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嵐の前の静けさ?

 ーークロウとの戦いから半年後のある日ーー

 到は情報都市の国立図書館にいた。もちろん消された歴史について調べるためである。

 彼は幸広と比べて、圧倒的にその時代について無知だった。というより、知ろうとすればするほど、どんどん謎が深まっていく。

 たとえば彼が持っていた魔石。確かに魔気を感じたし、見た目も紫色で自分がチェイニーからもらったものと同じだった。

 だが、持った瞬間にそれは全くの別物だと解った。

 自分の魔石に比べて随分重いのである。魔石を作る能力があるのはチェイニーだと聞いたが、わざわざ重い魔石を作る必要があるとは思えない。

 だとしたら、これは一体?

 到は自宅で両方の石の性質を調べてみた。すると驚くべきことが判明した。

 到の魔石の性質は地球上にない物質だと解った。それは元々地上になかった光玉から造られた物質だから、不思議なことではない。

 おかしいのは幸広の持っていた魔石の方だった。魔石の使われている石の性質はーーアメジストだった。

 つまりこれは、魔石として造ったものではなく、アメジストに魔力を加えたものなのだ。

 (だとすると、チェイニーさんが造ったものじゃないことは明白…。造り方そのものが違う。おそらくこれを造った人は魔石自体を造る能力はなくて、多種の性質を融合させる能力があるんじゃないのか?)

 今思えば制御タワーでも、チェイニーは幸広が魔石を持っていると知らないようだった。だからラファエルも魔石を持っている幸広に警戒していたのかもしれない。普通はもっているはずがないのだ。千年前に地上から魔石は全て回収したのだから。

 ということは、これは魔石が全て回収されたあとに造られた確率が高い。おそらく砕けた光玉ーー星のカケラをいくつか集め、その魔力を使い造ったのだろう。

 三神の中に融合させる能力を持つ者はいないようだし、もしや彼ら以外にも光玉を扱える存在がいるのだろうか。

 制御タワーでも、幸広はタワーがすぐに爆発しなかったことに対して「あの人が動いている」と言っていた。それは「あの人」と呼ばれる人が何らかの手を加えて、爆発しないように配慮したということじゃないのか。おそらくその魔石を造った人物が、装置と擬似エネルギーをギリギリの所まで融和させていたーー。

 だが、肝心のあの人とは一体?

 そう思い、学者専用の国家機密情報閲覧室で、手当たり次第に机に資料を山積みし、座って一冊ずつ調べ始める。

「ほぉ。熱心だな」

 突然の声に顔を上げると、そこにいたのは幸広だった。

「望月君!? どうしてここに!?」

「調べものがあったからに決まっているだろう」

 と、彼は到が持ち出した書物の山を見て、眉を潜めた。そして適当に手にとってパラパラめくりだした。

「ふむ。やっぱりそうか…」

「何がやっぱりなんですか」

 彼が至極真面目な顔で言うので、到は気になって尋ねた。だが。

「いや、私の史書ほど役に立つ情報はなさそうだと思ってな」

「なんですか、それ! 人が必死で調べているって言うのに、バカにしに来たんですか?!」

「いや、そういうつもりじゃないんだが。というか、誰も教えないとは言ってないんだから、私に聞けばいいだろう」

 到は少しムッとした。

「だって今まで濁してたじゃないですか」

「それは、どこで誰が聞いているかわからんからだ。あまりいい話ばかりじゃないからな」

 彼はそう言って辺りを見回した。ちょうど今は到と幸広以外誰もいなかった。

 そういえば、千年前の戦いの話をした時、ラファエルが一度泣きそうな顔をしたのを覚えている。シェルやヴァイスも聞きたくない話があるかもしれないし、彼らの前でそういう話をするのはタブーということか。

「それに、あまりいっぺんに話してもしょうがないと思ったんでね。あの時はクロウを倒すのでいっぱいいっぱいだっただろう?まあ、だからこそあの戦いが作られたわけだが」

「作られた……? !!まさかそれって」

 全てを理解するのに、到にはその言葉だけで充分だった。

 時天使ネサラが二度戦いが起こることを予言した。二度目の戦いは、クロウとは比べ物にならないほどの強大な存在が現れると。


 だから。


 二度目の戦いで勝機を得るために、ノエルはクロウを〈わざと〉封印させた。

 その為に、千年前ヴァイスが生きていると知りながら、それを隠していた。そうすればシェルやラファエルが、クロウを倒せなくなるだろうと踏んでいたから。そしてもうひとつ、そうすることで千年後の今、ヴァイスとシェルの力を残そうとして。

「……前回のクロウとの対決は、これから現れる強敵に勝つための練習台。そういう風にノエルさんが用意した……ということですか」

「さすが察しがいいな」

「冗談じゃないですよ! どうしてそんなことが出来るんですか?! 自分の行為を正当化しているようなことを言ってますけど、結局は彼のせいで起きなくてもいい戦いが起きたんですよ?!」

 到は怒りに身を震わせた。幸広はそんなノエルに賛成だと言うのか。

「どちらが正しいかは私にはわからん。ただ選べる道は二つだった。あの場でクロウを倒して、千年後いきなり何の準備もなしに、神々と同等の力を持つ強敵と負けるとわかりきっているような戦いをするか、例えクロウとの戦いで何千という命を失っても、次の戦いで全ての人間が死ぬよりいいと、クロウを聖戦士の練習台として使うか……。そしてノエルが選んだのは後者だった。ただそれだけのことだ」

「神々と同等の力を持つ、ですって? もしや望月くん、その強敵に心当たりでもあるんですか?」

 彼の言い回しがなにか引っ掛かったのだが、幸広はそれには答えず視線を到から外した。

「……しっ。誰か来る」

 小声でそういい、資料を見ている振りをする。すると、IDの必要な厳重な扉を開けて、どこかの学者らしい男が入ってきた。

「……続きはまた今度だな」

「その〈今度〉がいつになることやら……。あまり期待しないで待っていた方が良さそうですね」

 到は中途半端に話を聞いたせいで、消化不良のような気分になった。それは自分のように知的好奇心旺盛の人間にとって、どれだけ気分の悪いことなのか、幸広は全く解っていないのだろう。

「そんな顔するな。私のせいじゃない」

 幸広は到の恨めしげな視線に溜め息を吐いた。

「おい、おい。到に幸広」

 その時、囁くように小さな声で名を呼ばれた。この声はルシフェルだ。到にはすぐわかった。声のする方に目を向けると、ルシフェルが資料の書物に隠れていた。

「やっぱここだったか。いや、リーナと二人で到に会いに家まで行ったんだけどよ、優美が国立図書館に行ったって言ってたからさ」

 ルシフェルは久し振りに到と会えて、顔を綻ばせた。

 ルシフェルとリーナは式の後、人との共生より自然の中にいたいと到や綾子の元を離れ、ここ半年リーナの兄の実家近辺の北方にある森で暮らしていた。それゆえ式の後から今まで、到は元より他の仲間ともずっと会っていなかったのだ。

「大変だったんだぜ、その辺の学者に引っ付いてばれないようにここまで来るの。下手に到待ってたら、明日の朝になっちまうからな」

「それは言えてるな」

「二人とも、いくら僕でも閉館時間には帰りますよ」

 到が冗談だとわかりつつ、わざと真面目に返した。ルシフェルとこういう冗談を言い合うのは本当に懐かしかった。

「そんでさ、とりあえずリーナをみゆりんちに預けてるんだけど、綾子も来てるらしいし、二人ともこれからいかねぇ?」

 そういえば彼女たちとも一月くらい会っていない。

「そうですね、ここにはいつでも来れますし」

「あー……悪いが私は午後から仕事でね。今回は遠慮しとくよ。そうだ到。みゆりの家に行くのなら、伝言を頼まれてくれないか?今度の日曜私の家を訪ねなさいと」

「…はぁ。わかりました」

 なぜ彼がそんなことを言うのか気にはなったが、まず間違いなくデートの誘いではないだろう。こんな時博ならふざけてどういうつもりか聞き出すのだろうが、それも可哀想な気がしたのでやめておいた。

「……天地がひっくり返ってもありえないですよね」

 到は思わずボソッと呟いた。それを耳ざとく聞いた幸広がきょとんとする。

「? 何のことだ?」

「いえ、別に。それじゃあ僕達はこれで」

 到はルシフェルを鞄に隠し、閲覧室を後にした。

 二人が出ていったのを確認してから、幸広は到が置いていった資料をまた見直して、眉根を寄せた。

「…………そう、だろうな。そうであることが必然……。だが」

(彼らが選んだ道は、それで良かったのだろうか。ノエルに利用されているとも知らず、あの人は……)

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