【38話】魔法練習をしよう! その2
産まれた時周りに何かしらの変化があって、それはだいたい植物が関係しているそう。
花が色付いたり木が光ったり、と。
だからやたらキャラクター紹介の時に、花とセットで描かれていることが多いのかと、今更ながらに新しい発見をした。
「アストリット様には何かあったんですか?」
と聞くと、
「あーなんか.......ヒペリカムが燃えたとか」
と返ってきて、聞いたこともない植物の名前でさっぱり想像が出来ない。
「っつか、様も敬語もなんか違和感が凄いからやめねぇ?」
アストリットが言いにくそうにそう提案してきたから、
「はぁ、別にいいけど」
砕けて話してもいいのなら、それに越したことはないから同意した。
「ヴァルデ様は?」
「私は、突然雨が降ってダリアの花が咲いたと聞いております」
ダリアは聞いたことがある。なんか大きい割と色がはっきりしている花だろう。
お花屋さんじゃないから花にはちっとも詳しくないから、もう少し薔薇とか向日葵とか分かりやすい花にしてほしかった。
「そんで、ナイは?」
「私は、」
聞かれても12歳で転生した手前、産まれた時の記憶なんて知らないし、モブだからその辺を知っている家族もいない訳で。
ステータスにも属性の項目が無かったから、
「ちょっと分かんないんだよね.......。家族居ないし、親戚も居るのかどうなのか分からないし」
ぼそっと零せば、アストリットとヴァルデが顔を見合わせた。
「俺まずいこと聞いちゃいました?」
「恐らく。平民にはよくある話だと聞きますし」
「孤児院とか?」
「一部の子供達は孤児院にすら入れない子も居ると」
聞こえてる聞こえてる。
大丈夫私モブだから家族が居ないだけで、貴方達から見える平民の子達みたいな複雑な事情は無いから。
気にしないでと言う視線を送っても無駄で、
「お前苦労したんだな」
「ここでの処遇はなるべく良いものに配慮しますね」
両肩にそれぞれぽんっと手を置かれてそう言われた。
なんか天涯孤独の孤児みたいに思われた.......あながち間違ってはいないけれど。
「気を取り直して、とりあえずナイさんの属性からですね。生憎と私、鑑定魔法が出来ないので片っ端からやっていくことになりますが.......」
「頑張ります」
ヴァルデが言ったのは、初級魔法を片っ端から発動させて、発動出来たのが恐らく属性だろうと言う、なんとも原始的な方法だった。
「お前この間火の玉出したがってたし、火の第1魔法から試してみるか」
ただ単に魔法=ファイヤーボールでしょ!って考えてただけで、そんな放火魔みたいな動機も何も無いのに。
訂正しようにも、アストリットは地面に恐らく火の第一魔法の魔法式みたいな記号を書き始めたから、タイミングを逃した。
「これがこうなんだろ?で、これをこうして」
「ごめんごめん、私数学苦手なの」
計算式みたいなものの説明をされたところで、ちっとも頭に入ってこない。
自慢じゃないけど私、数学のテストで40点以上出したことない。勿論100点満点中。
足し算と引き算と掛け算と割り算。あとは電卓の使い方さえ分かっていればいいでしょって、安直な思考回路で育ったお馬鹿さんなんだよ.......。
あとアストリットの説明が、簡易的過ぎて分からないって言うのもあった。この前も説明は不得意そうだったけど、ここまでじゃなかったよね?
「あー.......じゃあとりあえずこの魔法式の形を覚えとけ」
「ふぁーい」
言われるがまま、アストリットの書いた魔法式を覚える。
「そんで、それをまず考えるだけで指令出来んだろたぶん」
「ふぁーい」
たぶんって随分と曖昧だけど言うことをきいた。
「で、今度は魔法陣を書くから魔力を外に出す」
魔力を外に出すって簡単に言ってくれちゃったけれど、どうやって出すのかまず分からない。
分からないけれど魔法は想像力だとアストリットが言っていたから、指の先から魔力出ろーって念じて。
ポヒンッ
なんか聞いたことも無い、情けない音が指先から出た。
「へ?」
「不発だな。火属性じゃねぇってことだ。残念だったな」
「気にすんな」とアストリットは、ぽむぽむ私の頭を撫でる。
一発目から成功するとは思っていなかったけれど、こんなにも地味に終わるのか。
ちょっとだけ悲しい。
じーっと掌を見ていれば、
「魔法式は理解していないんですよね?」
ヴァルデにそう言われて顔を上げた。
「おかしいですね。この間は魔法式を飛ばしていた筈なんですが.......」
この間ってなんだ?と思って気が付く。
そう言えば魔法もどきを使った時に、この人真横に居たじゃないかと。
「魔法式を飛ばす?」
怪訝そうにアストリットかそう呟いて、ヴァルデは「はい」と頷いた。
「通常、魔法式から魔法陣と経由していくものなんですが、ナイさんはこの間魔法式自体を飛ばしてまして」
「無詠唱ってことですか?」
「いえ、違います。無詠唱の場合は特に発動前に変化はありませんから」
ヴァルデがそう言うと、変なものを見る目でアストリットに見られる。
そんな事言われても、無意識に発動した魔法のことなんて正確に覚えてないよ。
それどころか未だに、私が発動したのか疑ってすらいるのに。
「ナイさん、試しに手の上にこのくらいの火の玉が出る想像だけしてみてください」
ヴァルデが分かりやすく、出したい火の玉の大きさを手で作って見せてくれたから、その通りにやってみた。
ポヒンッ
また情けない音。
やっぱり私には、魔力はあっても魔法の才能は無いのだろうか。モブだしね。ある方がおかしいか。
無理なことにいつまでも付き合わせてしまうのも申し訳ないから、折角時間を作ってもらったけれど、解散しようかと言おうとしたら、ヴァルデが再び口を開いた。
「属性の問題かもしれませんね。ナイさん、次は同じ大きさの水の玉を出す想像を」
「失敗すると思いますよ」
「そうしたらまた別の属性に変えればいいんです」
火の玉が出なかったのに、水に変えたら出るのかな。
そんな単純に出来るとは思えないけれど、ヴァルデの言う通りに水の玉が出る想像をした。
開いた右手の上に、丸いぷよぷよした水の塊が出る想像を。
そうしたら、
「成功ですね」
思い描いた通りの水の玉が、掌の上でぷかぷか浮いていた。
「水だったんか。じゃあ火は出来ねぇよな」
「それより見ました?魔法式が直接水の塊に変化したのを」
「ええ、見ました」
ヴァルデとアストリットはそう言ったけれど、私には魔法式らしき物は見えなかったから理解が追い付かない。
「あの魔法式なんか想像してないんですが.......」
私は、これを足してこれ引いてみたいに、さっきアストリットが地面に書いてくれた魔法式のようなものは、一瞬も考えていなかった。
そう訴えると、ヴァルデは深く頷く。
「到底信じられない話なんですが、どうやらナイさんは、想像したものが勝手に魔法式として変換され、体外に排出されるようです」
「つまりどう言う意味?」
アストリットに「訳してー」と振れば、
「あーっと、魔法を発動するのに想像力だけでいいってこと、です?」
「そうなります」
「まじかよ」
髪をかきあげてしゃがみ込んだアストリット。
未だ何がそこまで驚かれることなのか分からない私は、ただただ不思議そうな顔をするしかなくて。
そんな私を見かねたヴァルデが、もっと分かりやすく説明してくれた。
「今ナイさんがしたことは、殿下.......アシュレイ第1王子殿下ですら出来ないことだと言えば、実感湧きます?」
「それは、」
凄い。ここに来て新しい能力が判明した。
想像するだけで魔法が発動出来る。勉強嫌いの私には、なんて都合のいい能力だろうか。
まぁ使えない魔法の方が多そうだけれど。
ちょっと嬉しそうに両手をくるくるしながら見ていれば、
「殿下が喜びそうですね.......」
ため息混じりにそう言ったヴァルデに、私はばっと顔を向けた。
「言うんですか?!」
「いやまぁ、一応この場は殿下の采配があってこそなので。当然、細かく報告するようにとの指示は受けています」
だからヴァルデを呼んだのか。
確かにアストリットだけだったら、細かい報告をする状況にすらいけなさそうだし。
私は自主的にレイに報告はしないだろう。
その点ヴァルデに任せれば、この人は今1番レイの近くに居そうだから伝えるのも簡単だろう。
「なんとか誤魔化すことは.......」
「無理ですね。恐らく私以外にも指示を出していそうですし」
あの魔法馬鹿は、へらへらしているのに抜かりが無いことを知った午後。
その後も諦めて、いくつか別の属性の魔法を試してみたけれど、結局私は水魔法以外、発動することが出来なかった。




