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横断歩道   ー合コンで会った女の子との最初のデート。友人にモデルコースを作ってもらっていますー

作者: 恵美乃海

合コンで会った女の子、席が離れていて一言も話せませんでしたが、そのたたずまいが気になり、終わってから電話番号を訊きました。

そして、翌月逢ってもらえることに。

 私の合コンの経験は大学時代に限られる。

 たしか、合計で4回経験していると思う。


 4人ずつ程度の規模だったことが1回。

 あとの3回は、20~30人程度ずつの団体戦だった。

 相手は女子大が3回。看護学校が1回。


 で、終わったあと、声をかけたのは、4回の内、2回である。


 声をかけた最初は、大学3年の夏、昭和53年7月。


このときの合コンでは、いつもやる「一人相撲」ではなく、

「レコード大賞授賞式」という芸をやった。

この時代、コンパでは持ち芸を披露するというのが、普通のことだった。

 

 当日は、アクションは起こさなかった。

「気に入った子がいたら、電話番号はみんな把握できているから、 あとで、言ってくる様に」

という幹事の事前のコメントもあった。


 尚、この合コン、男性側は私が属していたゼミの同学年のメンバー。 女性側は女子大で、幹事の伝で1級下だった。


 当日、私の前に座っていた女の子と結構話した。


 可愛いというよりは美人タイプ。きりっとしたイメージで、ニコニコという印象でもない。

 これまでの私が、好きになるタイプとして意識する女の子ではないはずだった。  

しかし、

「俺も20歳になったんだし、こういうタイプの女の子と付き合うのも新鮮で良いかもしれない」

などと、それまで一度も女の子と付き合ったことがないのに、そんなことを考えて、

その女の子の電話番号を幹事に聞いて、連絡した。

 

 また、もうひとつ切実な事情があった。   


 その時、7月末から、8月末にかけて、東中野に下宿している友人2人。熊本の褌男、宮城の自称アラン・ドロンと一緒に、3人でヨーロッパに1ヶ月旅行することが決まっていた。


名目はツアーだが、旅行会社が面倒をみるのは、行き帰りの飛行機。 到着日のロンドン1泊。最後のパリ2泊。あとは、ヨーロッパ中(といっても当時のことだから、社会主義国家は除くであったろう)の鉄道乗り放題で、 21日間有効のユーレイルパスを渡すから(そこまでがツアーの料金に含まれていた)、あとは自分で勝手にやってくれ。宿も現地で、自分で探してくれ、というものであった。

 

 東中野の2人組には、その時、すでに付き合っている彼女がおり、1ヶ月のヨーロッパ旅行ということになれば、

・涙の別れ    

・旅先からの愛をこめたメッセージ  

・感激の再会

という青春時代を飾るにふさわしいイベントも用意されている。

 

 しかるにわが身は、となれば、

「ああ、彼女がほしい」

と思ったとて、一体誰が責められよう。


「もしもし、○○ですが。」

「(比較的明るい声で)はい」

「先日の合コンでお会いした者です。できましたら、今度、会っていただきたいのですが」

「すみません、よく覚えていないんです。どこに座っていましたか」

「前に座っていたんですけど、ほら、レコード大賞の芸をやったのがいたでしょう。それです」

「(冷たい口調に変わって)すみません。会えません」

ジ・エンド



 2回目は、3年生の春の試験も終わった昭和54年2月のこと。


 男性側は上記と同じメンバー。幹事も同じ。

相手は前回とは別の女子大だったが、やっぱり1級下。


 散会した後、合コンの間は席が離れていて、全く話もしていないある女の子をすぐに追いかけて、電話番号を訊いた。


  物静かで、合コンの間も明るく話をしている、ということもなく、特ににこやかな表情をしているわけでもない。


 でも目が大きくてとても可愛い。可愛いというだけでなく、綺麗という形容詞も相応しいビジュアル。

私が最も憧れるタイプ。


そんなに可愛い子が、上記のようなたたずまいで、その会場の中にいるのが、とても気になった。

(このときは特に芸はしなかったように思うのだが、よく憶えていない)


髪はロングのストレート、背がわりと高い(163センチ、でした。その後訊きました)。


「あのう、電話番号を教えて下さいませんか」

「○○○ー○○○○です」

「(やったー。教えてくれた)今度、会ってほしいのですけど」 「分かりました。でも今月は色々と忙しいので来月でもいいですか」

「はい、分かりました」

 

 すぐに会えないのは残念だったが、個人的には、その時、所持金が余りなかったので、しばらく先になったほうが、当時やっていた八百屋と蕎麦屋のアルバイトでお金も貯められる。

 

 さてそれからが大変だった。 東中野在住の熊本の褌男は自分のセンスに絶大な自信を持っている男であり、またその時点で、彼女と付き合い始めて2年半というキャリアもあった。

 

 私としては、もうアドバイザーとして頼りきり、お説を謹んで拝聴するしかない。


で、当日のモデルコースも作ってもらった。


「渋谷のハチ公前で、お昼に待ち合わせ。昼食は渋谷の、このレストランで、これを食べろ。

 それから、代々木公園に行って、しばらくお話してから、新宿に移動。

 この喫茶店でお茶を飲め。

最初のデートなんだし、早い時間に、さわやかに別れろ」

というものだった。

 

 当日、時間に遅れることもなく、彼女は来てくれた。


 このときの彼女の服装は、今もよく憶えている。  

 白いセーター。黒いスカート。ベージュのジャケット。

どこにも柄は使っていない。


彼女はややぽっちゃりしたタイプだったが、とてもよく似合っていた。  

 普段、そういうことは、あまり思わないのだが、このときは 「何て、センスのいい女の子なんだろう」

と思い、感動した。

 

 で、挨拶をして、最初に私がしたことは、例のモデルコースが書かれた紙を見せるというものだった。


「彼女がいる友人が、作ってくれたんです。今日はこの通りにします」


話をしている中で、彼女は、一卵性双生児の妹なのだと教えてくれた。


こんなに可愛くて綺麗な女の子とほとんど同じ顔をした女の子が世の中にもうひとりいるのか。

と、思った。


が、そのお姉さんには結局、お会いする機会はなかった。

 

 その日の別れ際、

「また会ってくれますか」

と訊ねた私に、彼女は、何も答えなかった。

 

 友人たちとの反省会

「ふーん、会っていきなり、モデルコースを書いた紙を見せたのか。何で」

「受けると思ったから」

「付き合いだしてしばらくしてからそういうことをすれば、「面白い」と 思ってもらえたかもしれないけどね。最初からそれだと「変な人」と思われる だけだな。で、好意をもっていることはちゃんと伝えたのか」

「喫茶店で、目が大きいですね、って言ったな」

「その前後で、僕は目の大きい女の子が好きなんです、という意味のことは言ったのか」

「いいや。目が大きいというのは、ほめ言葉だろう」

「みんなお前と同じ趣味という訳ではないんだ。それだと単に相手の身体的特徴を客観的に言っているだけじゃないか。で、どんな話をしたんだ」

「僕は、毎月「りぼん」と「別冊マーガレット」を買っているんですよとか・・・」

「それも最初のデートでする話ではないな」


 後日、私の下宿に、彼女からの手紙が届いた。

 今回のことで、私は、やっぱり男の人と付き合えるような女の子ではない、とあらためて思いました。

 という意味のことが書かれていた。

 

 そこに書かれていたことについて、翻意させるに足るだけの経験も、言葉も、私は持っていなかった。

 

 彼女は、大学は違ったが、私の大学のサークルに所属していたから、4年になって、たまにキャンパス内で、姿を見かけることがあった。  


 ある日、友人のひとり、東京の黒ストッキング男と2人でいた ときに彼女の姿を見かけた。

彼に

「あの子だよ」

と教えたら、

「よし、俺が話をつけてやる」

と言う。

「やめてくれ」

と言ったが、

「いいからいいから」

と言いながら、彼女のところまで歩いて行き、彼女に

「なあ、こいつ、とてもいい奴だから、付き合ってやってくれ」と言ってくれた。

 

 その夜、彼と二人で、東中野に行き、そこの2人組に、友人(黒ストッキング男)がそのことを報告したら、その彼女を見ていない2人が、友人に

「で、可愛いかったか」

と訊く。

可愛い女の子、と、それまで私はさんざん言っていたはずだが、趣味の問題もあり、私の言うことだけでは信用できない、と思っていたのだろう。

 

 冗談好きで、なんでもかんでも笑いのネタにする、という性格の友人(黒ストッキング男)だったがそのときは

「うん、すごく可愛い子だった」

と、素直に言ってくれた。 それが嬉しかった。

 

 後日、私がアルバイトをしていたキャンパス近くの八百屋の前を、彼女が通り、店のすぐ前の横断歩道で、信号を待っていた。


 私には気が付かなかったし、信号待ちの彼女は、私に背中を向けている。  


 赤信号の短い時間の間、声を掛けるかどうか迷ったが、結局、何もできないまま、信号は青に変わり、彼女は、横断歩道を渡って行った。  


 彼女を見たのは、それが最後だったと思う。


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