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嵐の前の静けさ?~其の三~

 時は少し遡る。

 真由美は学校から帰り、部屋に鞄をドサッと置いてベッドにダイブした。

「はぁ~~、やっと春休みだよー」

 今年高校二年の真由美は、旅から帰って即、勉強漬けの毎日に追われていた。

 前回旅をしていた期間は一月も無かったのだが、その間学校に行っていなかったので出席日数がヤバイことになっていた。今にして思えば、夏休みや冬休みじゃなく十月に家を出た自分はかなりのアホだ。

 もともと真由美は思い立ったが吉日というか、後先考えずに行動する所があり、自分でもある程度自覚していた。もしかしたら血筋かも、と思うとなんだか嫌になってくる。

 それでも東国の学校は西国ほど厳しくないのでまだ良かった。冬休み中に、休んでいた分の課題を提出すれば無事進級させてくれるというのだから。お陰で冬休みは丸潰れだったが、西国なら即留年だっただろう。

 そんな冬休みも終わり、やっと春休みが来た。今度こそゆっくり出来る、と浮かれる真由美にシェルが一言。

「そんなに上手くいくわけないと思うんだけどね」

「ちょっと、どーしてそう水指すようなこと言うの」

「だってー」

 シェルが真由美のベッドの上で頬に手を当てて、尚も言い募ろうとしたところで

「きゃー!大変!大変よ真由美ちゃん!」

 と一階から母の叫び声が聞こえてきた。

「なーに、もーうるさいなぁ」

 真由美が階段を下りて居間に行くと、母が紙切れを持って立っていた。

「これみて、真由美ちゃん!」

「? 何、この紙………」

 そこに書かれていたものは。

『天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!ってワケで旅に出るわー。by平成のドラえもん』

「…………………何、コレ」

 全く以て意味不明の書き置きを見て、真由美は唖然とする他なかった。

「大変だわ!家出よ家出!真由美ちゃん、ちょっと行って連れ戻してきて!この紙今朝まではなかったから、多分まだその辺にいると思うの!」

 母はかなり取り乱して、真由美に無理難題を押し付けた。

「はぁ~?!その辺ってどの辺よ?大体あのバカ兄貴なら心配しなくても大丈夫だって!てゆーか連れ戻した途端また行方眩ましかねないから!」

「でも、この前旅に出てた時だって、ずっと大学病院に入院してたらしいじゃない。心配よ、今度こそ何が起こるかわからないのに……。それに、真由美ちゃん今春休みだしゆっくり捜してきて大丈夫よ!今は魔物もいないし、お母さん貴方なら安心して旅に出せるわ。春休み中に見つからなかったら帰って来ていいから」

 母の要求は更にエスカレートした。かなり無茶苦茶である。春休み中は帰って来るななんて、酷すぎる。

「なんで私があのバカ兄貴を捜しに行かなきゃなんないのよ?しかも貴重な春休み潰して!」

「どうしてそんな悲しいこというの?春休みは来年もあるけど、お兄ちゃんは一人しかいないのよ?」

 母は顔を曇らせ真由美を見た。

 確かに前回世界を救うとか言って魔物のいる西国に行き、三年も帰らない心臓の悪い兄を、真由美も心配してはいた。が、今回は魔物はいないし、特別旅に出る目的もないのだから、案外あっさり帰ってくるんじゃないかと思っている。

 だが、母は実の息子の身が相当気になるようだ。それが母というものなのかもしれないが。

「わかったよ。行けばいいんでしょ、行けば」

「ありがとう、真由美ちゃん!」

 真由美の承諾の言葉に、母の顔はパッと明るくなった。

 そうして翌日の早朝、またも真由美は旅に出ることになったのだった。


 ☆ ☆ ☆


「―――だから言ったじゃない。そんなに上手くいくわけないって」

 大森林を歩きながら、シェルが真由美にそれ見たことかとばかりに言った。

「…………あのバカ兄貴………会ったら絶対殴ってやる」

 どこかの誰かと同じ事を言いながら、真由美はこめかみに青筋を浮かべた。

 このままでは自分の人生が兄の犠牲になってしまう。私は兄の目付け役じゃないんだ。

 これじゃあ『兄を訪ねて三千里』である。

 苛々しながらガナの大森林を進んでいくと、ふと前方に真っ赤なスポーツカーが停まっているのが目に留まった。

(…………いやいやいや、おかしいだろ)

 と目を点にする真由美。この森は車が通れるような道がついているわけでは決してない。樹海よりマシという程度の場所なのだ。

 しかも、車といえば主な製造国が西国である。それも魔物が現れ始めてからは町の外に出る人間自体が減少し、ほとんど作られていなかった。最近また少しずつ作られるようになってきたが、どうして西国のものがこんなところにあるのか甚だ疑問だ。しかも見たところ最新型の車が。

 真由美は近くまで寄ってその車を覗きこんだ。そして運転席に乗っている人間を確認して、大仰に目を手で覆ってしゃがみこんだ。

「…………なんっで、こんなとこにいんのよバカ兄貴ーー!!」

「……………………………ん?」

 真由美の大声で、いつもの如く大イビキをかいて眠っていた、妹曰く『バカ兄貴』がムクリと起き出した。

「ふぁーぁ。よく寝たー………」

 大イビキの次は大欠伸だ。真由美は兄ののんきっぷりにいい加減ブチギレ寸前になった。今ここに一味唐辛子があったら、そのでかい口の中に全部ぶちまけてやるのに。

 あいにく彼女はそんなものは持ち歩いていなかった。

「…………あれ?今何時?……………12時!?って、もしかしてもしかしなくても…昼の?」

 腕時計で時間を確認した博は素っ頓狂な声を上げた。いくら森の中で辺りが少し暗めとはいえ、空の陽は高く明るいのだ。昼に決まっている。

「……………お兄ちゃん寝ぼけてるの?それとも冗談のつもり?」

 聞いているのかいないのか、博は一人で騒ぎだした。

「うっそ、マジで~?!おい真由美ー、どうしてもっと早く起こしてくれなかったんだよー。丸一日寝ちゃったじゃん。連続睡眠時間自己最高新記録出しちゃったよ。………あ、もしかしてこれってギネス載るんかな?それってある意味すごくね?あーでもやっぱ載るんなら和萄のドラえもんがいいなー。偽名使うのもアリなんかな?」

 毎度の如く理解不能なバカ兄貴の思考回路。そしてそれにまんまと乗ってしまうシェル。

「ギネスってなんですか?」

 ギネスが何か以前に何故新車がこんな森の中に無傷であって、しかもそれにこのバカ兄貴が乗っていて、その上丸一日寝ていたのか、疑問はないのか。

「ギネスってのはな――」

 そして何故か得意気に説明を始める博。

(この二人の組み合わせって……どうなの?!どうなの?!)

 かなりヤバイんじゃないか、と真由美は自問自答した。

「そんなことより!人の質問に答えなさいよ!なんでこんなとこにいるのって聞いてんの!」

「……………なんでだろ~♪なんでだろ~♪」

 博は一昔前のお笑いタレントの歌を歌い出した。

「ワケわかんない歌、歌うなー!!」

 真由美が大声でバカ兄貴の歌を中断させる。すると博はあらぬ方に視線をちらほらさせて黙りこんだ。


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