【30話】お使いイベントとお忍び散策 その2
「やばい見失った」
ツェルがそう言って、大通りを悔しそうな顔で見た。
私と話し込んでいる内に、目標を見失ってしまったらしい。
「まだそう遠くには行っていないのでは?」
物陰で話していたとは言え、そこまで時間は掛かっていない筈。
仮によくある転移魔法がこの世界でもあるのなら、難しい話になってくるけれど。
「そうだな……探すか」
ツェルはそう言って大通りに出た。
私はと言えば。
「なんで付いてくる?」
「乗りかかった船と言うか、なんと言うか。私と話してたせいで見失っちゃったので、何か力になれればと」
罪悪感故にツェルの手伝いをすることに決めた。
「あ、ほら。1人よりも2人の方が見付けやすいでしょう?」
「嗚呼、そうだな。助かる」
そう言って、またくしゃりとツェルに頭を撫でられる。
どうにも子供扱いされている気がする。まぁ見た目はまだ13歳だから子供なんだけど。
ツェルの態度は子供の中でも特に、幼子を可愛がる種のそれで。
兄が居るのならこんな感じなのかと思う。
元々、私、長女だったから分からないけれど。
パッと見平民の格好をした王族と、どう見ても平民の私。
その2人が共に歩いてたところで、すれ違う人は何も思わない。誰かをつけるには完璧だ。
ここまで高貴な雰囲気を隠し切るツェルも凄い。
大通りは色々なお店が並んでいて、特に食べ物屋さんが多い傾向に見れた。
だいたいが出店スタイルで、お祭りの縁日みたいになっている。
「集まる場所とか分からないんです?」
ふとそう思ってツェルに聞いてみると、ツェルはゆっくり首を振った。
「毎回変えているらしくてな。決められた場所でもその都度変えるらしい」
なんて慎重な。これが普通のモブなら同じ場所に滞在し続けるだろうに。
隠れて集まる場所。私ならどうするだろうか。
よくあるのが酒場の隠し部屋とかだけど、それらしい建物は無い。
しばらくツェルと軽く雑談をしながら辺りを見回して、
「……………あ、」
絶句しそうになった。
「どうした?」
私の反応にツェルが怪訝そうな顔をする。
「1つ聞いておくんですが、今日集まる人達の把握とかしてます?」
「1部はな。ただ全員は分からない」
「人を雇っている可能性もあると?」
「まぁ、そうなる」
第2王子派はどこまでも慎重らしい。
慎重なのは良いことだよ。それが国家を揺るがす企みごととかなら尚更。
ただ、その慎重さが逆に仇になるとは思いもしなかったんだろう。
「あの私、見付けたかもです……」
「第2王子派が誰か知ってるのか?」
「いや知りませんよ?そんな派閥があるのも今さっき知りましたもん」
「じゃあ、」
なんで分かるのかって、ツェルは聞きたいのだろう。
それはまぁ、人が人として見えているツェルには分からないだろう。
それぐらい上手く溶け込んでたから。さっきのツェルみたいに。
だけどね、私には誤魔化せないんだよ。悲しいことに。
「あの男の人たぶん第2王子派の人です」
私がツェルを軽く引き寄せて小声で教えた人は、3人に1人は居るであろう一般的な、量産型モブ男雑踏ver.の格好をして歩いていた。
それだけならいい。ああ、同士が居るなぁ程度にしか思わないから。
でも、
「違和感あり過ぎでしょ……」
「?」
「独り言です」
その男モブには、目があった。
もうばっちり顔面にお目めが2つくっ付いていた。
モブがみんな目が無いとは限らない。商人さんとか、他の人と関わる職種の人だったり、栄えている場所のモブには、目があるものだから。
だけどそれは"栄えている場所"限定で、勿論自由行動なんかはしない。
目があって会話をしているモブでも、一定の場所から離れないのがほとんど。動いてても、同じ所を行ったり来たりしているのが普通。
更に量産型モブに、目がある奴を私は見たことが無い。
目のあるモブ達は、服装は同じでも髪型が違ったり帽子を被っていたり、何かしらワンポイントとなる個性がほんのりあるのだ。
私が注目したそのモブは、見た目は個性の欠片も無いモブそのものだったのに、目があった。
それだけでも違和感を感じるのに、なんとそのモブは、キョロキョロ周りを見回した後に、古びた建物の中にさり気なく入って行く。
はい、確定。
基本的に街の雑踏役の量産型モブが、こんな真っ昼間に建物の中に入ってたまるか。
モブ達は意思がないにしろルールがしっかりしていて、自分の役目から外れたことは絶対にしない。
故に、雑踏役のモブは日が暮れるまで雑踏役に徹するのだ。
ある程度自由度の効くキャラクターがやっているのなら、ここまで思いはしなかったけれど、量産型モブがやるにはあまりにも不自然過ぎる行動。
可能なのは、主要キャラ関連のイベントに関係している人物ぐらいだ。
第2王子派で密会をしていて、しかもそれをメインキャラのツェルに張られている。充分に主要キャラ関係者要素があるじゃないか。
「ツェル様早く、あそこです絶対に!」
「ちょ、待っ、根拠は?!」
ツェルの腕を引っ張って、例のモブが入った建物に行こうとすると、ツェルから疑問の声を投げられたから、
「勘です!」
と、私は言い切った。
◆
木造建築の古びた建物。大通りとは反対側の壁に私達はぴったり張り付く。
少し高い所に窓があったから、手頃な石を踏み台にして、こっそり中を覗いた。
隣のツェルは、背伸びをするくらいで覗けるらしく踏み台は無し。羨ましいポイントもう1つ増えた。
「誰が誰だか分かります?」
「暗いからな」
密会場所の室内は薄暗く、蝋燭が数本明かりの役目を果たしているだけで、部屋のど真ん中に置かれた丸いテーブルと数個の椅子以外何も無い。
雰囲気的にはめちゃくちゃオカルトサークル。この暗さはレイが喜びそうだ。
しばらく覗いていると目が慣れてきたのか、私もツェルも人の顔の判別くらいは出来るようになってきた。
「私、お貴族様ほとんど知らないんですけど」
「全員が全員貴族じゃ無さそうだ」
「そうなんです?」
「嗚呼。でも貴族も居る。ほら、あそこのハゲ……じゃなくてこう日の出のような頭の、いや、違うな。まるで卵のような……これも違う」
「ハゲでいいですよ、笑わせないでください」
乱暴な言葉を使いたくないのか、頑張って頭髪の可哀想な人を、上品に表現しようとしているツェルの無駄な努力に吹き出しそうになるのを抑える。
「いや、まぁ、とにかくあれが、ルヴァッケーダ侯爵」
「え、つるっぱげーだ侯爵?悪口じゃないですか」
「違う!ルヴァッケーダだ。アンタの方こそ笑わせようとしてるだろう」
だってそう聞こえたんだから仕方ないじゃないの。
どしりと腰掛けるつるっぱげーだ侯爵基ルヴァッケーダ侯爵。こう言っちゃ何だが、典型的な悪役貴族顔だ。
ツェルは1人1人、知っているであろう人の名前を教えてくれる。
「あれは、タトルマン商店の奴だな。その横が、ヴェルディメント公爵の側近か」
「公爵って王族の次に偉いお家でしたっけ?」
エリーも確か公爵家の人間な筈だから、公爵家が貴族の中でも特に偉い一族って言うのは知っている。
私がそう聞くと、ツェルは黙って頷いた。
人数は全部で8人。よくもまぁこんな狭い部屋に集まったなぁっと思う。
一通り見てツェルは、
「他にも貴族以外が居るが分からないな」
と言った。
「私あの端の人だけどっかで見たことあるんですよ」
全く知らない人ばかりだったが、1人だけ見覚えのある青年が居たからそうツェルに教える。
「あれは……俺は知らない奴だな」
「どこだっけかなぁ……どっかで見たんだけどなぁ」
モブだらけだから、人らしい行動をする人は覚えてる筈なんだけど。余程接触したこと無かったのか、それとも暗がりだからか。
その青年の正体が分からない。
「まぁ、いい。その内洗いざらい分かるだろうから」
「それもそうですね」
取っ捕まえればどうしたってすぐに分かる。1人捕まえれば芋づる式に判明するのが、悪役と言うものだから。
って。
「今、捕まえるんです?」
闇属性の第2王子と、魔力は持ってても使い方が分からない、ほぼ凡人の私の2人で?
いくらなんでもゴミカスパーティー過ぎやしないか。
ツェル1人ならワンチャンどうにかなるかもだけど、そこに私と言う足でまといをブレンドすることで、一気に戦力が下がる奇跡のパーティーだと思う。
私と言う存在が、最早呪いのアイテム要素しか持っていない。
一応転生者だよね私?
とりあえず私とツェルだけでは、某、何の変哲もない木材の棒で、ラスボスとまではいかなくても、中ボスくらいに挑めって言われてるようなものだ。
「私、洗濯かとにかく逃げる以外何も出来ませんよ?あ、しらばっくれるも得意です!」
最悪、"自動お着替え機能"を使えば、間違いなく逃げ切ることだけは出来る。そんな逃げ足に特化した能力以外は何も無い。戦闘力なんかは今のところ皆無に等しいし。
だから逃げるなら任せてね!と、胸を叩けば、
「それは胸を張って言うことじゃないだろう」
ため息混じりに呆れた答えが返ってきた。
「安心しろ。証拠も無しに捕まえることは出来ないから、まだその時じゃない」
「じゃあ盗み聞きするだけでいいんです?」
「盗み聞きって人聞きが悪いが、まぁ今はそうなるな」
情報収集が優先。確かにそうだ。
ここで乗り込んで万が一にも、密会じゃなくてただの黒魔術愛好会だったら、裁かれるのは私達の方だ。
そんな初歩的なことも予想出来なかったのか私は。と、少しだけ項垂れる。
なんだかこの世界に来てから、お馬鹿に拍車がかかっている気がするのだけど、気のせいだろうか?




