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【29話】お使いイベントとお忍び散策



洗濯物ばかりずっとやってきたけれど、ステータスから"見習い"が取れたからか、他の仕事を振られるようになった。


相変わらず部屋はマリーナと一緒で、なんとか滑り込みで間に合った私に、マリーナは、


「ごめんねナイ!気が付いたら寝ちゃってて!」


と、昨夜私を閉め出したことをそれはもう必死に謝ってくれたけど、あれがゲーム仕様なんだと気付いている私は、つられて必死でマリーナは悪くないと弁解をした。


強いて誰かが悪いと言うのなら、それはもう世界が悪い。


それに自業自得な面の方が強いし。


だから「昨日の夜はどうしてたの?」と聞いてきたマリーナを、適当にはぐらかしたのをむしろ許してほしい。


そんなこんなで私は、新しく割り振られた仕事の1つ。


お使いイベントをこなしに、街へと久しぶりに繰り出していた。







王宮に近い場所だからか、モブの量も一際多い。


中には会話をしているモブも数人居て、珍しく雑踏の中って言う雰囲気を、私は味わっている。


今回課せられた任務は、街の道具店に手紙を届けること。


滅多にそんな郵便屋さんみたいなことはないのだけど、なんでも舞踏会関連で緊急の用があるらしく、見習いが取れたばかりで対して決まった仕事も無い私が任命されたそうな。


メイド服は街では目立つから、これまた久しぶりに"自動お着替え機能"を使って"町娘"に変えたら、何故か着替えると別人認定されてしまうせいで、侵入者だなんだとあわや牢屋送りにされそうになったから、慌てて"王宮使用人"に戻した。


それでどうしようか悩んでいれば、ここでも天使のサブキャラ、マリーナ様。


彼女なんと、自分の休日用の私服を貸してくださったのだ。


貸してもらう過程で、私が王宮から支給された物以外、服を1枚も持っていないことに驚かれたけど。


何はともあれ、街の中に居ても目立たないモブに着替えることが出来たから、もうマリーナに足向けて寝れない。


そうして、道具屋さんに手紙を運ぶイベントは、特にトラブルも無く無事に終わった。


あとは帰るだけだったんだけど。


道具屋さんを出てすぐの大通りで、気になるものを見付けた私は、それをひたすら凝視している。


一見すれば、普通の人混み。


賑わうモブ達。


私が量産型モブでなければ、きっと気付かなかっただろう。それくらいには上手く下町の雰囲気に潜り込んでいるけれど。


如何せん、私はモブ。


そしてモブがモブとして見えるモブフィルターの持ち主だ。


他のモブは誤魔化せても、この私には誤魔化せない。


だって目が無い個性も無いモブ達の中で、貴方はあまりにも突飛出ているのだもの。


気付かれないようにその人の背後に回ってそっと声を掛ける。


「こんな所で何してるんですか王子様」


「うっ」


街人Aみたいな格好してても、絶対に見過ごせない金色の瞳と目が合った。


なんで第2王子がこんな下町に居るのか。


「なんだナイか」


なんだってなんだ失礼な。


私の姿を確認したツェルは、ほっと胸を撫で下ろした。


「アンタなんでここに居るんだ」


「お使いですけど?あそこの道具屋さんに手紙届けに行ってたんです」


「そうか」


「王子様は?」


「ばっ、でかい声で呼ぶな!」


妙に慌てたツェルに口を塞がれる。


「あ、悪い。つい」


「いえ」


すぐに私の口から手を外して謝ってくれたツェルは、確かに女子供に乱暴なことはしない人で、余程嫌だったんだろうと理解した。


「じゃあなんて呼べばいいんです?シャッテン様……は、分かる人には分かるか」


「あー……あれにしてくれ」


「あれ?」


呼び名に困れば気まずそうに目線を逸らしたツェルが口を開く。


「ツェル」


「畏まりました」


おお、ご本人から"ツェル"呼びの許可を貰った。ちょっと嬉しい。


たぶんと言うか間違いなく、お忍びで来ているのだろう。忙しなく辺りをキョロキョロ見回してるのがその証拠だ。


まぁツェルが何をしてようと私には関係無いから、邪魔をしない内にとっとと退散しようとすれば、


「悪い!ちょっと付き合ってくれ」


「は?」


急にツェルに腕を掴まれて、物陰へと押し込まれるじゃないか。


なんだなんだ、レイなら分かるけどツェルに限ってこんなこと。


狭いから妙に近くて、格好としてはもはやツェルに抱き締められているに近い。


嫌でも心拍数が上がる。今日は心臓に悪いことが多い。


物陰からツェルは外の様子を見ているのか、


「あ、の、」


「しっ、黙って」


口を開きかけた私に、話さないように釘を刺す。


しばらくして、


「あー非番じゃ無けりゃなー」

「そう何度もサボらせるか馬鹿者」

「へいへーい」

「街の見回りも大事な仕事だ。こうして我々が日頃から目を光らすことで、」

「犯罪を未然に防ぐ!だろ?もう耳にタコができるくらい聞いたぜそれ」


そう会話をした人達が通り過ぎて行く。


「アストリット?」


「知ってるのか?」


「まぁ、一応は」


声からして、通ったのはアストリットだろう。


ぼそっと彼の名を零せば、ツェルが質問をしてきた。


「騎士にバレると厄介だからな」


「連れ戻されちゃいますもんね」


一国の王子がふらふら街に居たら、そりゃ騎士達は捕まえるだろう。


だからアストリット達から隠れる為に、物陰に押し込まれのだと分かった。


「行ったか?」


「恐らく」


溜め息を1つ吐いて、ツェルが離れる。


「悪かったな乱暴にして」


「いえいえ、だいたい状況把握したので」


きちんと謝ってくれるなら、それ以上は咎めない。


ちょっとドキドキはしたけど、それは彼が攻略対象故に無駄に顔面が整っているからだ。


ツェルが伸ばしてくれた手に掴まって私が立ち上がると、ご丁寧にもツェルはドレスの裾を払ってくれた。


借り物だから汚しちゃいけないと、確認した結果幸いなことに汚れは無かった。一安心。


「で、何してたんです?こんな所で。ただのお忍びなら私は見なかったことにしますけど」


「あーなんと言うか……」


ものの試しでツェルに聞くと、ツェルは言いにくそうに渋る。


「言いたくないなら言わなくていいですよ?どっちにしろ私は今、誰とも会わなかったので」


「いや、いい。偵察してたんだ」


「偵察?」


王子の他に、職業、警察でも持っているのだろうか。


首を傾げると、


「その内密にしてほしいんだけど、この近くの酒場で第2王子派が密会をしてるって情報を得てな」


「第2王子派?」


「次期国王をアシュレイじゃなく俺にしたい貴族達だ」


「はぁ」


それの何が悪いのだろうか。


第1王子派であれば探るのは分かるけど、自分の派閥にどうして身分を偽ってまで張り込むのか。


私が不思議に思ったのに気付いたのかツェルは、


「第2王子派って言っても名ばかりなんだよ。俺を王にして裏で実権握りたい奴らの集まりだ。アシュレイだったらそうはいかないからな」


「そんなことあります?」


「あるんだよ、それが。俺は別に国一の魔力持ちでも無いから、扱いやすいんだろう」


「なんか、寂しいですねそれ」


本来味方な筈なのに、利用される為だけに居るなんて。


そこまで魔力が大事なのだろうか。


実際ゲームの中では、彼は事前にレイの凶悪さを見越して、いずれ国民に被害が出るからと、命懸けでレイを封印したし。突然継いだ王位を使って、自分じゃないのに自分が悪王だと名乗ってそれでも必死で国を守ろうとしてた。


仲が良くなかろうと自分の兄を、封印するなんて悲しくない訳ないのに。


レイかツェル、どちらがいい王になるかと聞かれれば、ゲームの中では間違いなくツェルの方だった。


「私はツェル様の方が良い王様になると思いますけどね」


つい、ぽろっと口に出してしまえば、少しだけ驚いた顔のツェル。


「アンタ、アシュレイの味方じゃないのか?」


「はぁ?!有り得ませんってそれだけは!何をどう間違えたらそうなるんですか?!」


何故かレイ派の人間だと思われてて憤慨する。


この人にレイの愚痴を言ったことがあるのに、どうして奴の味方だと思われたのか。


私の様子に狼狽えたツェルは、


「いやだってアシュレイの……いや悪いなんでもない」


何かを言いかけて止めた。


あの人の味方とか有り得ない。


そもそも推しじゃないし。王子達で言うなら私はむしろツェルの方が好きだ。


図々しいし振り回すし距離近いし、それにあとちゅーしてきたし。


そう考えてはっと、今朝のことを思い出して顔に熱が上る。


「天地がひっくり返っても無いですからそれだけは!」


「そこまでか」


私の勢いに押されてツェルは苦笑いを浮かべた。


私とことんこの人に、ビビらせるようなことしてるなぁっと思う。


もう何回目か分からない、ツェルに対してのことでちょびっと反省をしたら、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。


「何するんですか」


「いや特に?……ありがとな、ナイ」


「お礼言われるようなこと一切してないんですけど……」


思わず膨れっ面になると、ツェルが笑う。


「俺はな、ナイ。王にはなりたくないんだ」


「どうして」


この国の人なら誰でも、王になりたいと思うのが普通じゃないのだろうか。


実際、王としての能力がツェルにはちゃんと有ることを、現状私が1番よく知っている。


それを伝える方法も立証する方法も、私には無いのだけど。


「誰も苦しまない世の中を作るには、俺じゃ力不足なんだ。でもアシュレイなら出来るんだよそれが。王になるのはアイツだ。俺がやるべきなのは、アイツが間違った時に止めることだ」


「そんなこと、」


無いとは言えなかった。


だってあまりにもツェルが真っ直ぐに私を見ていたから。


ツェルは本気で、レイが自分よりも王になれると信じているのだろう。


そんな人に貴方が王になれとは言えない。


「ナイ、頼みがある」


「なんですか?」


「味方でなくても良いから、アイツの傍に居てやってくれ。アイツを支えられるのは、たぶんアンタしか居ない」


何を根拠に。と、問いただしたくなるのを押し殺した。


支える程接触したつもりは無いけれど、ツェルの中では何かが確信めいているのだろう。


これは兄弟だから分かるのだろうか。


「考えときます」


ともかくその時私が言えたのは、YESでもNOでも無い答えだった。

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