【47話】レイに事情説明/欠陥作戦練り直し!
「それでナイはヴァーレン公爵令嬢を乗っ取ったんだ」
「人聞きの悪い言い方しないでくれるかな?!」
私が憤慨すれば、対面する形で座っているレイが愉快そうに笑う。
「でも「下級貴族令嬢」の上位職が「光の令嬢:エヴェリーチェ」って、なんかこじつけに近いところない?その、なんだっけ?」
「自動お着替え機能」
「そう、それ!便利だよねぇそのスキル。職業変更するだけで、ヴァーレン公爵令嬢と寸分変わらない人間になれるんだから」
「レイは騙せなかったけどね……と言うかなんで分かったの?前は分かってなかったのに」
「それはだって……」
「だって?」
「まだ当分内緒」
「なんで!」
「あははは」
職業欄にエリーの名前を見付けたところまで、粗方レイに説明をした。
勿論、ゲームが〜とか主要キャラが〜とかは端折ったけれど。
「やっぱりスキルなのかな?これ」
「スキルだと思うよ?相変わらず属性は分からないけどね」
「レイはステータス見れたりしないの?」
私から見る私のステータス画面には、スキル項目が無い。他の人のステータス画面にはあるんだけれども。
もしかしたら、まだ伏せ字になっているところが「スキル」なのかもしれないけれど、現段階では自分のスキルは見れないのだ。
故に、「自動お着替え機能」がスキルなのかどうなのかを判別する手段が無い。
実際に目の前で「自動お着替え機能」を観察したレイに、「魔法みたいな何かを使ってる」と言われたのは記憶に新しいけれど、あれが魔法なのかどうなのかはまだ確定していないのだ。
私が見てるステータス画面と、鑑定士が見るステータス画面が少し違うと言うのを、エリーとレイの2人が証言していたから、誰かにステータスを見てもらえば分かるかもしれない。
そんな一縷の望みに掛けてレイに聞いてみたけれど。
「さぁ?やってみなきゃ分かんないけど、たぶん出来ないと思うよ」
レイの答えはNoだった。
「どうして?だってレイは全属性でしょう?」
「属性はね。でもスキルを全部持ってる訳じゃないから」
「違うの?」
全属性であれば、使えない魔法は無いと思っていたのに、どうも違うらしい。
魔法の基礎中の基礎すらまだ勉強途中の私が、すぐに理解出来る筈も無く、レイはそれを知っているからか、より詳しい説明をしてくれた。
「うん。鑑定魔法もそうだけど、例えば収納魔法とか、あと召喚魔法とか転移魔法かな?そう言う属性外の魔法はスキルに分類されててね」
「うん」
「スキルは基本習得しなきゃ使うことは出来ないんだよ。あとは条件を満たせば習得出来るスキルなら大丈夫だけど、潜在スキル……まぁ生まれた時から習得してたスキルだね。それはいくら魔力の条件が良くても、後から習得することは出来ないよ」
「そうなの?」
「うん、ナイは本当に魔法について何も知らないんだね」
「舞踏会の準備が忙しくて、ここ最近は魔法勉強会出来て無いからでーす」
「落ち着いたら再開するように言っておくね」
「ありがとう第1王子殿下」
これ見よがしにレイの前で拝むポーズを取れば、レイが嫌そうな顔をした。
なんでこんな顔をするのかは分かっている。
どうせ、
「「第1王子殿下って呼ばないで」」
そう言えば声が重なった。
「やっぱり」
「分かってるなら呼ばないでよ」
「ごめんね、拗ねないでレイ」
「ずっとそれにして」
「はぁい」
冗談だろうがなんだろうが、レイは格式ばった名称で呼ばれることを頑なに嫌う。
少しだけやり返せた気がして、私は隠れてほくそ笑んだ。
「ま〜ね、」
「うん」
「鑑定魔法って一応今はまだ潜在スキルって言われてるんだ」
「うん」
「だから僕には無理。まぁこの先もしかしたら、鑑定魔法の取得条件が分かるかもしれないけどね」
「そんなことあるの?」
「うん、だから僕が鑑定魔法を習得したらすぐにでもナイのステータス見てあげるよ」
「気長に待ってる」
「うん」
ついさっき、舞踏会会場で緊迫した雰囲気を醸し出していたのが嘘のように、レイは終始ニコニコしている。
この会話だって恐らく形式上は尋問に近いだろうに、全くそんな気がしない。
「さて、ナイがヴァーレン公爵令嬢の職業を得たのは分かったよ」
「うん」
「だけどそれで?どうしてあんなことになっちゃったの?いくらヴァーレン公爵令嬢の影武者が用意出来たとしても、問題はまだまだ山積みだよ」
「今から続き話す」
「お願い」
そうして私は再び、ここに来るまでの経緯を話し始めたのだ。
◆
上位職業[光の令嬢:エヴェリーチェ]。
これを習得するには、「名称讓渡権」所有者から讓渡される必要がある。
つまりは、エリーから「エリー」と言う人間を私に渡してもらわなくちゃいけないのだ。
「エリーの身代わりを連れてくるとして、ナイはその先をどう考えているんだ?」
難しい顔をしたままのツェルが私にそう言った。
「確かエリーは舞踏会当日まで王宮に来ないんですよね?」
「毎年ね。ドレスとか色々準備があるんだと」
婚約者候補として、王子達と交流を深める為にお城を訪問しているエリーが来ないことには、私から接触するのは難しくなってしまう。
職業を変えて街を出歩けばエリーの家の近くまでは行けそうだけれど、中に入ったり、ましては気軽に「エリーちゃん!遊びましょ♪」なんて外から声は掛けられない。
「殿下が遊びに行く、とかは?」
「無理。いくらアシュレイよりは知られていないとは言っても、流石に公爵家を訪問したら秒で身分がバレるよ」
「うーん……。あ、と言うか殿下殿下」
「うん?」
「エリーのことばっか考えてましたけど、執事の方もなんとかしなくちゃですよ」
「嗚呼、確かに」
ここまでエリー中心に考えていた私は、ここで万が一にも、エリーの気持ちが一方通行だった時の可能性を急に考えてしまった。
いくらエリーを上手く逃がしたところで、執事にその気が無いのなら意味がなくなってしまうじゃないか。
「執事の方にも確認……って、執事もエリー付きだから王宮に来ないじゃないですか殿下!」
「だろうな」
「どうするんですか!」
「そこまで見越して考えてたんじゃないのか?」
「私がそんな頭いいと思います?」
「えっ………あー……元気なのはいいと思う」
「なんですかその雑なフォローは!事実だとしても否定されないのは傷付きますよぅ」
私は見逃さなかった。
ツェルが私に私の頭の良さを聞かれた際に、一瞬遠い目をしたのを。
そんなにアホっぽいのか私。
そりゃあ最近じゃ私も、自分がちょっと前まで成人済みだったことを疑いたくなってきているけれども。
舞踏会当日までエリーと接触は出来ない。
いくらエリーの為を思ってるとしても、当事者達の意思を無視して勝手に進めるのは良くないから、エリーと執事に確認は必須事項。
当日まで何も出来ないとして、それなら本番はチャンスがあるのかと聞かれたらそれも微妙。
そこまで考えて、私はふと思い出した。
「そう言えば殿下」
「なに?」
「舞踏会の日って午前中にお茶会ありましたよね?」
「うん」
準備で走り回ってるのはお偉いさん方だけじゃない。
むしろ下っ端の私達使用人の方が、物理的にも走り回っている。
そんな準備の最中、昼のお茶会に必要な物の用意もしていたことを私は思い出したのだ。
「そこにエリーは?」
「あー……確か毎年参加してた気がする」
「そこですよ!」
いきなり私が身を乗り出したから、ツェルは一瞬驚いたように肩を震わせる。
「そのお茶会で私がエリーにどうにか説明してみるので、殿下は執事の方をお願いします」
「あ……嗚呼、分かった。だけど来んのかな?」
お茶会でエリーへの確認を私がするから、そっちは執事をどうにかしてくれと頼めば、ツェルは頷いてから首を捻った。
ツェルの疑問も分かる。
エリーの参加はほぼ確定だとして、執事のあの人が一緒に来るのだろうか、と。
ましてやエリーは、レイにエスコートされる予定なのだから。
けれど私には確固たる自信があった。
「来ますよ絶対に。だってつるっぱげーだと一緒に会合してましたもんあの執事。殿下も一緒に見たでしょう?」
「ルヴァッゲーダな。いやまぁ見たけど、それが?」
「あの如何にも悪役顔のハゲが動くとしたら絶対に舞踏会の日なんで。そうなるとルヴァ……なんでしたっけ?」
「ルヴァッゲーダ侯爵」
「そのツルピカちょび髭侯爵とあの執事は、どっかで絶対にセットになって殿下の所に来る筈です」
「1文字も合ってないぞ。なんでそんな自信持って俺の所に来るって分かんの?」
「そりゃあ第2王子派のターゲットが第2王子の殿下だからですよ」
「うっ………まぁターゲットが俺だから俺の所に来るってのは置いといて、舞踏会当日にアイツらが動くって、なんでそんな自信満々に言えんのさ?」
「それはですね、殿下」
唐突に立ち上がった私を、ツェルが下から見上げた。
「ぽっと出の悪役は、注目度が高い所でことを起こしがちだからです!」
そうしないと、シナリオが進まないからね。
胸を張って言い切った私に、ツェルの呆れた視線が飛んで来たのを私は知らないフリをした。




