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嵐の前の静けさ? ~其の六~

「……………で、何がどうなってるわけ?」

ぞろぞろと追ってくるギャラリーを巻くため、息も切れ切れになりながら真由美は聞いた。かれこれ30分は走っているのに、振り返ると減るどころか、むしろだんだん増えてきて行列が出来ている。

「はい?」

みゆりはきょとんとして聞き返してきた。質問の意図が掴めていないらしい。

「だから!なんでさっきからあんなぞろぞろ跡付けられるのかって聞いてんの!はっ、まさかお兄ちゃんなんかやらかしたんじゃないの?!」

真由美に責められ膨れっ面をする博。

「なんだよそれー。あれは直兄の犬の糞だろー。言いがかりもいいとこだぜ」

「…………犬の糞?」

いくら邪魔だからってそれはあんまり言い過ぎじゃないか。例えが汚すぎる。というか微妙に意味がわからない。

「あのー、もしかして金魚の糞だって言いたい………?」

スィフトが冷静に訂正する。

「あ!そうそうそれ!間違えちゃったよー。まぁ別に意味通じるし、ノープロブレム!」

さすがに彼はノープログラムとは言わなかった。

「いや………犬の糞は止めた方が……」

同じ糞でも汚さの度合いが違う気がする。

「てか、なんで久保くんの金魚糞なの?」

未だによくわかっていない真由美に、みゆりが怒り半分呆れ半分で捲し立てた。

「何言ってるんですの?!直人さんと言えば、五大都市の王子様ですのよ!?真由美さん、彼を見て何も感じないんですの?!カッコいいとか、素敵だなとか、結婚したいとか!!」

「いきなし飛躍したね」

「そんなこと言って、ゆっきーはどうすんだよー。みゆり、結婚したいとか言ってたじゃん」

「へー。あの生真面目君と?顔は同じなのに明人と性格正反対だよな。なんか結婚生活も兄弟で全然違いそう」

自分の話題から逸れたので、先ほどまで押し黙っていた直人も饒舌になる。

「えっ、望月君のお兄さんって不真面目なの!?」

一瞬不真面目な幸広(と同じ顔の兄)を想像して真由美は鳥肌が立った。幸広が真面目な分、同じ顔の彼の兄がナンパしたりしていると思うと、どうにもやるせない気持ちになる。先ほどの直人の言を借りるなら『キモい』という表現がぴったりだ。

「いや、不真面目じゃないけど、かなりドジっつーかあほっつーか、まぬけっつーか……。医者なのに患者にナメられるからって、小児科担当になったんだよな」

うちのバカ兄貴にそこまで言わせるアホっぷりの幸広顔の医者って一体……。

今度はアホ(らしい)幸広を想像して真由美は腹を抱えた。

「ぶっ、あはははは、おかしすぎる!!」

「まぁその点ゆっきーならしっかりしてるし、年下の嫁もらっても安心だよな。応援してやるからがんばれ、みゆり」

「ちょ!誰が結婚したいなんて言いましたの!私はただ、望月さんには憧れてて……!恋愛とか結婚とか、そういうのはまだよくわかりませんもの!そりゃ、いつかは大好きな人と結婚したいって思いますけど……、それが誰なのかはその時になってみないとわかりませんし」

みゆりは精一杯自分の心境を説明したつもりだった。が。

「ふーん。なんつーか中学生並みの恋愛って感じだな」

「そりゃ、現役中学生だし」

博と真由美に子供扱いされてしまった。

「な、なんですの?!そんな風に仰るなんて、お二人こそどうなんですの!?」

真由美はわからないが博はいないだろう、という確信のもと、みゆりは反撃体制を取ったが、彼はあっさり

「そりゃ、この年でいないわけないだろー。俺だって今年成人だぜ?」

と、何でもないことのように言った。

「え?!いるの?!ちょっとお兄ちゃん、またいつもの冗談じゃないでしょうね?!」

「マジだって。つか何、俺そんな寂しい男に見える?そりゃ直兄程モテないけどさー」

「いや………俺は別にモテてるわけじゃないよ。それこそみんながミーハーなだけだって」

直人がいい加減うんざり顔で言った。確かに顔がいいからという理由で、たかが散歩にあれだけ付きまとわれたらいい迷惑である。

「で、みゆりは何でこんなとこにいるの」

「あ、実は今、綾さまと天野さんとリーナ、ルシフェルがうちに来ているのですけど、丁度電話で直人さんの目撃情報が入ってきたので、こうして追ってきたというわけですわ。記者魂というやつですわね」

そう言うみゆりの首からは小型カメラが下げられていた。

「……………一つ聞きたいんですけど、それで何を撮るつもりだったんですか?」

シェルが不審気に尋ねる。

「それは勿論『巷で噂の美形特集』に載せる写真ですわ!うちの雑誌でかなりの人気を誇っている特集ですの!今までに綾さまや巧さんも載りましたのよ!」

みゆりは得意気に語るが、綾子同様肖像権はまるで無視らしい。

「えっ、そういうの嫌がる人だったらどうするの?私だったら絶対やだ。死ぬ前に自分の写真や、自分が存在してたって痕跡を全部処分してから死にたいし」

スィフトがみゆりを咎めるように言った。

「…………言い分はわかるけど、なんだかそこまでいくと極端ね」

「てゆーか簡単に死ぬとか言わないでよ。生きたくても生きられない人だっているのに」

真由美が珍しく真面目に怒り出した。

「でも、生あるものはいつかは死んじゃうんだよ?自分が死ぬときの事を考えてこそ生きてるって事になるんじゃない?千慧ちゃんなんかよく言ってるよ。私は雷に打たれて死にたいって」

「……………あの、もしかしてそれ笑うところ?」

シェルが反応に困惑する。もし心底からそう思っているのなら、その千慧という人は相当オカシイに違いない。黒焦げになって死にたいなんて。まぁ実際雷に打たれて死ぬことはまずないだろうが。

「んーん、本気みたい」

「マジかい!」

真由美もいつものオーバーリアクションでツッコミを入れる。

「俺は雪が好きだから、雪見ながら死んでいきたいなー。よく言うじゃん、眠るように亡くなるっての」

「あー、てことは凍死だね!いいよね、凍死は冬に外に出れば簡単に出来るし、死体の損傷も腐敗もあんまり無いから、一番綺麗に死ねるんだってー。そのかわり変に山奥とか入って夏とかに見つけられたら、腐ってて大変らしいよー。すごい死臭がするんだって!やだよねぇ。そんでもっとずっと見付けられなかったら、ミイラ化したりするんだよねー。そんでどっかの大学の研究材料にされたりすんのー。この人は歯が悪かったようですねぇとか、復顔してこんな顔してたんですねーとか言われるんだよねぇ。死んだ後まで自分の容姿とやかく言われたくないよね」

スィフトはのんびりした柔らかい口調とは対照に、超現実的な事を言った。これには博も言葉に詰まった。

「……………いや、俺は別に凍死したいわけじゃなくて。てかえらく詳しいけどそれ千慧姉の影響?」

「? ううん、元々私達地天使の居住区域は山岳地帯が主だから。人間の転落死とか凍死は結構見てて詳しいんだよね。大体何メートル位から落ちたら頭がひしゃげるとか、内臓破裂するとか。でもさぁ、私達浮遊できる天使からみると、転落死とか遭難死って結構マヌケだよね」

見た目天然、和み系の彼女の口から出た言葉とは思えない。そこにいた全員が、彼女に対するイメージが崩れていくのを感じた。特に前から彼女を知っている三人の心境は複雑極まりなかった。

(道理で千慧姉と合うはずだよ………)

(ヴァイスさんと同じで、結構中身は違うんですのね……)

(……まぁ、いろんな天使がいるってことだな)

「ま、まあともかく!せっかく皆さんいらっしゃることですし、私の家でゆっくりしてらして下さいな。直人さんにも少しインタビューとかしたいですし」

「あー………それが目的?」

直人が相変わらずのどうでも良さげな態度でみゆりを見た。

「まったくー。みゆりってば仕事になると強引だよね」

「そうだぞー。その情熱をもっと恋愛にだなぁ」

「そ、そのことはもういいじゃありませんの!」

みゆりは真っ赤になって言い返す。やっぱり中学生だなぁと真由美はみゆりを可愛く思った。

「直人さんはいいんですか?勝手に決められて」

シェルが気をきかせて直人に聞くが、彼は今さら拒否るのもめんどくさい、といった顔をした。

「あー………うん。どうせ暇だし。それよかフルーツ牛乳ある?あれ好きなんだけど」

「フルーツ牛乳?!」

フルーツ牛乳なんて、普通の家庭どころかスーパーにだって中々置いていないんじゃないか。そもそもフルーツ牛乳が好物という人はあまりいないような……。もしかして無理やり連れていかれる嫌がらせだろうか?

しかしみゆりは気にする風でもなく

「一階のオフィスの自販機にありますから、買ってから三階に上がりましょう。皆さんも飲みたいものが有れば言ってくださいな」

そうして大通りを通って無事みゆり家に着いた彼らは、一階でそれぞれ好きな飲み物を(みゆりのおごりで)買ってから綾子たちのいる部屋に向かったのだった。

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