【25話】魔法と新たな出会い その2
「まず初めに、魔法とは主に大気中のマナを一箇所に集めて形付けることを言うんだ」
「はい」
「魔法を使用する条件として、
・潜在マナ量とマナの形容量。
・自身のマナと大気中のマナの同調率および同調範囲。
・マナの回復力。
この三つが基準よりもある程度多くなければ魔法は使えねぇ」
「はい」
「生きる上でマナを常に消費し回復を繰り返してるから、マナを持たねぇ生物はいねぇ。その最低限生命維持の為に必要なマナ量以上を消費し、回復が追い付かねぇと身体の活動が停止して最悪死ぬ」
なんかカロリーみたいだなぁ。カロリーも大幅に無くなっちゃったら動けなくなるし、消費カロリーとかもあったし。
エネルギー要素のような物かと1人納得。
「んで、マナと回復量が生命維持に必要な量を超えたもん。それを一般的には魔力っつんだ。
基本的には初めから魔力量は決まってるが、例えばマナの形容量が多い奴は、鍛えりゃある程度増やすことが出来るし、
大気中のマナとの同調率が高く、範囲も広い奴は、何もしなくてもマナを摂取し続けている状態だから、消費しなきゃ自ずと増えていく。
お前が溜め込んでるって言われたんは、恐らくそう言うことじゃねぇの?」
「はぁ」
専門用語ばかりでよく分からないが、コップがあったとして、そこに初めから注がれてる水が潜在マナ量。
水がまだ入りそうな空間がマナの形容量。
回復量は……上手い言葉が見つからないが、勝手に飲んで減った水をコップに注いでくれる、自動ドリンクバーみたいなもの?
で、元々の量よりも多く入れてくれるのが同調率?
分からん。ちっとも分からないから、そうだと思うことにした。
「まぁ余分なマナが無けりゃ回復量も低い奴に魔法は使えねぇってことだ」
「死んじゃいますもんね」
「そうだ、ここまでが基本だ。次に魔法の発動条件だけど、ざっくり言やぁ、魔法式を組みそれを魔方陣として展開し、あとは、」
「あとは?」
「想像する、以上!」
「は?」
ざっくりし過ぎだろう。
魔法式と魔法陣は如何にもだからまだ分かる。
想像するってなんだ。
1番最後の工程がふんわりしているにも程がある。
つい抗議の視線をアストリットに向ければ、困ったような顔をされたけど、こっちも困ってるからどうしようもない。
「いや、なんつーか……。こう何かを行動する時、予めイメージしたりしねぇ?」
「まぁだいたいは」
「だから、こう、魔法式っつーのが、自分のマナに対する命令。で、それを外に出して大気中にも同じ指令を出すのが魔法陣だろ。そんで、魔法が発動した時の様子を想像することでマナに形を付ける訳で……なんつーか」
「なんとなく分かったと思いたいので、先を続けて大丈夫です」
「お、おぅ。つか見た方が早ぇか」
そう言ってアストリットは、しゃがみこんで右手を私に見せてきた。
「まず魔法式だろ。俺は今から火の第一魔法を展開するから、身体の中のマナに火の第一魔法式を指令する」
アストリットがそう言うと、ぼんやり光るアストリットの手。
「次に同じ指令を、魔方陣として大気中のマナに書く」
人差し指の先から、赤い細長い線みたいな物が出てきて、
「何この虫みたいなの?!」
思わず素で驚いてしまう。
「虫はねぇだろ虫はよ!まぁこれが魔法式で簡単に形が付いた俺の中のマナだ。この時点では俺のマナしかねぇから効果は特にねぇ。ペンみたいなもんだな」
「はぁ」
「んで、自分のマナと大気中のマナを同調させたいから魔法陣を書く。火の第一魔法陣は、」
アストリットの手から伸びた赤い線がまず丸を描いた。
そして丸の中に、記号みたいな文字が増えていき、最後に中心に炎のような絵が浮かび上がる。
「俺は右手の上に小さい炎の塊を出したいからそれを想像する」
そして、
「おー」
「火の第一魔法」
魔法陣が光ったと思えば、次にはアストリットの手の上に、炎の塊がぽわんと浮いていた。
「普段初級魔法はここまで細かくやんねぇんだけどな」
そうしてアストリットが右手を左右に振ると、浮かび上がった炎が瞬く間に消える。
「初級魔法は魔法式が簡単だから、魔法陣と想像を一緒に纏めちまえんだ。これが無詠唱魔法。正確には無陣魔法だけど」
今度は魔法陣が浮かび上がらないまま、アストリットの手の甲に炎の塊が浮かんだから、私は目を大きく開いた。
「上級魔法程、魔法式が難解になる。だから細かくやるし魔法陣もデカくなる。書くことが多いからな!」
「ほー」
思わずぱちぱちと手を叩けば、得意そうな顔をしたアストリット。
「魔法陣の文字みたいなのの意味はあるんですか?」
「あれは指令内容だ。さっきのは"小さい炎の塊を右手の上に浮かべろ"って書いたんだよ。魔法陣は、円、指令内容、具体的な図案の順に書いてくんだ。
上級になると指令内容が細かくなるから、頭だけじゃ追い付かなくなる。だから声に出しながら書く魔法使いが多い。これがまぁ詠唱だな」
「詠唱って書いてる内容言ってるだけなの?!」
「簡単に言うとな」
なんか拍子抜ける。もっとこう特別な呪文とかがあると思ったのに。
がっかりすればそれが顔に出てたのか、アストリットが笑った。
「ナイが勘違いすんのも仕方ねぇよ。上級魔法覚えたての奴とかあと上級魔法ばっか使う奴程なんか……」
「なんか?」
「カッコつけたがりが多いんだよ……。だから「炎を右手の上に浮かべろ」も「我が右の手の空に大いなる炎よ顕現せよ」とか言う。……………特に職業魔法使いが多いそう言う奴。表立って魔法使う奴らがこぞってそんなんだから、その詠唱が普通とか言う風潮が出来てんだ」
つまりは魔法使いには厨二病患者が多いってことか。
「魔法以外に剣とか使ってる奴はそんなことねぇんだけど、なんなんだろうなあれ」
たぶん物凄く優しく言って、アウトドア派かインドア派の違いだと思う。
見せ場はかっこよく言いたいもんね、分かる分かる。
「逆に俺からすれば上級魔法を無詠唱で出しちまう奴の方がすげぇし、魔法陣無しの無詠唱でやっちまう奴は俺が知る限りではこの国に1人しかいねぇ」
「それは誰ですか?」
思い当たるのなんて1人しか居ないけど、一応聞いてみれば案の定、
「第1王子のアシュレイ殿下だよ」
やっぱり。
あの人詠唱でかっこつけるとかしなさそうだもん。
「想像力豊かってことか」
「ま、まぁ……そうとも言うが。そもそも魔力がずば抜けて高いんだよ。だいたい上級魔法なんか1回発動ごとにごっそりマナ持ってかれるから、そんな頻繁に出来ねぇもんなんだけど。あの王子様さらっと1日にすごい量の魔法発動するから、マナの形容量とんでもねぇことになってそうなんだよな……」
ってことは、この間魔力切れ起こしてぶっ倒れてたレイはいったいどのくらいの魔法使ったのか。
考えるだけで恐ろしいからやめた。
アシュレイによってある程度の魔法知識を得られたから、さぁ実践だと腕を捲った時、
「あ、」
とアシュレイが口を開く。
「どうしました?」
「お前……………休憩時間は?」
「………………………あ」
話に夢中になってたから忘れていたが、お日様はとっくに真上を通過して、沢山居た騎士達もまばらになっている。
これはいくら私がモブメイドでも、
「怒られる!!!!」
何一つお咎め無しは免れないだろう。
慌てて荷物を纏めて立ち上がると、
「おい、ナイ!」
「はい?」
アストリットに呼ばれて振り返る。
「明日の同じ時間にまたここに来い!魔法の実践付き合ってやるよ!」
「ありがとうございます!」
ぺこりとお辞儀をしてその場を立ち去る時に、私は一瞬考えた。
「(明日もサボる気だ!)」
人のことは言えないんだけどね。




