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【39話】お嬢様の秘密



「と言うことがあったんですよ」


胡座をかいて地面に直に座ったツェルに、私はおしりを浮かせたまましゃがんでそう話す。


使用人から見習いが取れてから、行動範囲が広がったらしく、前は行けなかった所も行けるようになった。


ついでに隙間時間も増えた。


突然のことだったらしく、未だ担当区域を決められていなくて、仕事内容もその都度変わる。


だから相も変わらず洗濯ばかりやっているのだけれど、見習いの時のように洗濯をやってると、途中でマリーナに「ここはもういいから」と追い出さられるようになったのだ。


そう言う時は決まって、どこからともなく現れたレイに捕まることが多いんだけれど、舞踏会が近付いてきたからか、最近はそこまでレイを見掛けていない。


代わりに、ツェルを庭園で発見する率が高くなった。


今日もツェルはいつもの場所に寝転んでいたから、突っついて起こして、ここ数日間に起きたことをだらだら話しては聞いてもらっている。


「なんかサブ属性が無いみたいなんですよ」


「あーまぁ偶にあるって聞くしな」


「殿下のサブ属性は?」


「俺はあれだよ。雷、あと火も使えたかな」


「三属性って流石殿下ですねぇ」


「そうでもないぞ」


ぷぃっとそっぽを向いてしまったから、恥ずかしかったのだろう。


鬼ごっこ以来、ちょこっとツェルと仲良くなれた気がする。レイから助けてくれなかったのは、まだ根に持っているけれど。


ツェルは元々なんだか、レイと比較して自分を卑下する傾向にあるらしく、分かりやすく言えばマイナス思考に近かった。


だから褒められるのが極端に弱いと言う、小さい弱点を見付けてからは、隙あらば褒めてツェルを照れさせてって、新しい遊びを思い付いてここ最近私は楽しんでいる。


「舞踏会ってどんなことをするんですかねぇ」


許可さえあれば、一般の国民も参加OKなこの国の舞踏会。


近くなってきたから、少しだけ気にもなっていた。


「例年通りやるんだったら、適当に食べて適当に踊って適当に催し物を見て終わりだな」


「エスコートとかあるんです?」


「一応ね。でも絶対って訳じゃないから、1人で参加する人も多いよ。まぁ貴族のご令嬢とかになると、必ず誰かは連れてるけどな」


「じゃあ殿下はエリーと参加ですか」


「いや?エリーは毎年アシュレイとだぞ。それに今年はエリーが来年社交界入りするから、何かあるんじゃないかって踏んでるけど」


エリーはあくまでレイかツェルの婚約者候補であって、レイだけの婚約者候補ではない。


それなのに、まるで他人事のようにそう言ったツェル。


「え、じゃあ殿下は?」


「俺?毎年婚約者候補の誰かと参加してるよ。と言ってもエリー以外だと、年に1回会うか会わないかって感じだから、毎回人選に悩んでる」


「そろそろ選ばなくちゃいけないのか」と、ツェルは身体を後ろに倒して寝た。


なんだかツェルって、王位もそうだけど、王族って地位に執着が無さ過ぎる。


いずれ将来を共にする伴侶になる人のことなら、もう少し真剣に考えてもいいのに。


と言うかツェルは、エリーとかなり仲が良さそうだったのに、毎年レイに公で見せる場を取られて何も思わないんだろうか。


頭の中で色々予想していれば、


「ナイは参加しないの舞踏会?」


そう聞かれた。


「当日は給仕の仕事があるので参加はしませんね」


「1日中ずっとって訳じゃないだろう?」


「まぁそうですけど。相応しい装いも無いですし、作法とかダンスも踊れないので」


私と同じく不参加予定のマリーナと一緒に、こっそり料理を分けてもらって、部屋でプチパーティーを開こうかと思っていたくらいで。


舞踏会の背景担当のモブは他に居るだろうから、私の出番は無いなっと感じていた。


「装いって。エスコートはされなくても、アシュレイから何か無かったのか?」


「.......殿下ってなんで私とあの人を一緒にしたがるんです?」


ツェルの中で、私=レイと言う謎の方程式が出来ているのは未だに健全なようで。


そんな当たり前のような顔をされても困る。


「いや、アンタはアシュレイに可愛がられてるし」


「可愛がられてるんじゃなくて遊ばれてるんです」


気分はハントされる側の珍獣だ。


この勘違いをどうにか打破したくてあれこれ考えていれば、ツェルから思わぬ提案をされる。


「そうか.......。俺が用意しようか?」


「何をです?」


「ドレス」


「どうして?」


婚約者候補か、それかいずれ来るであろう主人公にドレスを買い与えるのなら分かるけれど、一介のモブになんで。


ツェルの考えていることが分からなくて聞いてみれば、


「なんとなく。たまには趣向を変えて、婚約者候補達以外をエスコートしてみるのも面白いだろう?」


と返ってきた。


レイと言いツェルと言い、もう嫌だこの兄弟。面白いだけで行動するんだもの。


こう言うところが本当に似ている。


別に面白がっても構わないけれど、モブを巻き込まないで欲しい。


「いやだから、作法もなってないですしダンスも踊れないんですってば」


貴族のきの字も知らない私が、突然舞踏会の日だけ、礼儀も作法も完璧でダンスも踊れるようになるとは思えない。


ここで普通だったら短期間でも練習しそうだけれど、そんな時間など一端のモブにはない。


精々こうやって、合間を見てお話する程度にしか時間は作れないし、魔法の練習だって、レイの王子様権限があって初めて叶ったことだった。


「安心しろ。フォローは出来るから」


「そう言う問題じゃないんですって」


あーだこーだと言い合っていても埒が明かないから、どうにか諦めてもらう方法は無いかなぁって思った時だった。


「なんか聞こえない?」


唐突にツェルがそう言う。


「へ?」


「人の声」


言われて耳を研ぎ澄ませてみる。


すると、


「..............で、.......い!」


「.......から..............よ」


明らかに言い争っている声が、少し離れた所から聞こえてくるじゃないか。


「行ってみるか」


「えっ?!ちょ、殿下!!」


がばっと起き上がって、声のする方へ歩いて行ってしまうツェル。


私はと言えば、その後を追い掛けるしかなかった。








丁度いい茂みの中に、私とツェルは2人で縮こまって様子を伺う。


あんまり近付いて堂々と見ていると即バレてしまうので、気持ち遠めで茂みの高さと同じくらいの視線をキープ。


お上品なドレスを着たご令嬢と、執事服を着た男性が言い争っている。正確には、ご令嬢が怒鳴って、男性の方は窘めているって感じだったけれど。


「このままじゃ私、結婚しなくちゃ行けなくなるわ!それなのにどうして貴方は平気なのよ!!」

「お嬢様、俺はお嬢様が幸せになるのなら、」

「貴方じゃなきゃ幸せになんてなれないのよ!!」


今にも泣き出してしまいそうな顔をしたご令嬢は、金色に輝くブロンドの髪を揺らす。


それは、


「.......エリー?」


エリーだった。


エリーが泣きそうになりながら、執事に何かを訴えている。


内容的にべたべたの恋愛小説に出てくるようなことを言っていたから、推測すると、エリーは執事のことが好き?であっているかな。


問題は、その執事の方だった。


エリーと会う時に、だいたい後ろに控えているから存在は知っていたけれど、いっっっつも睨んでくるから、話したことは無くても悪印象しか持っていない。


その執事を、


「あれぇ.......なんかどっかで会ったんだよなぁあの人」


私は見たことがあった。それもごくごく最近に。


「エリーと会う時に居るからじゃないのか?」


「違うんですよ殿下。待ってください思い出します。あの人確かあの時は1人で居て、」


ん?なんか前もこうやってツェルと盗み聞きをしていた時に、同じような状況になったぞ。


第2王子派の密会を張り込んでいた時に、参加メンバーを順に見ていって、


「1人だけ見覚えのある人が居て.......殿下っ?!」


「なに?」


ツェルの肩を掴むと、ツェルはびっくりしたようにこちらを見てきた。


思い出した!あの人。


「あの執事第2王子派の密会に居た人ですよ!」


「え?」


「よく見てください!暗がりだったけど覚えてるでしょう?」


私がそう言うと、ツェルは執事の方をじっと見る。


そして、


「アイツっっ!」


「ね!と言うか殿下、私よりエリーと会ってるのになんで気付かないんですか!」


「だってアイツ、俺が居るとどこかに行くんだよ」


「完全に避けられてるじゃないですか!何したんです?」


レイじゃあるまいし。理由も無く避けられる人間にツェルは該当しない。


「何もしてないよ」


「何もしてなきゃ避けられないですよ普通。まぁ私も何もしてないのに睨まれたんですけど.......」


「じゃあ何もしていない人にも、敵意を向けるタイプの人間ってことなんだろ」


何そのレイとはまた種類の違う迷惑な人。


一応小声ではあったけれど、ぎゃーぎゃー言い争いをしていたからか、執事の方がエリーに背中を向けてどこかに言ってしまった。


何を話していたのか途中まで聞いていなくて、状況がどうなったのか分からないけれど、エリーは顔を両手で覆って崩れ落ちる。


「エリーっっ!」


「ばっ、おい、ちょ、ナイ!」


後ろでツェルが私を止める音がしたけれど、そんなのどうでもよくて。


今はただ、1人で泣いているエリーを放っておけなかった。

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