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【5話】予想外の出会い


カランコロン

扉の上に付いた鐘が鳴る。

お客様が来店されたのが分かりやすいように。


その音を聞いて、私は瞬時に口を開く。


「いらっしゃいませ!」


奥の厨房から焼きあがったパンをカウンターに置かれれば、即座にそれを装備して、


「こちら焼き立てでございます!よろしければおひとついかがでしょうか~」


と、満面の笑みも勿論忘れずに。


お客様がお会計をするのなら、


「こちら3点で850Gでございます。850G丁度お預かり致しました。ただいまお包み致しますので、少々お待ちくださいませ!」


と、言いながら素早く手を動かして、


「ありがとうございました!またのご来店お待ちしております」


と深々とおじきをしてお見送り。


完璧。

我ながら、12歳でここまで出来たら凄いと思う。

まぁ中身は20超えた接客業経験者だから、出来て当たり前なんだけれどね。


残念なのがこのお店、来るお客様がほとんど同じ人なところ。


あ、常連客しか来ないんじゃないからね。

同じ姿のモブしか来ないって事。

だから店内に同じ人しか居ないとかよくあるし、それって結構不気味だったりする。


あと同じモブでも、買う物が違うとかある程度の個性はあるのかなぁとか、はじめの方はちょっとだけ期待していたのだけれども……。


うん、まぁ、同じだったよね!


だからだいたい常にお会計850Gだし、同じ物しか売れないから在庫が偏る。在庫が偏ると、一部の材料だけが極端に減る。


そうすると、とあるイベントが発生するのだ。


それは、


「■■■、チャチャの葉の粉末が無くなってしまったから、商店に行って30個程買ってきておくれ」


ズバリ、お使いミッション。


流石に材料自動補給じゃないみたいで、使ったら使っただけ無くなるから、3日に1回くらいのペースで店主さんから頼まれる。


毎回同じ物を、毎回同じ量。


ちなみに■■■って言うのは、たぶん私の名前……だと思う。信じたくないけれど。


名前欄【女A】だけれど、女Aとは呼ばれなかったから、私には■■■って言った名前があるのだ。

発音の仕方は…………ごめんちょっと表現出来ない。強いて言うのならムニョムニョムニョだから、まだ私が正確に固定名をGETしていないせいで、そうなっちゃっているんだと思いたい。


断じて私の名前は、■■■《ムニョムニョムニョ》じゃない!


あとチャチャの葉の粉末は、抹茶みたいなやつ。

同じモブがお茶パンみたいな商品、チャチャパンばかり買って行くから、チャチャの葉の粉末だけが異常に無くなるのだ。


ってな訳でお使いミッションが発生したので、いつも通りチャチャの葉の粉末を買いに外に出た、のだけれど……。



現在私は、お店近くのちょっとした物陰に隠れています。

お使いミッションもつつがなく終わり、店に帰ってきたら見掛けた事のない人が立っていた。

目もばっちりあるし、そもそも他のモブと違って明らかに見た目の個性が強い。


しかも割かし大きい声で、


「ねぇバル~?邪魔じゃないここ。ここがあるから景観悪いんだよね~」


と、隣に控えてる側近みたいな人に言っている。


羨ましい、あの人CV持ちじゃんけ。

と、歯ぎしりしたところで私は気が付いた。


ちょっと待って、あの人達見た事あるぞ。

見たことあるって言うか、一方的によく知っている。


「邪魔だから消していい?」

「お待ちください殿下」


1人は髪から服装までとにかく全身白い、真っ白け。如何にも高貴な雰囲気を纏った、見た目年齢16歳くらいの男。

そして側に控えるは、ちょっと頭硬そうな片眼鏡を付けた深い青色をした髪の青年。


共に驚く程、顔面構成が整いきって完璧に形成されている。そう、まるで乙女ゲームの攻略対象のように。


あの白い方レイで、後ろの堅物そうな側近絶対ヴァルデじゃん!!


アシュレイ・スティロアビューユとヴァルデ・ベルクじゃんか!!!!


私は慌てて頭の中をフル回転させて、この世界ーー【フォーチュンラブ❤︎アドベンチャー】のことを思い出した。


まずヒロインは使用人。だいたいの事を全て1人でこなせてしまえる、完璧人間。


で、そんな主人公と恋に落ちる攻略対象キャラが4人居る。


1人目。

このゲームで絶対に外せない最重要人物。

【ツェル】

主人公が王宮で出会う、黒ずくめの謎の少年。


初めてプレイした時に、OPで初っ端からショタ降臨しただけでも驚いたのに、そのショタがまさかの攻略キャラの中でも1番前に立つ人物。パッケージで1番大きく描かれているメインヒーロー様だったから、攻略を最後まで取っておいたのが思い出。

ちなみに初回限定版のパッケージは、主人公とツェルの2人が寄り添っていらっしゃるイラストだったから、メインヒーローほぼ確定で間違いないかと。


色々謎ではあったんだけれど、簡単に言うと【ツェル】って名前は偽名。

本名は、

【シャッテン・スティロアビーユ】

スティロアビーユってのが王族の苗字だから、まぁ早い話謎の少年は、色々あって姿が子供になってしまった王様でしたってオチだった。プレイしたての時から薄々気付いてたんだけれどね……。


次に、いまパン屋の前に居る側近、

【ヴァルデ・ベルク】


王の側近兼、王宮の使用人達の1番トップも担ってるくらい縁下の力持ちタイプ。別名、社畜。


色々と都合よく扱われるわ、仕事もわんさか任せられているわで、彼に休日は存在しているのか?ってくらい、共通パートでほぼ常に働いてばかりいた人。


その分ヴァルデルートに入ると、主人公に頼ったり弱さを見せてくれたり、ついうたた寝しちゃうくらい安心しているヴァルデとか。

仕事人間なのに主人公がピンチの時に職務を投げ出してまで真っ先に助けに来てくれたりと、なかなか美味しい展開が豊富に存在していたので、実は私が1番お気に入りのルートって、このヴァルデルートだったりする。


他に【幼馴染の騎士】と【後輩執事】が居るけれど、この2人はまたいつか説明するとして、問題はこの白いのだ。


なんでこの人が、街に出てきているのか分からないんだけれど……。


この白いのの名前は【レイ】。

レイって言うのは愛称で、本名は、

【アシュレイ・スティロアビーユ】


ツェルの時同様、スティロアビーユが付いているから王族の1人……と言うかややこしいんだけれど、元々王様はこの人だった。


ツェルの双子の兄で、ツェルとヴァルデ。

あと大団円と逆ハールートで登場して、エンディングによっては盛大に遺憾無く邪魔をし、時にはヒロイン攻略対象関係無く、躊躇いもせずに殺してくるRPGで言うところのラスボスキャラ。


生まれつき膨大な魔力を持っていたせいで残虐で我儘な性格になってしまい、そのせいで王になる前から色々酷い事をしてきた【悪王の噂】の原因ご本人。


早い話、あまりにも強過ぎて誰も逆らえないせいで、天狗になっちゃったのだ。


どのルートでも序盤は弟のツェルによって魔力を封印されていて、王としての地位も剥奪されていたから、週に1度、数分起きるか起きないかくらいでシナリオにはほとんど出てこない。

ところがルート中盤に入るにつれ、ヒロインが原因で魔力の封印が緩んじゃって、徐々に力を取り戻した結果、再び悪王としての猛威を振るうようになってしまいました!って、だいたいの流れがこんな感じ。


基本レイはどのルートでも、攻略キャラとの戦いの末に死亡するか国外追放されるか幽閉されるか等、徹底制裁の末路を辿る。


だけどBADを含めた全ツェルエンディングと全ヴァルデエンディングを回収すると、突然錠前に挿さった鍵を回す描写が現れて光った後に、レイルートが開放されて攻略出来るようになるのだ。


攻略対象は初めの段階で4人と明記されているし、レイはOPにも一切登場しなかった。

だから急に攻略可能になった時に驚いたんだけれど、すぐに乙女ゲームによくある展開だって理解した。


まぁ、所謂隠れキャラだ。


そんながっつり主要キャラの人達が、どうしてうちの店の前に居るのだろうって思ったのだけれど、さっきレイがなんか言ってたよね。


『邪魔だから消していい?』


って。

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