表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/49

【40話】お嬢様の秘密 その2



押し殺していても、私の方にまで嗚咽が聞こえてくる。


周りが見えていないのか、彼女にしてはらしくない。地面に直接膝をついて座るなんて。


「エリー」


長いブロンドの髪の毛が、絨毯みたいに草の上で広がっていた。


「エリー、雨が降るよ。中に入ろう?」


「.......ナイ?」


空は雨雲が集まって、薄暗い天気に急になる。ゲリラ豪雨だろうか。どっちにしろ、しばらくすれば雨が降るのは間違いなかった。


涙でぐしゃぐしゃになっていても、エリーはとても綺麗で、天使みたいで。


こんな状況なのに、やっぱり酷く羨ましくなった。


「ナイ、どうして?」


エリーが聞いてきたけれど、まさかツェルと盗み聞きしていましたとも言えなくて、


「声が聞こえたから」


急過ぎて剥がれ落ちてしまった敬語も、今のエリーは気にならないよう。


「エリー行こう?ね?」


とにかくこのままエリーを外に居させたくなくて、多少強引にエリーの左腕を掴めば、


「ナイっっ」


エリーに抱きしめられた。


「うぇっっ、エリー?」


ぐすぐす泣いている声が聞こえてきて、左肩がどんどん湿っていく。


背中をそっと撫でると、嗚咽の音が大きくなった。


「エリー?」


「ナイが、」


私が呼びかけると、エリーが口を開く。


「ナイが羨ましいわ」


そう、確かに私はそう言われた。


天使のような人に。


「羨ましいのなんて、」


むしろエリーじゃなくて私の方だよ。


身分もあって家もあって、家族も居て人生もしっかりしていて。それに目が合ってCvもある。見た目も凡庸なんかじゃ決してなくて。


誰かと話したい時に、話しかけてくれる人が居る。


私が欲しくて得ようともがいてる物を、全部エリーは持っているのに、私みたいなただのモブの何が羨ましいのだろう。


「ナイは恋をしたことがある?」


「無いよ」


転生してから1度もどころか、私は前世でも恋をしたことは無かった。


一目惚れに近い感情はよく持っていたけれど、いざ付き合うとなると、どうしてもその先が気持ち悪くて。


あれだけ振り向かせたいと頑張った人も、付き合った瞬間に、まるで任務完了のように興味が無くなってしまう。


告白をされたとしたらその瞬間、自分を恋愛対象に見られたことに、酷い嫌悪感を覚えて逃げ出していた。


誰かの"彼女"って言う称号が欲しくなくて、いつも自由で居たかった。


唯一、平気だったのが乙女ゲームで。まるで分からない感情を埋めるように、どんどんのめり込んでいって。


そうやって生きていたから、やることがゲーム以外なくなって、あとは仕事と寝るだけの生活を繰り返していた。


恋愛で泣く人の気持ちが分からない。


恋をすると幸せになれるの法則も。


レイの好感度はかなり高くて、問答無用でぶつけられる好意に、いつか吐き気を覚えてしまうかと思っていたけれど、不思議とそれはまだ無かった。


だからたぶんレイも、興味本位なだけで私のことは好きでは無いんだろう。


恋愛対象に見られた瞬間に気持ち悪くなる私が、乙女ゲームの世界に紛れ込むなんて、これ以上の皮肉があるのだろうか。


だからモブにしか転生出来なかったのだろう。


恋をする世界で恋が出来ない私は相応しくないから。


「私はね、ナイ。ミトラー.......私の執事が好きなの。あの人は幼い頃に私が拾ってね、それからずっと忠誠を尽くしてくれたわ」


「うん」


「だけどね、その頃には私はもう王太子の婚約者候補になってて、公爵家だから断ることも、嫌だと言うことも出来なかったのよ」


王家の次に偉い公爵家。そこから王太子妃候補が選ばれたとなれば、周りはきっと当たり前だと思うだろうし、断るとも思われない。


英才教育を受けてきた筈だ。未来の王太子妃の為に。


「私来年社交界入りするのよ。だから言われたのよさっき、婚約者候補を私1人にして、アシュレイ殿下の婚約者にするって。その発表を舞踏会で行うと」


王太子妃候補者はエリー以外も居るけれど、初めから選択はエリー1本だったのだ。


今まではあくまで候補だったから、抜け道はいくつかあったけれど、確定されてしまえばもう逃げ場は無い。


エリーはそれを知って、だから執事に詰め寄った。


「私自分の立場はよく分かっているから、甘んじて受けるつもりでいたわ。でもね、ミトラーが少しでも「逃げよう」って言ってくれたのなら、全部捨てるつもりだったのよ」


結果は、


「でも「おめでとうございますお嬢様」って言われてしまったわ」


エリーの執事は、地位を捨ててまでエリーを選ぶつもりは無かったようで。


本気なのは自分だけだったと知るのは、恋じゃなくても辛いものだ。


ただ引っかかるのは、第2王子派の密会にエリーの執事が居たこと。


内容はツェルを使ったレイの暗殺で、下手したら王国の反逆者にでもなりそうな場所に居た人が、果たして権力に靡くのだろうか。


何か裏があるのかもしれない。それを調べる以外に、私がエリーにしてあげられることは無い。


「好きでもなくて、好かれてもいない人に嫁ぐなんて嫌よ」


相手があのレイなら嫌だろう。性格に難があり過ぎるし、結婚生活が破綻しそうだ。


エリーがレイの婚約者になると言うことは、次期国王はレイで確定だろうし。


レイかツェルなら、まだツェルの方が幸せになれるのに、エリーはその選択すら奪われてしまったのだ。


「ナイが羨ましい。私がナイだったら、何も気にしないで自由に恋が出来たのに」


そんなことないけどね。意外とキツいよモブは。生命維持も底辺で、ちょっとのことで死んじゃうかもしれないんだもの。


その日生きることすら精一杯なのに、何もかも持っている世界を知った上で、モブ落ちしたらきっと生きてはいけないと思う。


だけどそれを言っても悲しいことに伝わらないから、だから慰めのつもりで私がエリーへ言った言葉がまずかった。


「エリーは私のこと羨ましいって言うけど、私からしたらエリーの方が羨ましいよ?どうせならエリーになりたかった」


「.......って」


「なに?」


「変われるなら変わってよ!」


エリーがそう叫んで私を見る。


驚いて私の肩がビクリと揺れた。


エリーも自分がそう言うとは思わなかったらしく、口元を手で抑えて小さく首を振っている。


「ちが、違うのナイ.......」


「分かってる」


今のは私が悪い。完全に言っちゃいけないことを言った。


自分に自信が無くて、自分の持ってるもので苦しんでいる人に「なりたい」は、禁句中の禁句だ。


そりゃ「変われるなら変われ」と言いたくもなる。


私が悪い。


「分かってるから大丈夫だから」と伝えても、エリーは目に涙をいっぱい浮かべて「違うの」と繰り返した後、「ごめんなさい」と謝って足早にその場を去って行った。


謝るのは私の方だよ!と言いたい私を残して。


墓穴を掘ってしまって、自己嫌悪に項垂れているとふいに肩を叩かれた。


「殿下ぁ」


「行くぞ」


今の光景をずっと見ていたのか、ツェルが私に近付いて見下ろす。


「やっちゃいました.......」


「そうだな、あれは無いな」


いい子いい子と頭を撫でられて、泣きそうになったのを堪えた。


泣きたいのは私じゃなくてエリーなんだからと。


慰めるつもりで泣かせてしまった私に、泣く資格は無いのだから。


たかがモブ1人がくよくよしていたところで、重要キャラクターの物語は進まない。


それにどう転ぶのか分からないけれど、エリーにはまだレイに殺される道が残っている。


失恋した挙句に殺されるなんてあんまりだ。


エリーは私と同じ、モブを認識出来る人なんだから。


そうなるとやれることは、怪しい箇所を徹底的に潰すことで、私はツェルにそっと、さっき思い付いたことの協力を得る為に耳打ちした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ