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【36話】王子様と帰り道 その3



今まで色々なゲームをプレイしては来たけれど、全く見たこともないステータス画面が出てきて驚く。


"光耐性無効"は、恐らくレイが日光に弱い理由なんだと思うし、彼は日頃から「不眠だ不眠だ」と言っているから、そのせいで"神経衰弱"なのも分かる。


だからこれが、一種の"状態異常"の類なのは理解出来たんだけれど。


「(なんで【属性】の横に書くの?)」


普通"状態異常"って、専用の項目あるよね。それか一緒くたに書くとしても、精々【スキル】のところだ。


それなのに【属性】の横にいらっしゃる"状態異常"は、内容も属性とは何も関係ないものだったから尚分からなくなる。


「うーん概ね合ってるんだけど、所々違うと言うか.......初めて知るものが多いね」


私から告げられたステータスと、鑑定士に鑑定してもらったステータス。


その2つを照らし合わせていたレイが結論を出した。


「例えば?」


「やたら制限無効が多いところとか。そもそも称号ってのも何これ?」


「知らないよ」


見たまんまを言って書いただけなんだから、私に聞かれても困る。


「大賢者見習いって言うのも気になるし。僕が大賢者とか、」


「レイにはちっとも向いてない職だよね」


「ひどっ!」


だって賢者って頭のいい人のことだもん。


魔法使いの上位職なのは知っているけれど、ただ単に魔法ばんばん使ってるだけでなれる職じゃなかった気がする。


お世辞にもあんまり先のことを考えて、行動しているようには見えないレイが大賢者とか、見習いでも有り得ない。


「ナイもしかして暗に僕が頭悪いって言ってる?」


「それに気付く程度の知性はあるんだね」


「傷付くなー。まぁナイだしいいや」


だしって何?だしって。


馬鹿にすることを許してくれているのは分かるけれど、何その「仕方ないな」とでも言いたげな雰囲気は。


いやレイを馬鹿にする私が悪いんだけどね?理不尽な怒りを覚えているのは分かっているの。


だけど、どうしてもなんか、レイってムカつくんだもの。


「あ、ナイ今失礼なこと考えたでしょ?」


地面に書く為にしゃがみ込んだせいで、レイと無駄に距離が近くなっていれば、思いっきり両方のほっぺたを引っ張られた。


地味にイラってするやつだ。


「ごめんなさいー」


引き伸ばされて上手く言葉にならないまま、なんとかその場しのぎの薄っぺらい謝罪を述べれば、


「素直に謝る子はよろしい」


と、離してもらえる。本気で謝っていないからちょっぴり罪悪感。


レイのステータスはめちゃくちゃで、知らない言葉の方が多かったけれど、


「"夢魔の祈り"ってなんだろね?」


なんだかんだ1番気になった箇所を言ってみる。


「え、そっち?僕は"名称変更権所持者"の方が気になるんだけど.......」


呆気に取られたような顔のレイ。


だって、ねぇ。


"名称変更権所持者"って、確実に私の名前関連だもの。


貴方に勝手に固定された、私の名前を変える権利ですよーと、上手く伝えるにはどうすればいいのだろう。


出来ればすぐにでも、"ナイ"を変えて欲しいけれど。ドタバタし過ぎていい名前をまだ考えていないし、こんな急展開でレイに"ナイ"だと認識されるとも思っていなかったから。


1年間レイと接触しようと悪戦苦闘してたのに、最近になってあっさり物事が進みまくるから、去年の私の頑張りっていったいなんだったんだろうか。


まぁ積もる話、まだ準備が出来ていない。これっぽっちも。


「別にそれはいいんじゃない?なんなら「名称変更権を放棄する」とか言ってみれば」


あわよくばとりあえず、固定されたところだけを解除してもらおうと目論んだけれど、


「なんかそれはやったら勿体ない気がするから言わない」


あっさり却下されてしまった。


何かのセンサーが働いているのか。そりゃ私の名前を、自由自在に変えられるってレイが知ったら、心の底から面白がりそうで。


レイにとったらそんな面白そうなことを、みすみす逃がす訳もないし、本能的に気付いているのだろう。


「じゃあもう分かんないよ。私"夢魔の祈り"の方が興味あるもん」


「そっちはなんとなく覚えがあるからいいよ」


「私が分かんないんだもん!」


「その内機会があったら教えてあげるから」


「それ絶対教えてくれないやつじゃん!」


デートに誘われた女の子が、「考えとくよ」とか「都合が合えば」とか言っておいて、その実全く行く気がない時と同じくらいに絶対性が無い。


私も偶然が重なって、こんな感じの言い訳をたまたま言う機会があったから、今あの時そう返された人の気持ちがよく分かった。


"夢魔の祈り"何か引っかかるのに、レイはどうでもよさげ。それどころか理由に覚えすらあるみたいで。


いま教えてもらえないと分かると、知りたくなるのが情報ってものだ。


もう少し粘って聞いてみようとしたら、


「ナイ、いい加減庭園行った方がいいんじゃないの?」


レイにそう言われて気が付く。


私よりもレイの方が、私の予定を覚えているのが何か癪に障る。これは忘れっぽいのを治すしか無い。


「そうやって話誤魔化すんだー」


「ちゃんと教えてあげるから。ね?拗ねないで」


そう言ったレイに頭を撫でられて、さっきと立場が逆転したことを私は痛感した。








お日様も落ちかけるどころか、ほぼほぼ姿を消してしまったぐらいの時間帯。


つまり時刻は夜。


早歩きで庭園に向かえば、あの薔薇の木の前にツェルが立っていた。


「(まだ待っていてくれたんだ)」


それはもう無駄に時間を浪費したせいで、正確な時間は決めていなかったとは言え、きっと物凄く待たせてしまっただろうに。


律儀に待っていてくれたツェルの人の良さに感動する。


「ツェ.......殿下ー!」


片手を上げてツェルを呼べば、私の声に反応してツェルが振り返った。


「ナイ!.......と、アシュレイ?」


なんでお前がここに居るんだ?的な視線をレイにぶつけたツェル。


「.......ついてきちゃいました」


理由は不明です。


本当についてきて、私の背後でにこにこ笑っていたレイは、


「ツェルがなんでナイを知ってるの?」


と、呟いた。


心無しか後ろからの空気がどす黒くなった気がする。


ツェルの顔も可哀想なくらいに引き攣ってるし。


なんで私が気を使わなくちゃいけないのか知らないけれど、とにかく上手い言い方を考えて、


「変死体疑惑の人とそれの第一発見者だから」


と返せば、


「.......もっとマシな言い方無かったのか」


ツェルに溜め息をつかれてしまった。


私今日溜め息つかれてばっかなんですけど.......。


「うぇー、だってじゃあなんて言えばいいんですよ。雇用主の息子と雇用されてる人?」


「そんなのアシュレイも知ってるだろ」


じゃあ分かんないよ。お友達って訳じゃないし。


ただ遭遇する機会が割と多かったってだけで、何か特別な関係でも無いし。


強いて言うなら一緒に鬼ごっこをした運命共同体だけれど、もっと運命共同体って言葉に相応しい子は他に居るから私は違う。


例えが見付からなくて頭を悩ませていると、


「..............ねぇ」


背後からのどす黒いオーラに包まれる。


正確には、物理的にレイに後ろから巻き付かれた。


私の腰のところにレイの腕がいるから、どう見ても後ろから抱っこされている体勢。


不機嫌なレイはツェルを睨み付けて、


「僕、なんでシャルがナイを知ってるのか聞いただけで、仲良く話せなんて言ってないんだけど?」


と言った。


「今の会話のどこに仲良し要素があったの?」


お互いの関係性すらすぐに出てこない程度には、細い糸みたいな縁だってことを、悲しいことに言葉で説明していただけなのに。


「ナイは黙って」


「はい」


抗議すれば上から睨まれた。ちくしょう、怖い。


どうしてこんなにレイが苛立っているのか分からないし、巻き付く意味はあるのかとも考えてしまう。


「アシュレイ落ち着け、ナイが怯えてる。とりあえず離してやれ」


「い・や・だ」


ツェルが折角気を利かせて離すように言ってくれたのに、逆にそれがレイに油を注いでしまったようで、ますます巻き付く力が強くなった。


「あのなぁ.......」


呆れ返った顔をツェルにされても、何故かレイは敵意剥き出しで、これじゃどっちがお兄ちゃんなのか分からない。


「シャルとナイが知り合いだったのは分かったけど、ナイになんの用なわけ?シャルが関係あることなの?」


「いまここで1番関係ないのアンタだぞ、アシュレイ」


ド正論。よく言ったツェル。


拍手をしてあげたいけれど、レイに巻き付かれているせいで腕が拘束されて叶わなかった。


「いいから!」


「あー怒んな怒んな。ったく面倒臭いなぁ」


ツェルがだるそうに頭を搔く。


普段はもう少し柔らかい雰囲気を纏っているツェルなのに、余程面倒臭いのかレイの対応がかなり雑になっていた。


対するレイはひたすらがるがるしていて、正反対過ぎる。


これでも血の繋がった兄弟なのに。似てる要素が顔しかない。


「あれだよ、今日。ちょっと色々あって、無事を確かめたかっただけだ」


「僕が居るんだから無事に決まってるでしょ」


「あーそうだな」


一応ツェルはちゃんと、レイの問いかけに答えてくれているのに、どうしてレイの方は喧嘩腰なのか。


「その態度どうかと思うよレイ」


思わず苦言を出してしまえば、


「いい、大丈夫だナイ。ありがとう」


ツェルがそうしてふっと笑った。


慈愛の交じったツェルの視線は、通常運転の時に見たらきっと嬉しかったけれど、今彼が言いたいことは凄くよく分かる。


ツェルはそこはかとなく目だけでこう言っていた。「可哀想に」と。


そんな哀れみの目で見ないでよ。


この人に関しては、実の弟の貴方の方がよく知っている筈なのに。


お手上げとでも言うように、ツェルは両手を軽く広げた。


「まぁ、そのなんだ。ナイ、怪我はないか?」


「無いです」


「ん、ならいい。それが知りたかっただけだから。用は済んだ、俺は部屋に戻るわ」


ちょっと待って置いてかないでよ殿下!


いつから待ってたのかは知らないけれど、あれだけ長時間待っててくれたのに、一言二言確認したらOKってなんなのさ。


たぶん私の安否確認よりも、後ろのレイの対応が面倒臭いの方が勝ってしまったんだろう。


だけどさ、


「殿下待って!行くならレイを引き取るか、私も連れて行って!」


そう叫んだ私の声はツェルには間違いなく届いたけれど、右手をひらひら振るだけで終わってしまった。




それから私がレイから解放されたのは、丸々小一時間経ってからだった。


その間に訳の分からない質問責めをされたことは、言うまでもない。

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