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【33話】お使いイベントとお忍び散策 その5



ピリピリと肌に突き刺さる空気。


彼は常にだいたい笑顔だ。怒ってる時も笑ってて、瞬間的に無表情になるから怖い。


更にハイライトを失くした目でそれをやるから、尚怖い。


そんなレイが、めちゃくちゃキレているのが、顔を見なくても分かった。


私が知っている中では、過去最高に怒っていらっしゃる。


口調からして、たぶんいつも通り笑ってはいるのだろう。ただ対面しているゴロツキ達の顔が、血の気が引いて真っ青になってるから、怒っていますよオーラにプラス要素しか追加していない。


そのレイが、ゆっくりこっちを振り向く。


状況的に間違いなく、助けに来てくれたのは分かる。どうやったのか知らないけれど。


だけどそのブチ切れている状態で、こちらを見ないでほしい。怖いから。


「すぐ片付けるから待っててね。メイド、ちゃん」


そう言いながら私を見たレイが、何故か大きく目を見開いた。


なんとなく察する。メイドだと思って振り返ったら、パン屋の店員が居たから驚いたのだろう。


まさか使用人じゃ無ければ助けてくれないとか無いよね?


内心びくびくしていれば、レイはふっと予告無しに、今まで見たことも無いような笑い方をした。


それは物凄く、優しい笑顔だった。


真正面からそれを向けられた私は、何か言わなくちゃって思ってても、言葉が出てこない。


その場の時間が止まってしまったみたいに感じたのに、


「兄貴やばいですって!こいつ!」


ゴロツキの1人。下っ端みたいな口調の人が叫んだことで、空気が元に戻る。


「そう言えばこんな奴ら居たなぁ」って感じで、軽く首を傾げたレイは、あっさりゴロツキの方を向き直して、


「で、僕の質問は?」


と言った。


質問してた?ああなんか「何してるの?」的なこと言っていたからあれか。


わざわざ聞かなくても、誰がどう見ても私が追い詰められている人で、ゴロツキが追い詰めている人なのは丸分かりだ。


当然ゴロツキ達はこう返すだろう。


「てめぇには関係ねぇだろうが」


ほら言った。


ゴロツキ達の親分らしき人がそう主張すると、レイは、


「関係ないかどうかは僕が決める」


と、一言。


何その謎理論。

流石、世界の中心は自分な人の言うことは違う。


「君たかが風の第8魔法程度も無詠唱出来ないの?」


「なっ?!」


レイの発言に、ゴロツキの親分の額に青筋が走った。


「それでよくリーダーみたいな顔出来るね。嗚呼、だからこんな頭が悪い集団にしか入れないんだ」


そう言って、小馬鹿にしたように鼻で笑う。


すっごい煽るじゃん。


みんながみんな、貴方みたいに魔法じゃんじゃん使えるとは限らないのに。


言わなきゃいいのに舐めた口を叩くから、ゴロツキの親分は激怒した。


そうしてさっきとは桁違いに大きい魔法陣が出現する。


このゴロツキ達、自国の第1王子を知らないのか。


全員知らない訳では無いようで、何人かはにやにや笑っているけれど、さっきの人を含め下っ端の1部はレイの正体に気が付いているのか、青を通り越して真っ白な顔色になっているのに。


そんなゴロツキ達の姿も、路地いっぱいに広がった緑色の魔法陣に隠れて見えなくなる。


薄く発光している魔法陣に、読めないけれど文字らしき物が次々浮かび上がった。


待って、仮にこの規模の魔法を発動されて、レイが対抗魔法で同じくらいの魔法を出したとしよう。


この辺り一体崩壊するんじゃないの?


レイはパン屋を一瞬でガラクタにした前科があるし。間違いなく隣接する建物が吹っ飛ぶ様が、それはもうリアルに想像出来た。


それにレイの後ろに居るとはいえ、私への被害も何かしら来るだろう。


「レイ、待っ、」


ちょっと抑えて!と言おうとしたところで、


「こうだっけ?」


レイがくいっと顎を動かした。


その瞬間、あれだけでかでかと存在を主張していた魔法陣が、跡形もなく綺麗に消える。


「(これ見たことある)」


何が起こったか理解していないゴロツキ達の表情の中、私だけはレイが何をしたのか気が付いていた。


「メイドちゃんの魔法の真似」


茶目っ気たっぷりにそう言うレイ。


レイは、私が以前無意識に発動した魔法を、そっくりそのまま再現していた。


「てめぇ何をした?!」


「そんなの自分で考えなよ。魔法は想像力が大事って知ってるでしょ?」


右手の人差し指でとんとんと2回、自分の頭を突っついたレイは、もはやゴロツキ達を馬鹿にする態度を隠そうともしていない。


人をおちょくるのも程々にしないと。真っ青な子分達の中で、怒りで真っ赤な顔になったゴロツキの親分だけが、変に目立っているじゃないか。


血管が簡単にぷちっていきそうなゴロツキの親分に、レイは愉快そうに数回笑った。


「でも僕優しいから教えてあげるよ」


貴方が優しかったらこの世界の全員優しいと思う。


レイは自称優しさをゴロツキ達に与える為、右手をそれっぽく前に出す。


そしてそのまま、


「これが、風の第8魔法」


暴風。


空気の塊が飛んできて呼吸がし辛い。耳には唸るような風の音以外、何も届かない。


私は反射的に目を瞑って口元を手で抑えていた。


何か大きな塊に、身体を押さえ付けられているような感覚がして、身動き1つ取ることも出来ない。


竜巻の中に落とされたらこんな感じなのだろうか。


息苦しさに眉間に皺が寄り切った後、やがて風が収まって、もみくちゃにされた髪の毛がはらはら頬に落ちてきた。


呼吸がしやすくなる。


飛ばされないように、無意識に力を入れていた身体を緩めて、目を開けてレイの方向を見れば、


「呆気ないなぁ」


1人悠々と立つレイの周りに、ゴロツキ達が糸の切れた人形みたいにばたばた散らばっていた。


優しさとは。


後ろの私ですら辛かったんだ。あれを正面からぶつけられたゴロツキ達は、たまったもんじゃないだろう。


せめて慈悲の心は無いとしても、一応止めようとはしてくれた、下っ端のモブくらいは見逃してほしかった。今更言ったところで後の祭りなんだけども。


「死んでる、の?」


おっかなびっくりそうレイに聞くと、


「まさか!気絶してるだけだよ。約束したじゃん理不尽に殺さないって」


「ああ、そう」


変なところで律儀なんだから。力が抜ける。


ここでようやく私は、ほっと大きく息をつくことが出来た。


怖いゴロツキ達は倒された。もっと怖い人来ちゃったけれど.......。味方っぽいからそこまで怯えなくてもいいだろう。


じゃりっと音がして、レイはこちらに歩みを進めた。


蹲ったままの私と目線を合わせるようにしゃがみ込んで、左の頬にレイの右手が添えられる。


「?」


「怪我は無い?」


頷くと、


「そう」


レイはまた、私が見たことの無かった笑顔を向けてきた。こんな表情を毎回していれば、無駄に恐れられることも無いだろうに。


「そっか」


満足そうに1度目を瞑る。


そうして開かれた瞼の下に、鎮座していた紫色の瞳に光が入る。


「メイドちゃんはナイだったんだね」


柔らかく上がったレイの口は、そんな言葉を紡いでいた。







「ナイ」


レイの口からその名を呼ばれるのは、本当に久しぶりだった。


意図的に名乗るのを拒否していたから、当たり前なんだけれど。


「なに?」


もう言い逃れは出来ない。パン屋の店員の姿の私は、レイの知っているナイそのものだから。


自分がナイだと認めて肯定の反応を返すと、レイは何を考えているのか私をゆっくり抱き寄せた。


思わず「うわっ」って声を出してしまう。こう言う時に「きゃっ」とか可愛く反応出来ないから、私はモブなのだろうか。


「そっかぁ.......メイドちゃんだったか。それは探しても見付からないよ」


「メイドちゃんって.......分かるの?」


パン屋の店員から町娘に変わった時も。

町娘から使用人になった時も。


何故か別人と認定されて、全部同一人物だって誰も気が付かなかったのに。


「メイドちゃんでしょ。違うの?」


「いや違くないけど」


例えばレイの目の前で、私が使用人からパン屋の店員にジョブチェンジしていたなら理解出来たであろう。


でも今回は、レイが来た時には既に私はパン屋の店員に変わっていた。


前とさほど状況は変わらないのに、どうしてか今回は、レイは"ナイ"と"メイドちゃん"を同一視している。


「なんで分かるの?」


前は分からなかったのに。


「内緒」


「なんでここに来たの?」


「それも内緒」


何を聞いても秘密ばかりで、不満を言おうと顔を上げて、


「っっ!」


レイとの顔の近さに気が付いて、今度は私が大きく目を見開いた。


呼吸の音を聞かれたくなくて息を止める。紫の中に存在する瞳孔が、猫のように縦に尖った。


その視線から私は、逃げることが出来なくて。


私とレイの鼻の先同士がくっ付く。


あと少しで唇が触れるか触れないかのところで、


「いっっっっ?!」


レイが情けない声をあげて身体を離し、顔を抑えて蹲った。


原因は、私が思いっ切りレイの口元めがけて、平手をする勢いで手を振り下ろしたからである。


打つ所を少し外してしまったので、パチーンって綺麗な音は出なかった。骨を殴ったらしく、掌がヒリヒリするがそんなことはどうでもいい。


「お前いま何しようとしたっっ?!」


何スチル的な雰囲気を作り出してんだ。それも終盤あたりの。


体勢を整えたレイの胸ぐらを掴みかかりたい衝動を我慢して、背中に壁がくっ付くまでずりずりと下がる。


「何ってちゅーしようとしただけで、」


「この状況でおかしくない?!そう言う雰囲気だったいま?!違うよね?!ワタシハアナタトソウイウカンケーデスカ?答えはNOだよ!!」


驚き過ぎて変なテンションになったまま、私はレイに捲し立てた。


「いーじゃん減るもんじゃ無いんだしさ」


「精神がすり減るわっっ!!」


正体がバレて、レイ側からすれば感動の再会?かたや私は、ピンチを助けてもらったさながらヒロイン。


だからってそのノリでキスをする程、私の頭はお花畑ではない。


この際ハグは許すよ。突然過ぎて反応出来なかったし。なんか昼頃も不意打ちとはいえやられたし。別の人だけれど。


外国ではハグが挨拶な所もあるくらいだから、その程度なら許す。


でもその先となったら話が変わってくる。


乙女ゲームじゃないんだからさ。.......いや乙女ゲームなんだけどね?世界は。


「あーおっかしー」


パニックを起こした私が面白いらしい。


失礼にもケラケラ大笑いをしながら、呼吸困難になり掛けているレイは、笑い過ぎて浮かんだ涙を拭いとった。

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