嵐の前の静けさ? ~其の十一~
「望月くんと言えば、みゆりさんに伝言を預かっていたんでした。何でも、今度の日曜家を訪ねてきなさいとか。何かあったんですか?」
到の言葉にみゆりは頭がぐるぐるしてきた。
「え…っ。た、確かにこの間の結婚式の時に、落ち着いたら家を訪ねなさいと言われましたけど…」
「……………あんたまさか、それで行ってなかったんじゃないでしょうね?」
リーナがここぞとばかりに恋愛の先駆者的立場を気取る。
「それが……実は私、望月さんの連絡先を聞いていなかったもので……。いきなり押しかけるわけにもいきませんし……。そうこうしてるうちに半年経ってしまったという感じで……」
みゆりがリーナの気迫に押され、しどろもどろに答える。
「ばっっかじゃないの!?そんなの理由になんないわよ!!来いって向こうが言ってんだから、押しかければいーじゃない!!そんなだからビミョーな関係のままなのよ!!」
「う……」
リーナの言い方は確かにキツイが、それが図星だとみゆり自身解っていたので返す言葉もなかった。
「微妙な関係っつーかむしろ後退してんじゃねーのか?フツー家に来いって言って来なかったら関係悪化するだろ」
「まーな……。俺は家に女上げないからよくわかんないけど、あんまよくは思わないな……」
男性陣(博と直人)の意見にみゆりも本気で狼狽える。
「えっ、そ、そんな」
「大体、電話番号なんて簡単に調べられるじゃん。望月くん家庭教師やってんでしょ?その辺から当たれば楽勝だよ。それにみゆりちゃんち出版社なんだからさ、その気になれば経歴とか過去とかも全部調べられるんじゃない?」
スィフトも現実的な事を言うが、みゆりなら本当に出来るだろうと思う分、最後の言葉が恐ろしかった。
「確かに、私に調べられないことはありませんけれど……。でもそういう個人情報は悪用しないようにするため、よっぽどのことがない限り、仕事以外では調べないようにしてますの。それに、本当に聞きたいことは本人に聞くのが一番ですし」
みゆりにはみゆりなりに仕事に対してのモットーがあるらしい。だが全然知らない人間に対してならともかく、以前からの知り合いで、しかもしばらく一緒に旅に出ていた仲間の電話番号を調べることが、そんなに悪いことだとは思えない。他人の情報を握れる力のある仕事に就いていると、どこからがよくてどこまでがダメなのかわからなくなるものなのだろうか。
「…………とにかく、日曜は必ず行くのよ?寝坊とかしてすっぽかすような事しちゃダメだからね?」
「寝坊はしないと思いますけど……。けどっ。一人暮らしの男の方の家に行くって、何をしたらいいんですのっ!?掃除とか料理とか……そういったことをした方がいいのかしら!?ああでもっ、望月さんは掃除きちんとしてそうですしっ。大体彼女でもないのにそこまでしたらやりすぎかしら!?年の差とかありますし、望月さんは私のことなんとも思ってないのかもしれませんけど、でもただ居るって言うのも……。ああ、本当に頭が混乱しますわ!」
みゆりの台詞から相当テンパってるのが見て取れた。おそらくみゆりは学校でも特別男友達が多いとかではないのだろう。免疫がない上に、大人の男で自分が憧れている相手から家に来いと誘われたら、そうなるのは当然かもしれない。
「………………ゆっきーってさ、女心に鈍感なところがあっきーそっくりだよな」
「それと顔な」
博と直人は、幸広の兄・明人が瑚湖にプロポーズした時の事を思い出して苦笑いをした。明人がむちゃくちゃなプロポーズをしたお陰で、あの時の瑚湖もみゆり同様、かなりテンパって叫びまくっていた。博が後押ししてやらなかったら、あの二人は結婚していなかったかもしれない。
今にして思えば、どうして彼らより年下の、しかも当時十五歳の自分が、よりにもよって結婚についての相談にのってやらなきゃならなかったのかさっぱりわけがわからないが、要するに二人がしっかりしていないからああいうことになったわけで。
「はぁ~。俺ってホント人が好いよな。愛のキューピッドってやつ?」
「おまえ、普段ふざけてるくせに芯はしっかりしてるからな」
「そうそう。見た目より老成してんだぜ~、俺。だからさぁみゆり、俺ホントゆっきーとのこと応援してやるから!ゆっきーにも女の一人や二人いた方がいいに決まってんだし」
博が腕を組み、うんうんと頷いた。
「二人もいるかっつーの!」
真由美がツッコミを入れる横で、博は到に
「ルシフェルもなんか悩んでるよーだけど、そっちの方は任せたぜ。それはあんたが聞いてやった方がいいと思うし」
と耳打ちした。到は驚きルシフェルの方をちらりと見た。今まであまり気にしていなかったが、博の言う通り、僅かだが以前と感じが違う。どうかしたのだろうか。
到がそう心配していると、
「わ、わかりましたわ……。覚悟を決めて、お宅訪問してみます!」
とみゆりが手をぎゅっと握りしめ、意気込んで宣言した。
覚悟って。
それ使い方違うから、と再び真由美のツッコミが入った。
☆ ☆ ☆
「………………とんでもないことになった…………」
天界のクリスタルタワーにて。
ミカエルと友美ーーいや、ラファエルは苦渋の顔でお互いを見合った。
「まさか、カケラを集めているヤツがいるなんて………!」
カケラを集める、つまり触れられるということ。それはーー
「我々と同等の力を持つ者が……存在するということか。何が目的かは知らんが、なんとしても奴らの持つ七つのカケラを回収し、残り五つを守り通さねば。至急聖戦士たちに連絡だ!!」
前世で最高神として君臨していた彼は、荘厳な蒼い瞳を地上に向けて、静かに、けれども強い口調でそう言った。




