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【43話】舞踏会当日 その2

太陽が完全に沈んで夜が現れる頃、舞踏会が始まった。


国中の貴族が1箇所に集まるだけあって、流石に一般参加の国民達に、この催し事への参加許可は下りない。


それでも盛大なお祭りと言う事もあってか、普段夜は酒場周辺以外はしんと静まり返っているのに、今日ばかりは国中のどこに居ても明かりや会話を楽しむ人の声が絶えなかった。


女性が舞踏会に参加する場合、必ず誰か異性にエスコートされなくてはならない。


婚約者なら万々歳。勿論、親兄弟でも大丈夫だ。


もしもご令嬢が1人で舞踏会の場に訪れたとしたのなら、翌日には噂話として、貴族達のお茶の時間のネタに一瞬でなってしまうだろう。


それがどれだけ下級貴族の娘だとしてもだ。


反対に、色恋の話題も次の日の談笑の1部にとてもよくなりやすい。


言葉は乱暴だが敢えて言うのなら、普段は嫁と言う形でより良い他家に売り飛ばす為に、ろくな自由も与えられず、自我を抑え込まれて淑女と言う名の宝石になる為に、丹精込めて磨かれる商品達故に、娯楽の類に飢えているのだろう。


男達だって誰々と誰々が恋仲だとか、そんな話が完全に関係ない訳では無い。


特に今夜のような大勢の貴族が集まる場で、エスコートとして隣に飾る女は、少しでも希少価値が高い方が、あらゆる面で得になりやすいからだ。


そんな色々な感情や思惑がひしめく舞踏会では、毎年同じような話題が1番盛り上がりやすい傾向にあった。


それは第1王子アシュレイと、第2王子シャッテンのエスコート相手についてだ。


兄のアシュレイは毎年、婚約者候補の中で1番有力候補と言われているヴァーレン公爵令嬢をエスコートするのだが、弟のシャッテンは何故だか毎年相手が違う。


一時期はあまりにもころころ変わるものだから、第2王子は女遊びが激しい等と根も葉もない噂が流れたりもしたが、舞踏会で連れ歩く以外、件のご令嬢達とは浮世話の1つも浮かばなかったので、自然と噂自体が消えていった。


第2王子が今年はどのご令嬢をエスコート相手に選んだのか、それを毎年参加者達は、優雅に振る舞いながら横目で確認する。


これもまた毎年行われる舞踏会の、一種の恒例行事のようなものだった。


けれど、今年は少しだけ違う。


皆、第2王子よりも毎年同じ相手をエスコートに連れて来る第1王子アシュレイにも注目していた。


何故ならば、今年の舞踏会で次期国王の決定と並びにその婚約者が正式に発表されるらしい、と、そんな噂が数日前から広まっていたからだ。


ヴァーレン公爵令嬢の名が婚約者候補の中に入ったその日から、次期王妃は公爵令嬢で間違いないと言われていて、なら何故"候補"なのかと言えば、それは跡継ぎの次期国王が決まっていなかったからに尽きる。


長らくどっち付かずだった次期国王の席が、ヴァーレン公爵令嬢が社交界入りをする前の年に決まるとなっては、もう公爵令嬢が次期王妃であるのは確定したも同然で、そんな令嬢をエスコートする方こそが、次代の国王であるのだと。


そんな話がまことしやかに広まってしまえば、それが噂話に過ぎないとしても、誰もが件の3人に注目してしまうのだ。


そして、会場にある程度人が集まった頃、作り物めいたゾッとするような美しさを持った、白い王子が入ってきた。


傍らにヴァーレン公爵令嬢を連れて。


ヴァーレン公爵令嬢こと、エヴェリーチェ。


彼女もまた王子達程では無いにしろ、貴族の娘達がこぞって羨むような整った容姿を持っていたので、この2人が揃うとその空間だけ別世界のようにすらなる。


思わず無意識にそれを見た者達が、溜め息をついてしまう程度には。


やがて少し遅れて弟の第2王子シャッテンも会場にやって来たが、その傍らには名も知られていない下級貴族の娘が鎮座していた。


口に出しこそしないにすれ、皆こう思っただろう。


「次期国王の座を逃してしまったばかりに、第2王子は自暴自棄になって、候補ですら無いどこかの娘を連れて来た」と。


決して表立って騒ぎはしないものの、小さな声でひそひそと、そんな会話が会場中を埋める頃、1番高い席に座り会場を上から眺めていた、今では滅多に表舞台に出てこなくなってしまった現国王がゆっくりと立ち上がる。


その音を合図に会場は一気に静寂に包まれた。


「今年もこの盛大な宴がやって来た。皆、今宵はどうか心から楽しんでいってくれ」


そんな簡単な挨拶と共に、掲げられた上等なワイングラス。


会場に入った段階で、ウェルカムドリンクとして事前に渡されたグラス達を、舞踏会参加者達は王と同じように上に向けた。


「乾杯!」


その短い掛け声で、舞踏会は開始した。







次々に運ばれて来る軽食達は、昼に行われたお茶会時に用意されたそれらよりも更に豪華な物で、この日の為だけに雇われた楽団が、会場を盛り上げる為に優雅な音楽を奏でている。


アシュレイ第1王子、シャッテン第2王子、それからヴァーレン公爵令嬢。


舞踏会参加者達の話の中心人物である3人は、気にしていないのか、それとも慣れているだけなのか、四方八方から向けられる視線なんて気にもとめずに極々自然に振舞っていた。


大抵この国で重要な話題は、催し事の中盤に発表されやすい。


それまでは一見思い思いに楽しんでいるように見せながら、裏で腹の探り合いだ。


それは国王の次に位の高い王子達も同じで、さりげなく確信めいたことを聞いてみたところで、是とも非とも取れる曖昧な答えしか返ってこない。


第1王子アシュレイは普段の奔放さが嘘のように、こう言った場ではやはり王族であると周りに思わせる気品溢れた振る舞いをするので、自然と人が集まりやすい。


しかし第2王子シャッテンと言えば、話しかけても義務的な挨拶以外はあまり返ってこないので、だいたい最終的には1人になっていて、それを遠巻きに、密かに第2王子に憧れを持つご令嬢達が話しかけるか否かを迷いながら見つめていると言う、少しだけ異様な光景になりがちだった。


去年も一昨年もその前も、エスコートして来たご令嬢とは、初めのダンスを踊った後は気が付いたら離れている。


それがシャッテン第2王子の舞踏会での当たり前だったのだが、今年はどうも違うようで。


エスコートされて会場に入ってきた、名も知られぬ下級な貴族のご令嬢と、シャッテン第2王子は何やら小声で語り合っては、時々頷いたり薄く笑ったりを繰り返していた。


これがアシュレイ第1王子とヴァーレン公爵令嬢ならば、さして不思議な光景でもないのだが、毎年のシャッテン第2王子の様子を知っている貴族達からすれば、第2王子にしてはかなり変わった行動になってしまう。


どこの娘かも分からぬ下級貴族のご令嬢は、周りからぶつかる視線に、少しばかり居心地の悪そうな表情を浮かべた。


腹の探り合いが基本の貴族の世界にとって、思ったことが顔に出てしまうのは致命的な欠陥になりかねない。


何故そんな素人めいた、下手したら足さえ引っ張りそうな娘をエスコート相手に選んだのか。


参加者達がそんな疑問を持ち始めた頃、落ち着いた音色を奏でていた楽団が楽譜の頁を捲った。


第1王子か第2王子。またはアシュレイの近くに居たヴァーレン公爵令嬢かシャッテンの隣の名も知らぬ下級貴族のご令嬢。


そのどれかに視線を向けていた参加者達は、ふと耳に伝わる曲調が変わった事に気付く。


舞踏会と言えばダンスがメイン。


今夜の1番のメインイベントと言える催しが始まる合図に、誰を誘おうか、或いは誰に誘われたいか。


別の思考へと参加者達が導かれる。


そんな時だ。


「アシュレイ殿下っっ?!」


誰かがアシュレイを呼ぶ。


あの声は確か、王族の側近の1人であるヴァルデ・ベルクの声だったか。


そんな呟きすら零れない内に、第1王子を巻き込んで会場中が強い閃光に包まれた。


光魔法だ。


一体この位の高い者達が大勢居る場所で、そんな血迷ったことをする大馬鹿者は誰なのか。


アシュレイを中心に光が広がったからか、今夜ばかりは大人しかった第1王子が、何か気に触ることがあっていつも通り暴れ始めたのか。


光の爆発にも近い突然の魔法に、悲鳴をあげなかった人々はそんなことを考えていた。


そして光が弱まると、突然の強烈な眩しさに目を閉じていた者達が次々に視力を取り戻す。


ようやっと目が慣れて比較的物が見えやすくなってから、その光景を目にした者は皆思わず息を飲んでいた。


まるで攻撃から身を守るように、右腕で顔を隠していたアシュレイ第1王子が腕を下ろす。


その目線の先には、肩で大きく息をした、ヴァーレン公爵令嬢が立っていた。

機種変更したら設定やら続きが全て消えました……。

お久しぶりです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちゃんと下級貴族の娘に見えるあたり やっぱお着換え機能は性能狂ってるのでは
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