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【31話】お使いイベントとお忍び散策 その3



背後から聞こえる怒声を耳に、ひたすら走る。これでもかと走る。


直ちに止まれ系のもっと乱暴にした言葉が、背中にぶつかっては落ちていく。


止まれって言われて止まる奴なんかいない。


「なんでっっ」


肺が酸素を求めているせいで呼吸が苦しい。


足も痛いし散々だけど、前にひたすら進むことだけは止めない。止めないと言うか、止められない。


後ろから追い掛けてくるゴロツキ達の顔が怖いから。凄い剣幕でどこまでも追い掛けてくるし。


それに何より。


「なんでモブのくせに自我があるのよぉおおおおお!!」


虚しく叫んだ私の声は、見えないメッセージウインドウに阻まれて、無情にも響き渡ることは無かった。







如何にも悪役です!と言った顔の侯爵が口を開く。


「それで、禁術は分かったのか?」


「ルヴァッケーダ侯爵様。秘はここに」


私達が追い掛けてきたモブの姿をした青年が、テーブルの上に1冊の古ぼけた本を置いた。


「おお、これか」


「ですが禁術とは、発動出来る者に条件があるのでは?」


ツェル曰く、ヴェルディメント公爵家の人間らしい人が質問を発すると、


「闇属性であることと、一定の魔力量が必要です」


またモブの格好をした--面倒臭いから似非モブで。が、答えを出す。


この密会でのボスはルヴァッケーダ侯爵で、仕切っているのは似非モブなんだと、見ていればすぐに分かった。


「それに禁術故に、発動した者は例外なく死を迎えることでしょう」


「闇属性は光に次ぐ希少属性だからな。失うのが駒だとしても、少し惜しいぞ」


「ええ、ですからルヴァッケーダ侯爵様。この禁術を使うにあたり、我らが失っても困らない。いやむしろ消えて頂くことで功をなせる、適任な者が居るではありませんか?」


「シャッテン殿下か」


にやりと、薄気味の悪い笑みを浮かべたルヴァッケーダ侯爵に、似非モブは両手を開いてまるでパフォーマンスするような仕草をする。


「ええ、そうです。上手く誘導してシャッテン殿下に禁術を発動させ、アシュレイ・スティロ・ア・ビーユを殺させましょう!さすれば禁術を使用したシャッテン殿下も代償で死に、我らの目的に近付けるでしょう」


「万が一シャッテン殿下が生き残った場合はどうする?」


「大丈夫です。何せ使うのは禁術!いくら無能な第2王子であろうとも、禁術を使用して兄である第1王子の暗殺を企てたとなれば、無事では済まされないでしょう。それに第1王子の位に埋もれたあの王子のことです。なんとでも出来るでしょう」


「現王も今や力の無いただの老いぼれだ。あれはアシュレイ殿下が驚異的だからこそ、今もまだ玉座にしがみつけているだけに過ぎない。邪魔な王子が2人共纏めて消えるとなれば、」


「我らが王の時代を、再び戻すことが出来ます」


その言葉を聞いたルヴァッケーダ侯爵は、悪役らしく大きな声で笑う。


と、言う話の一部始終を、


「聞きました?」


「嗚呼」


私とツェルはがっつり盗み聞きしていた。


話を聞く限り、ツェルにレイを殺させて、ついでにツェルにも死んでもらって、"我らが王"だとか言う人を王位に付かせたい、だろうか。


第2王子派って名目だけで、これもうただの反逆者じゃないか。


レイの味方でも無ければ、ツェルの味方ですらない。


とことん腐っている典型的な悪役。


そしてどうにも第2王子派に舐められているツェルを、上手くだまくらかすそうだが、


「要約するとアイツちょろいみたいなこと言われてましたけど、今のお気持ちは?」


「俺がアシュレイならぶっ殺してた」


「ツェル様があの人じゃなくて良かったです」


この計画全部、騙すご本人に聞かれてるんじゃ話にすらならないだろう。


さっきからずっと話の題材として出ている禁術。私はこれに覚えがあった。


「(絶対、ゲームのツェルがレイに掛けたやつだよね?)」


シナリオではツェルの独断で、みたいな感じだったけど、もしかしたらシナリオの中のツェルは騙された故なのかもしれない。


思えば偽名を使ってまで王であることを隠すくらいには、ゲームの中のツェルは常に何かから逃げていた。


王としての職も責も勿論悪王の噂も、全部引き受けていたけれど、公の場には絶対に出てこないで、ヴァルデ経由で王命を出すくらいには。


「ツェル様はレ……アシュレイ殿下を殺したいですか?」


ふと思った疑問。


ゲームの中のツェルもそうだけど、今のこのツェルからも、レイを危惧する描写はあっても、殺したい程憎んでいる様子は無かった。


封印だって何年も掛けていた割には、他に方法が無くて仕方なくやった的なことを言っていた気もするし。


ゲーム内のレイもレイで。傍若無人で残虐性は強かったけれど、ツェル自体に恨みつらみは言っていなかった。


再起不能なまでに封印されて、王の座から引きずり下ろされたのにも関わらず。


私の問いに対してツェルの答えは、


「そんなことを思ったことは1度も無い」


NO。


「もし仮にアシュレイ殿下が人を殺めてしまったとしたら?」


「その時は力ずくでも止める」


もしかして、いやもしかしなくても。ツェルもレイも、この兄弟そこまでお互いのこと嫌っていないのかも。


ツェルには本当に信じられる人が、主人公とかごく1部しかいなかった。


エリーも死んでしまって、気軽に話せる人も居ないとして。


そんな中でやりたい放題やっている兄を、止める為の唯一の方法が禁術しかないと、言葉巧みに言われたら、ツェルは恐らく信じるだろう。


そして、実行してしまうのだ。ゲームのように。


「黒幕は他に居る、とか?」


そう、すぐ考え込むのは私の悪い癖だ。


あまりにも悩み過ぎて、自分が今立ってる場所がただの石の上なことを忘れていた。


気が付いた時には、時すでに遅し。


そこまで大きな音は出さなかったけど、それでも盛大に私は後ろへひっくり返った。


ツェルが物凄く驚いている。


ごめんと謝る前に、


「誰だっっ!?」


まぁそうなりますよねぇってお決まりの展開で、密会メンバーに気付かれてしまう。


「ごめんなさいツェル様」


「いいから!逃げるぞ!」


ツェルに手を引かれて、一目散に逃げる。


ただ流石悪役でもお貴族様。


用心棒としてゴロツキを雇っていたらしい。ここまでがテンプレート感が凄い。


逃げても逃げても撒くことが出来なくて、ツェルと2人で街中を使った鬼ごっこが始まった。


正直に言えば、一緒に逃げない方が私達の逃げ切る可能性は増える。


何故なら私は"自動お着替え機能"を使って逃げられるし、ツェルはただのゴロツキに負ける程弱くは無いから。


でも優しい王子様は、私の手を引くのを忘れない。置いて行くなんて、彼の選択肢には無いのだろう。


「ツェル、様。ツェ、ツェル!」


「なんだ?!」


必死で走ってるから名前を呼ぶだけでも一苦労だ。


どれだけ逃げ回っても周りのモブ達は気にも止めないし、だから尚更人混みを掻き分けて逃げなきゃいけない。


「私は、私は最悪なんとか、なるんですけど!ツェル様が、例えば、捕まっ、たら!」


ただのモブが捕まる分には問題無いだろう。


モブ故に生命の危険には晒されるが、まぁそれはどうとでもなる。


問題は、ツェルが捕まることだ。


メインキャラ以前に彼は王子。奴らに捕まったらそれこそ後が無いだろう。


これがまだ王宮内なら救いはあったけれど、残念ながら街で、しかもツェルはお忍びで来ているときた。


都合良く、罪を押し付けられる役にされてしまうかもしれない。


それを切れた息で、私は必死でツェルに伝える。


「私は大丈夫、ですから!」


「アンタを置いて行けるか!!」


「本当に、大丈夫なんです!さっき、言ったでしょう?逃げる、のは得意、だって!」


置いてけ、嫌だ。の攻防戦を続けていたら、諦めたのかツェルは、


「あーもう分かった!じゃあ絶対に逃げ切って今日中に必ず庭園に来い!必ずだっっ!!これでいいかっっ!!」


「流石殿下!!」


「でかい声で呼ぶなって言ってるだろう!!」


そう言って、私達は二手に別れて逃げることにしたのだった。


そして今私は、ゴロツキ一味の1部と地獄の追いかけっこをしている。

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