【35話】王子様と帰り道 その2
「庭園なんかになんの用があるの?」
王宮に着く頃には大分回復して立てるようになっていた。
お城の中でまでおんぶはキツいから、下ろすように要求すると、何故かレイが渋ったもんだから、自分で歩くのに余計な時間が掛かる。
「私用」
ツェルに「逃げ切ったら今日中に庭園に来い」と言われていたから、自分の無事を伝えるついでに、ツェルの無事も確認しようと庭園に向かおうとすれば、レイが付いてきた。
まぁ別に付いて来られても構わないのだけれど。ツェルに会うだけだし。
面倒くさくて、細かい事情は全て端折って伝えれば、
「ところでさ、」
「なに」
「そのままでいいの?」
「は?」
「格好」
職業、パン屋の店員のままだったことに、レイの指摘で気が付いた。
危ない危ない。今朝も侵入者騒ぎを起こしたのに、また警備兵を呼ばれるところだった。
厄介なことに、主要キャラが多く滞在している場所だからか、王宮内はちゃんと自立しているモブが多数存在している。
見習い使用人とか下っ端だらけのエリアには、同じことを延々繰り返し続けるモブばかりだけれど。
例えば、マリーナとかあと使用人頭。他に頭の色が少々奇抜なモブ達は、私とか主要キャラと同じように自由に動く。
その人達が呼ぶ警備兵は当然の様に自我があって、自分の職務をきっちりしっかりやってくれるせいで、迂闊に王宮関係者以外の職業に変更出来ずにいた。
隅っこの死角になる所まで移動してステータス画面を開こうとすれば、物凄く視線を感じて振り返る。
「なんで見てるの?」
「どうやって別人になってるのかなぁって」
本当この人は、魔法関連のことになると酷く貪欲になるな。
なまじ知らない魔法、使えない魔法がほぼ無いせいか、見たことの無い魔法に対しての探究心が凄い。
そもそも"自動お着替え機能"って魔法なのかな?
色々考えたところで、レイがどこかに行く様子は無いので、しょうがないからレイの目の前で職業を変更することにした。
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【職業】パン屋の店員▲
【所持職業】
・国民
∟この職業に変更可能です。
[変更する/変更しない]
・パン屋の店員
∟職業制限が解除されました。
現在この職業に設定中です。
・王宮使用人
∟この職業に変更可能です。
[変更する/変更しない]
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王宮使用人の項目をじっと見つめれば、例の如く薄ぼんやりした光が身体を包む。
光が収まる頃には、衣服がマリーナに借りた簡単なドレスに変わっていた。
いつも服装で判断していたから、ちゃんと変わったのか少し疑ったけれど、職業設定中に他の服に着替えた場合は、その姿が保存されるのだろうか。
まだまだ色々、調べることが多そうだ。
望み通り"自動お着替え機能"を見せてあげたのに、レイはと言えばなんだか不思議な顔をしている。
「どうしたの?」
そう聞いてみれば、
「魔法.......なんだよね今の?魔法な筈なんだけど.......」
「?」
「いや属性が分かんなくて」
悩んでいたのか、そんな感じの答えが返ってきた。
属性か。アストリットにはまだ属性については詳しく聞いていない。今度会った時にでも教えてもらおうか。
「うーん原理は分かんないけど、魔法みたいな何かを使ってるのだけは分かったよ。ちなみにどうやってるのか聞いてもいい?」
「えっと、ステータスの職業のところをひたすら見る」
「それだけ?」
「それだけ」
他に何か特別なことはしていない。
ただひたすら見続ける。それだけだ。地味だよね、分かってる。
「ナイはステータスが見えるんだね」
レイがそう、かつてエリーに言われたこととそっくりそのまま同じことを聞いてきた。
やっぱり気になるんだね、そこ。
「通常は鑑定士?に見てもらわないと分からないのはもう知ってるよ」
「そう。誰から聞いたの?」
「.......エリー」
「エリー?」
こいつ曲がりなりにも、自分の婚約者候補の愛称を知らないだと?!
どんな神経してるんだ。.......レイに普通の人の神経求めても無駄か。
いずれ貴方が手に掛けて、殺めてしまう女の子のことですよ。とは、流石に言えなかったけれど。
じとっと不信感満載の目でレイを見てしまえば、ちょっとだけ慌てたようにレイが弁解をしてきた。
「や、エリーって愛称の子多いんだよ。宰相の2番目の娘のエリシアに、今の第1騎士団長の4番目の娘はエレアノール。他に.......嗚呼、あの子もエヴェリーチェだからエリーだ」
「あの子って」
「うん?ヴァーレン公爵令嬢って言った方が分かりやすい?」
「それ!その子!」
公爵家のご令嬢を「それ」扱いしてしまうのは、下手したら罰則案件だけれど、たぶんレイだから大丈夫だろう。
咄嗟に出たんだ。悪意は無いからごめんねエリー。
「よりによってヴァーレン公爵令嬢か」
エリーがレイの言った中で、ヴァーレン公爵令嬢に当たる人だよと言ったところ、レイは頭を抱えて蹲った。
「やっぱ使用人が公爵令嬢のこと愛称って呼ぶってまずいよね?」
いくら本人に呼べと言われたとしても。
位で言うのなら月とスッポン。それでなくてもモブと重要キャラクター。
「いや、それはいいよ。むしろナイにもそれくらいの常識はあったんだね」
お前にだけは言われたくないわ!!
思わず殴りそうになった拳をなんとか下げる。
呼び方に問題は無いらしい。それならレイは何故気まずそうな顔をしているのだろうか。
その答えは、しゃがんだまま口元を両手で抑えたレイの発言で明らかになった。
「僕あの子苦手なんだよね」
「へ?」
あの地上に舞い降りた天使のような子を?
性格も少しだけ地に足がついてない感じがするけれど、概ねいい子なエリーを?
と言うか婚約者候補だよね?
理解が出来なくてレイを見ると、レイは溜め息を深く吐いた。
「なんだろう.......なんか、人形と話してる気分になるって言うか。よく分からないんだけど、自我が無いんだよねあの子。立場も立場だから迂闊な対応出来ないし」
エリーの評価が人形と話しているとか、この世界のあらゆる所に存在するモブ達を見ても、同じことが言えるのだろうか。
そもそも私は、エリーに対して人形のようだと思ったことは1度もない。
どっか抜けている不思議ちゃんオーラ満載のエリーは、近所の面倒見のいいお姉ちゃんみたいな感じだった。
よく分からないって点だけは同意出来るけれど。
「まぁいいよ、あの子の話は。で、ナイはステータス見れるんだよね?」
「うん」
無理矢理話をぶった切られた気がするけれど、無理に掘り下げると長くなりそうだったから止めた。
そしてまた話はステータスに戻る。
話題がステータスってことは、
「ちょっと僕のステータス見てみない?」
お前もかっっ?!
エリーと言いレイと言い、人をステータス測定器のように扱うんじゃないよ全く。
それにステータスって、16歳でわざわざ鑑定士に見てもらって判明することで、それが王子ともなれば、重要機密になるんじゃないだろうか。
私を見上げてへらへら笑っているレイ。
「あのねぇ、そもそもレイはもう知ってるんじゃないの?」
「知ってるよ。だから僕が知ってることと、ナイが見たものが、同じかどうか確かめる為にも」
「さぁ見て!」と言わんばかりに、無駄に目をキラキラさせてこちらを見てくるもんだから、私は脱力しそうになる。
と言うか気付かなかったけれど、いつの間にかレイの瞳にハイライトが戻っていた。
あれだけ病んでますよオーラ全開で、もうレイと遭遇する度に、怖くて怖くて仕方がなかったのに。
「分かった。ちょっと気になるから見るだけ見るけど、結果に文句は言わないでね」
「うん!」
嬉しそうにレイが返事をしたところで、私はレイをじっと見つめた。
発動条件が、"凄い見つめる"以外方法が無いのが本当に嫌だ。
やがて見えてきたレイのステータスを、私は口で言っていくことにする。
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【名前】アシュレイ・スティロアビーユ
【年齢】17
【職業】第1王太子/大賢者見習い
【属性】光⚠︎
【スキル】
・魔力使用量制限無効
・魔法効果範囲制限無効
・マナ回復効果制限無効
・魔法属性制限無効
・上位魔法制限無効
・魔法強化制限無効
・魔法耐性制限無効
・毒耐性Lv8
【称号】
・光の王太子
・未来に左右されぬ者
・名称変更権所持者
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なんかめちゃくちゃ「制限無効」って言葉が乱立していて、目がチカチカしてきた。
これだけ制限無効されていれば、レイが魔法関連に特化して強いのも頷ける。
だって魔法に必要な3要素、全部リミッターが無いってことなんだもの。
それでも魔力切れを起こして倒れたりはしていたから、私に見えないだけでHPとかMPみたいな項目があるのかもしれない。
エリーの時と違って、ステータスの項目が増えているのは何か個人差があるのだろうか?
そして、少し気になる属性の横の⚠︎を更に凝視すると。
「何これ?」
つい、口に出てしまった。
「どうしたの?」
レイが不思議そうな顔をする。
「いや、なんか"光耐性無効"って言うのと、あと.......書いた方が早いわ」
道の脇に落ちていた木の枝を使って、硬い地面に見えたものを書き写す。
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【属性】光⚠︎現在、"光耐性無効""神経衰弱"
"夢魔の祈り"が付加されている
為、体力値制限/常時防御魔法
制限有り。※解除条件不明。
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ところで私は、いつになったらツェルと合流出来るのだろうか。




