【22話】レイとの接触
レイの額に浮かんだ汗を拭う。
その辺の棚から引っ張り出してきた何かのカバーだけど、背に腹はかえられないし、新品っぽかったから綺麗だし。
それからやっぱりその辺の棚から漁ってきた、薄い木の板でパタパタ扇ぎもしてたら、しばらくしてレイの目がゆっくりと開いた。
「起きたー?」
「んー」
寝ぼけてるのか、ぼけーっとした表情のままもう一度目を閉じるレイ。
また寝るんかい、別にいいけど。
木造建築で簡単に作られた倉庫は、風通しがいいみたいで、どこからか心地いい風が流れてきた。
のどかだ。
膝の上に、この国最強の魔法使いが寝ているのも忘れそうになる。
確実に怒られることが確定したし、もう開き直って私も寝てしまおうかって思ったら、
「……光」
「ん?」
2度寝に入った筈のレイが声を出した。
「光が無い」
「あーなんか嫌がってたから暗い所に連れて来たけど、ダメだった?」
「ううん無い方がいい」
目をつぶったまま、レイはポツポツと話し始める。
「怖いんだ……光」
「光属性なのに?」
「だからだよ。全部消しちゃえるから」
「そう。魔法の事はよく分からないや」
魔法もどきは使ったことあるけれど、あれほとんど無意識だったし。
レイみたいにがっつり魔法ですよって言った感じのものは、今のところ使用したことがない。
いつかは使えるようになると嬉しいのだけれど。
「よく言うよ。それだけ魔力溜め込んどいて」
そう言えば、呆れた声が返ってきた。
そうか、魔力が溜まってるのかこの身体は。
右の掌をじっと見てみる。新しい発見をした気分。
まぁ使い方が分からないから、持ってたところで手持ち無沙汰になるだけなんだけどね。
レイは深い呼吸を繰り返してた。
体の力を抜いているんだろう。
少し頭が重い。
「なんであんなとこに居たの?」
「魔力切れ」
「あー…………」
そりゃ毎日やたらめったら魔法使いまくってたら、すっからかんにもなるわな。
飄々としてるから錯覚してたけど、レイにもちゃんと限界はあったらしい。
「所構わず魔法使うの止めれば?」
「嫌」
「なんで」
「探してるんだ」
手持ち無沙汰になったから、ゆっくりレイの頭を撫でると、触り心地のいい髪質に驚いた。
レイは怒るでもなく、黙って撫でられている。
人に触られるの嫌ってなかったっけ?
「探してるって何を?」
「…………ない」
「無い?」
無いから探してるのに、無いって言われてもなぁ。
話している間も、私はレイを撫でるのを止めなかった。
嫌がられなかったからってのもあるけど、なんとなくもう少しだけって感情が勝ったから。
「力なんて持ったって、使いこなせなきゃ利用されるだけだよ」
「そうだね」
それはよく知っている。
人を信じたって、返ってくるとは限らないのだ。
もっともっとと要求されて、従えば従うほど、後に残るのは救いようがないくらいに壊れた自分だけ。
そこに未来も希望も何も無い。
絶望なんか吐くほど知ってる。
物語みたいに救いなんて無いことも。
レイは、利用されたことがあるのだろうか。
当たり前に人を駒として操るこの人も、利用される苦しみを知っているのだろうか。
「僕は、利用されない方法を知ってるよ。分かる?」
「さぁ」
「答えはね、恐怖を植え付けることだよ。適わないって思わせること。利用される前に利用すること。そのせいでつまらなくなっちゃったのは誤算だったけど」
面白いと言う感情が、レイの全てなのかもしれない。
楽しいと思うことで、人は少しだけ長く生きていけるから。
ごろんと身体を横にしたレイは、閉じていた目を開けた。
相変わらずハイライトが一切ない。怖い。
「いつもこうなんだよ」
「?」
「身体が限界になるまで動かして、魔力が切れるくらい使って、そうやって初めて僕は少しだけ眠れる」
流石に廊下で魔力切れ起こしたのは初めてだったけど、と、力なく笑うレイ。
「寝れないの?」
「うん」
長いため息をついた。
私が、今何よりも優先しなきゃいけないことは、このレイに名前の解除をしてもらうこと。
その為には、私は"パン屋のナイ"に戻らなければいけない。
よく分からないけれど、使用人の私とパン屋の私は違うみたいで、レイに私が私であると知らせなければいけないのだ。
だからあまり、踏み込みたくはない。
常人じゃ計り知れない思考回路を持っているレイに、近付きすぎるのは至難の業で、下手したら命の危険すらある。
この人はこれから、人を殺すのだ。
躊躇いもなく。
その罪を全てツェルに委ねて、自分は居ないものとして隠れてしまうのだ。
大きな賭けでしかない。
やらない方がいいと思う。
今まで通り、目を得ることだけに集中していればそれでいいのに。
それでも私は、私と関わった全ての人に不幸にはなってほしくないのだ。
それはレイも含まれていて。
「もし貴方がこの先、誰も傷付けないって私に約束出来るのなら」
だって私は生粋の、このゲームのオタクなんだ。
「貴方を私が眠らせてあげるって言ったら、どうする?」




