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魔王オレ、只今異世界で奮闘中!  作者: 秤 猿鬼
第一部 異世界で魔王
24/24

24話 終章

 旧ストラミス王国の領土であった地。

 その南西部に広がる広大な領地、ユガート領。


 かつてはストラミス王国の一所領であったユガート領だったが、先の帝国侵攻の際にユガート領主が裏で帝国側に便宜を図った事によって皇帝から近郊の所領をまとめ、統治する事を許された。


 今は帝国の辺境領となったユガート領は、かつての王国の領土の三分の一の大きさを誇る。


 その広大な所領の中心地となる領都イズマラクに、領主メルキオ・ユガート辺境伯が居を構える大邸宅があった。


 その大邸宅は市街戦も想定してなのか、周囲には高い石壁と水の張った堀に囲まれており、多くの兵士らが見張りに立つその様子は、ちょっとした砦のような様相だ。


 厳重な警備の大邸宅内は数多くの部屋に加え、様々な豪華な調度品や美術品に溢れており、ユガート辺境伯のその権勢を窺い知る事ができる。


 そんな大邸宅の中の一室に二人の男の姿があった。

 一人は贅を懲らした椅子に腰を掛けた、身形のいい初老の貴族の男。


 白髪が多く混じった髪に、にこやかな笑みを湛えた姿は好々爺の印象を抱かせる。

 しかしその初老の男が纏う雰囲気は表情に反して穏やかではない。


 そして初老の貴族の男が向ける視線の先──邸宅のテラスへと続く大きな窓辺から展望できる庭園を眺めながら、もう一人の男が薄い笑みを浮かべて立っている。

 年齢は三十歳頃の男で、二メートル近くある身長と筋骨隆々とした体躯。


 初老の男程ではないが設えのいい衣服に身を包み、赤茶の短い髪と口髭、顔と袖を捲り上げた両腕に幾つもの古傷が見てとれる。

 その纏う雰囲気は間違いなく歴戦の戦士のそれだ。


 そんな身形のいい巨躯の戦士の男が外に広がる庭園から視線を外して、初老の男に振り返った。


「未だに潜伏を続ける元ストラミス王国の王子の行方──いつになれば判明するのですかね?」


 戦士風の男は放つ言葉は丁寧ではあるが、その声には紛れもない圧が込められている。

 だがそんな男の問いに初老の男は動じた様子を見せず、にこやかな笑みを僅かに崩して眉尻を下げ、ほとほと困っているというような表情を作って見せた。


「申し訳ありません、ロンダル殿。陛下より仰せつかっているその件ですが、彼の者はなかなかに尻尾を掴ませず、未だに行方が掴めておりません。今しばらくの猶予を頂けますと幸いです」


 初老の男のその言に、ロンダルと呼ばれた男がその眉尻を僅かに上げて彼を見返す。


「王国が倒れて既に四年、逃亡した王子の尻尾すら掴めないと、そんな申し開きを陛下の前でするつもりか? おかげで未だに反帝国を掲げる馬鹿どもが各地にのさばる始末。如何な寛大な陛下であっても、我慢の限界というものがあるぞ、メルキオ・ユガート辺境伯」


 ロンダルのその返しに、初老の貴族──ユガート辺境伯は僅かに肩を竦めた。


「しかしそう申されましても、王都攻めの際に王子を取り逃がしたのは私ではありませんし、当時討ち取った者が王子の身代わりであった事が判明したのは随分と後になってからで御座います。我々としても領地であるユガート領を始め、近隣にも捜索の手を伸ばしておりますが、反帝国勢力を抑えつつではなかなか思うようには……」


 そこで一旦言葉を区切ったユガート辺境伯はやれやれといった風に(かぶり)を振る。

 辺境伯のその言いようが癇に障ったのか、ロンダルが声を荒げた。


「貴様! 二等臣民の分際で、王子の逃亡は我ら帝国軍の失態だと宣う気か!?」


「これは可笑しなことを仰いますな。私共ユガートの領民は先の王国侵攻の際の褒賞として帝国臣民としての扱いを約束して下さると、皇帝陛下よりの御言葉を賜っておりますれば。よもやアルドバーン帝国の四英雄であらせられるロンダル・グラエント殿がお忘れとは言いますまい」


 ユガート辺境伯が自身の白髪交じりの髪を撫でつけながらそんな言葉と共に笑みを浮かべると、ロンダルは眉間に皺を寄せて向かいに座る初老の男を睨めつけた。


 しかし彼が指摘した事が正しかったのか、ロンダルは口をへの字に曲げて視線を逸らす。


「ふん、だが皇帝陛下の恩寵も帝国が盤石であってこそだという事も事実だ。件の王子が我らの追跡を逃れ潜伏し、旧ストラミス王国内では反帝国勢力が力を増しつつある。それを知ってか、今まで大人しかった占領下のテオやサンテルマンでも動きが出始めている。だが、連中は思い違いをしている。そうだろ? ユガート辺境伯」


 そう言ってロンダルは口の端を吊り上げて不敵な笑みを浮かべる。

 彼のそんな迫力に圧されたのか、ユガート辺境伯の喉が微かに鳴った。


「連中は帝国の支配を受け入れると表明したからこそ、陛下の恩寵によって生かされているのだ。しかしこれ以上、帝国に不利益を齎すと言うのであれば、帝国軍は全力を以てテオ、サンテルマン、ストラミスの占領地の全領土を完膚なきまでに叩き潰す事も吝かではない。今の帝国にはそれだけの力がある」


「……しかしロンダル殿。それでは戦火に巻き込まれた民衆に多くの被害が出る事になりますよ。無辜の民に多くの犠牲が出れば、ウェルハネス神聖国も黙ってはおらんでしょう」


 ロンダル・グラエントが語るそのあまりにも乱暴な発言に、ユガート辺境伯は懸念の言葉を漏らし反論を試みるが、相手はそれまで逸らしていた視線を戻して小さく笑って見せた。


「ユガート辺境伯もお忘れではないかな? 皇帝陛下は魔族共から聖地を奪還するという崇高なる大義をお示しになっておられる。そんな陛下の願いを同じ人間が阻もうとするのば魔族に加担するという事と同義と見做されても仕方がない……。ウェルハネス神聖国も流石に魔族共に加担する者達にまで慈悲を示される事はあるまい」


 その言い分にユガート辺境伯は眉根を顰めて押し黙った。

 彼のそんな態度に満足したのか、ロンダルは口の端を歪めて口髭を撫でる。


「そうならないように、せいぜい王子探しに力を入れる事だな」


 そう言い終えると、彼は部屋を出ようと踵を返した所で扉が扉の外から侍従の緊急を告げる言葉が齎された。

 辺境伯は一度ロンダルの方を見やるが、すぐに侍従を部屋へと入るように声を掛ける。


「ロンダル様、バララント要塞指揮官補佐のロドハン・グリオルム大佐より至急の知らせが参りました。こちらがその書状になります」


 部屋に足早に入って来た侍従は、主であるユガート辺境伯に書状を手渡す。

 辺境伯は丸められた書状に押印されている封蝋を確かめた後、それを破って中の書状の内容に目を走らせて、思わずその目を見開いた。


 彼のそんな態度が気になったのか、それまでのやりとりを静観していたロンダルが口を挟んだ。


「魔族との前線にあるバララント要塞から至急の知らせとは何だ? 辺境伯」


 その声に促されるように辺境伯が書状から顔を上げる。


「前線であったカドナ砦がたった一人の魔族の手に因って陥落したとの知らせです。こちらはまだ未確認のようですが、もう一つの前線砦であったロアン砦も落とされようだとも。この事は陛下の方にも至急の知らせを向かわせているとの事ですが、同時にバララントの防備を固める為に一番近くに逗留しておられる四英雄のロンダル殿には応援に入って頂きたいと」


 ユガート辺境伯の語った内容にロンダルは一度驚きの表情は見せたものの、すぐにその表情を愉快そうな笑みへと変えた。

 そして徐にその懐から一つの虹色の輝きを放つ宝玉を取り出す。


「ふっ、皇帝陛下よりお預かりしているこの“英雄の剣”バルバストールはもともと対魔獣、対魔族の為にと渡された物だ。修練の相手にもならぬ反勢力の相手にも飽いていた所。たった一人で砦を落したというその魔族、恐らく先の魔族掃討戦の折に奪還し損ねた“英雄の剣”を所持する者だろう。ならば相手にとって不足はない!」


 そう言って、彼は自らの手の中で転がる宝玉を掲げて不敵な笑み浮かべる。

 彼の手の中にある宝玉には、複雑な魔法陣が内部に閉じ込められており、その中心には「午」の文字がくっきりと刻まれていた。


 その宝玉を愛おしそうに眺めていたロンダルはすぐに表情を戻す。


「ユガート辺境伯には引き続きストラミスの王子の行方を捜索願いますよ。私が魔族共から“英雄の剣”を奪還して凱旋するまでに、行方を明らかにしていただきましょうか。では、失礼」


 ロンダルはそれだけを言い終えると、すぐに部屋の扉を勢いよく開け放ち、そのまま足早に立ち去って行く。そんな彼の背中を見送りながら、辺境伯な今一度、手元の書状に視線を落とした。


「しかし、この砦を落としたという魔王なる者、如何な四英雄の一人“破岩のロンダル”と呼ばれる彼でも一筋縄でいくとは思えませんがね。私としてはもう一悶着程あれば助かるのですが、いやはやどうなる事でしょうかね」


 ユガート辺境伯そんな独り言を呟くと、部屋の大きな窓から外の景色へと視線を移した。

 その彼の視線の先では、晴れた空の奥から淀んだ暗い雲が押し寄せて来ていた。


とりあえず第一部、終了です。


書いていて色々と反省する事しきりで、もしかしたら第二部再開前に大きく改稿して投降し直すかも知れません……。

「骸骨騎士様」よりイベント進行のテンポが遅いという指摘があり、少し構成やらを見直そうかと。


そしてしばらくは「骸骨騎士様」の9巻の執筆に移るので、気長にお待ち頂けますと幸いです。

これからもよろしくお願い致します。m(__)m

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[良い点] ピラミッドの聖地で森族はエジプトの神々なのでしょうか?王の器もきっと十二支なのかな?楽しいです [一言] 面白く読ませていただいてます。続きが気になります
[良い点] なかなか面白いです 続きが気になります
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