お姉さま、それちょうだい?
別件『お姉様への報告書』を煮詰めてたら、ついうっかり殴り書いていた。
まとまりは安定の微妙だし、後ろ指さされる覚悟はできてない。生温かく笑ってください。
三本お題:『奪う系』『我儘な妹』『ざまぁ』
私の小さな妹は私のモノをよく強請る。
「お姉さま、そのドレス素敵ですわね!私にちょうだい?」
「お姉さま、そのカップ素敵ですわね!私にちょうだい?」
「お姉さま、そのブローチ素敵ですわね!私にちょうだい?」
その度、私はにっこり笑って「よろしくてよ?どうぞ。」と渡す。
妹はにっこり笑って「明日を楽しみにしててね!」と持っていく。
妹はどこに誰がいようとおかまいなく私のモノをよく強請る。
「お姉さま、その侍女かわいいわ!私にちょうだい?」
「お姉さま、その護衛気になるわ!私にちょうだい?」
「お姉さま、その殿方おもしろいわ!私にちょうだい?」
その度、私はにっこり笑って「よろしくてよ?どうぞ。」と渡す。
妹はにっこり笑って「今から片づけてくるからね!」と連れて行く。
あの子が物心ついた時から、私のモノを持っていくのは当たり前の光景であった。
◇◇◇
王国の第一王女として生を受け、間もなく訪れる新年に王太子の位を戴く。
側室腹とはいえ、性別問わず長子優先で継承権が発生するため、ここ最近は公務引き継ぎ等、特に忙しい。
それでも、八つ年下の同母腹の妹は毎日私の元を訪れては、その可愛い笑顔を振りまいて欲しいものを見繕い、大量にかっぱらっていく。
立場故、一流の品で十分な量を与えられるが、その半分以上はその日のうちに妹の手に渡る。三分の一でも残れば上等といったところだろう。
自分が満足行くまで選別して、一生懸命アレがこうでソレがどうだと教えてくれる妹は今日もかわいい。
妹が生まれて間もなく母を失って以降、母を知らぬ妹が淋しくないよう、私に与えられるものは何でも渡した。
かわいいドレスでも、綺麗なアクセサリーでも、素敵なティーカップでも。
優しい侍女でも、強い護衛でも、そして婚約者候補でも。
だから、定期的に設けた茶会の場で、婚約者に決まった幼馴染の公爵子息が、不思議そうに質問したことにうっかり笑ってしまったの。
「確かに君は与えられるモノは多いが、君は妹に勝手に奪われて嫌にならないのか?」
「うふふ。どうしてそう思われますの?」
「欲しいからと言って、何でも与えていては甘やかすだけだろう?思慮深い第一王女が、第五王女に激甘だと笑ってるヤツがいて…なんか腹が立ったんだ。」
「心配してくださるの?ありがとう。でも大丈夫でしてよ?」
プイっとそっぽを向く婚約者の耳が赤い。実際、激甘なのは否定できないけれど、純粋に思ってくださるところが嬉しい。
本当のところは『激甘だと笑った奴に腹を立てた』のではなく、『激甘で愚か者だと笑った奴に腹を立てた彼が取っ組み合いの喧嘩をして勝利した』ところまで知ってる。
だから、本当はナイショだけど種明かしをしますの。妹のことを誤解されたままでは嫌でしょう?
「私のドレスが妹の元に行くと、次の日は別のドレスが届くのです。」
「私のカップが妹の元に行くと、次の日は別のカップが届くのです。」
「私のブローチが妹の元に行くと、次の日は別のブローチが届くのです。」
「全て妹がプロデュースした『私のお姉さまが一番似合うモノ』になって届くのです。」
婚約者があんぐりと驚いた顔をしている。
にこにこ笑う私は、私の隣ですやすや昼寝をする妹の髪を撫でる。
◇◇
「『鑑定眼』のスキルについてはご存知?」
「珍しいスキルではあるが…商業関係や職人ギルドで重宝されるな。」
「では、『カウンター』は?」
「冒険者ギルドで保有している者が多いと聞く。騎士団では攻守とも担える貴重な人材だ。」
「最後に『魔改造』は?」
「…初めて聞いたスキルだが、それは『改良』とは異なるのか?」
「少し斜めの改良といいますか、そんなところですわね。この子は、その全部を持ってますの。」
「は?」
◇
さて、まず『鑑定眼』について説明しよう。そのままモノの本質を見極める力である。以上。
例えば、私のところに贈られた荷物を鑑定すると、八割方問題が入っている。
「お姉さま、見て見て!においが残ったままですって!雑な毒の使い方ですよね!産地は南の沼地の草がメインですわ。作り手は…ルートは…依頼主は…」
第一継承権を持つ私の命は、正妃腹や他の側室腹のきょうだいと親族には、とても魅力的なようでせっせと仕掛けてくる。
ドレスには毒針が仕込まれ、アクセサリーにも毒が塗られ、カップにも茶葉にも毒が入っている。
幼少より薬慣らしはされているとはいえ、毎回気分が萎える。たまにはおいしいクッキーが食べたい。そういうと婚約者がお手製クッキーを持参してくれる。嬉しい。
「間違えても素手で触れないようにしてね?証拠以外の毒に触れた布はきちんと処分しないと。貴女が万が一にでも傷ついたら、お姉ちゃんは泣いちゃうわよ?」
「はぁーい」
脱線したが、そんな仕込みモリモリのため、毎日妹は鑑定しに遊びに来てせっせと捌いている。
たまにくだらないモノが仕込まれてると「手抜きは許せん」と別室で特上返礼品を仕込むこともある。
翌日は誰それが危篤と命乞いが来るので、きちんと従属契約と解毒薬を用意してあげる。
◇
次に、『カウンター』について。そのまま反撃である。以上。
例えば、私のところに贈られた荷物も刺客も、依頼人がおり、妹は鑑定でそれを割り出すと、勝手にカウンターを発動させ仕返しに行ってくる。
普通『カウンター』だと妹が害されそうになって初めて発動すると思うのだが、私も含めるよう『魔改造』したらしい。
「お姉さま、天井裏のお客様なんだけど。」
「あら、いらっしゃってるの?」
「北部山岳地帯〇〇村出身の29歳独身。得意な武器は痺れ針。あ、今日の針のは耐性つけてあるから大丈夫よ?幼少期の渾名はニュウドウカジカ。山岳地帯なのによく知ってるわよね!それが所以で今の渾名はブロさん。性癖は初恋の女の子に振られたときに目覚めた下着…」
「ストーップ!!!」
小さい頃から危ない所に潜り込んでいくので、ハラハラしっぱなしであったが、どんな刺客相手でも鑑定で弱点を見極め、向こうの一手が出れば勝手に返り討ちにしている。
今日も「お命、チョーダイ!」とやってきた暗殺者さんにツボ一撃お見舞いしてさしあげ、「私としてはぬぼーっとした顔も悪くないと思うのよね」と失神した顔を見せてくれる。
「うふふ。ぬぼーっとしてるわね。愛嬌があってかわいらしいわ。」
「でしょ?」
脱線したが、そんな刺客ホイホイのため、毎日妹は気配を探って来てせっせと反撃している。
たまに庇って擦り傷を作ると「お姉さまを傷つけた許さん」と別室に連れ込み誰が上かを仕込むこともある。
翌日は新しい刺客と対戦させ、強者の方を、きちんと従属契約と下僕として残してあげる。
◇
最後に『魔改造』について。そのまま、斜めに改造することである。以上。
「その斜めってどんな斜めに改造するんだい?」
「そうですわねぇ…通常ですと、『物』であるドレスは罪の意識がないので、改良で済みます。『人』の時は、悪意があると鑑定が出て、カウンターで沈めて、趣味嗜好を弄ると申しますか…」
「趣味嗜好を弄る?」
先日、やってきた侍女はスパイであった。
私の弱味を見つけて脅そうとしていたらしく、鑑定からのカウンターを通り。
「フフフ…第一王女様、貴女に恨みはないのですが、生きられると都合の悪い方もいるのですよ…」
「あらあら。でも妹には手を出さないでくださいませ?」
「フン!そうはいくまい!」
「お姉さまをいじめるな!ていや!」
「あふん!!」
魔改造でピンクな百合スパイに出来上がっていた。
どこのツボを押さえてしまったのか妹も適当だったのでわからないけど、まずは元の依頼主のところへ送り込んでみた。出元は異母弟の母方親族の家で、案の定、継承権のある私と妹を消したかったようだ。
ピンクなスパイになった侍女は、屋敷の女性使用人もご令嬢も女主人もまとめてお色気で誑し込み、堕落させ、花の楽園を築き、謀反の気があったので証拠諸々引っ張ってきてもらった。女のネットワークって凄いわよね。
対立関係にあった軍部の将軍に、証拠諸々教えたら喜んでいた。謀反は起きず王国の平和が保たれた。
◇
次にやってきた護衛は刺客であった。
私の命を奪おうと近づいてきたらしく、鑑定からのカウンターを通り。
「フフフ…第一王女様、貴女たちに恨みはないのですが、生きられると都合の悪い方もいるのですよ…」
「台詞が同じ…オリジナリティに欠けますわね。でも妹には手を出さないでくださいませ?」
「フン!そうはいくまい!」
「お姉さまを傷つけるな!とりゃー!」
「アーッ!!」
魔改造でBLに目覚めた尋問官に出来上がっていた。
しかも受けも攻めも逆もみんなイケるし、下は7歳、上は77歳までというストライクゾーンの広さ。7が三つ並んだから大当たりな気分になった。でもお子様には手を出さないよう厳命した。
比例して台詞も手段も種類が多様化し、地下の尋問室も道具も増えたので、ついでにシチュエーション部屋も作ってみた。
こちらも元の依頼主の情報は鑑定眼で握っているし、証拠の在り処も掴んで早々に回収したので、とりあえず依頼主の尋問をお願いする。
尚、依頼主は異母妹の伯父で、夜な夜なじわじわと攻める妖しい声が城内に響く。結果、立場を利用した巨額の不正金が判明した。寸止めを何度繰り返したんだろう…
国家予算で頭を悩ませていた財務大臣に、証拠諸々渡したら喜んでいた。浮いたお金で公共施設の拡充ができた。
◇
最後にまだ私の婚約者が決まっていない頃にやってきたのは、婚約者候補である。
私の尊厳を散らそうと近づいてきたらしく、鑑定からのカウンターを通り。
「フフフ…第一王女様、貴女たちに恨みはないのですが、生きられると都合の悪い方もいるのですよ…私の手で可愛がって散らして差し上げましょう。」
「あら、少し台詞が増えましたわね。でも妹に手を出すのは法律的に許されない年齢ですからね?」
「フン!そうはいくまい!夢は大きく姉妹丼!」
「こらー!ここは全年齢対象エリアー!」
「ハヒィーッ!!」
BLは既に見たというので、今度の魔改造では略奪しか燃えない恋愛脳に仕上げてた。時々ピンポイントで改造するのが不思議。
男でも女でも相手のいる人を奪う行為から、キレた騎士や紳士達から決闘が行われそうになったので、もう少しハートフルな戦い…夜会や茶会の真ん中で『愛の告白大会』をしてもらうことにした。
政略結婚で薄い関係だった婚約者も夫婦もアツアツになったようで、出生率が上がった。
尚、婚約者候補はその恋愛嗜好の迷走から、教会へ入れられ、今では愛の伝道師(原因)役をやってるようだ。
「愛の伝道師(原因)役?その原因って必要なの?」
「結婚式で乱入。新郎新婦並びに参列者問わずナンパするので、皆様、教会の中でパートナーに愛を伝えるのが今流らしいですよ?」
数々のプロポーズ語彙の中から選ばれた傑作選が、併設されてる孤児院印の出版物『口下手男子必見!必ずときめくプロポーズ集』や『午後のマダムのロマンス詩集』として販売され、子供たちの文字と金銭感覚の教育、そして臨時収益の糧になった。
教会と孤児院関係者に、辞書と筆記用具と王城での語彙集諸々も渡したら喜んでいた。やはり実践こそ身に付く最短距離よね。
流行が終わったらどうなるのだろうか。監督者を付けて各地巡礼させたら、もっとドラマが膨らむのだろうか。まぁ、トラブルの種になったら改めて妹に魔改造してもらおう。
◇◇
「とまぁ、こんなかんじですわ。」
「とりあえず、君の妹は激甘じゃなくて劇薬だと理解した。」
頭を抱えて唸る婚約者の隣でころころ笑う。
…この人は『王配』でなければ、私に魅力を感じない人かしら?少し気になった。
「ですから、『王位はほしくないの?』って聞いたんです。」
「『ですから』に繋がる文脈がわからない。まぁいい。」
唸っていた婚約者は顔を上げる。
「私が女王でなくてもいいのですか?」
「君が女王になりたくなかったら、そこの最強の妹君が王でいいと思う。少なくとも国は安全だ。侵略も謀反も起きようがない。僕の興味は、君が今日のクッキーを気に入ってくれるかだけだし。」
婚約者がクッキーをかじる。「我ながら今日の焼き加減も上等だ」というので、食べ掛けを持った手を掴んで、そのまま残りをいただく。
毒が仕込まれた料理が多い中、栄養を取れるよう彼が考えて作ってくれた野菜クッキー。今日はかぼちゃ味。砂糖不使用でかぼちゃの甘さが引き立ち、仕上げの種がまた美味しい。
「な、な、」
「『お姉さまが笑顔じゃないならちょーだい。笑顔になってるならいらない。』ですって。」
にっこり笑って彼の淹れてくれたお茶をいただく。
「つまり君を泣かそうものなら、僕が魔改造されちゃうってことだね!了解!」
「新作ができましたら、また食べさせてくださいまし?マフィンでもいいですわよ?」
真っ赤になった彼は、明日、美味しいマフィンを作るのだろう。
◇◇◇
「お姉さま、あの婚約者殿の鑑定結果は相変わらずですわ。お姉さまのもぐもぐ姿が好きですって。」
「まぁ、うれしい。でも私は貴女と一緒に食事するのも大好きよ?」
「ムフフ~。お姉さまを笑顔にしてくれる方は私もすきよー」
「あら、あの方もほしいの?」
「いらなーい。 お姉さま、その花束素敵ね!私にちょうだい?」
「えぇ、よろしくてよ?どうぞ。」
意気揚々と花束を持って帰る妹。
配下につけたピンクでお色気スパイな侍女と、尋問上手な護衛も付いて行ったのだから、きっと明日も騒ぎになるだろう。
帰ってきたら婚約者と一緒に労いのお茶をしよう。
今日も私の小さな妹は私のモノをよく強請る。
報告書の更新も頑張ってかきまー…
※小話…(・ω・)b え。