすように視線を食卓へと移す。そんな話をしているうちにルキアが料理を食卓に並べていたようだ。
「それじゃあみんないいわね? せーのっ」
「リリ、お誕生日おめでとう!」
軽快な掛け声と共に二度目のお祝いは人数を増して始まったのであった。