【21話】前世の仕事
ツェルを止めて、封印の邪魔をする。
あれから、エリーがちゃんとツェルと話せるように誘導してくれたけど、結局私はツェルには何も言えないで終わった。
当たり前だ。
『貴方はこれからここに居るエリーを殺されてレイを封印するのだけれど、私の名前がまだ解除されてないのでちょっと待ってくれませんかね』
なんてこと、伝えた瞬間に変な人に成り下がる。
一歩間違えたらやばい人認定すらされる。
上手く言う方法が分からなくて、情けないかな。何も言わないっていう選択を選ぶ他なかった。
エリーとは、その後もちょいちょい話すようになった。
専らエリーが私を見つけ出して話しかけてくるのだけど、その都度エリーの後ろに居る人の空気が怖い。
なんかよく分からないんだけど、物凄い目で睨み付けてくるのだ。
この人がたぶん、あの日ツェルとエリーがちらっと言っていたエリーの執事さん。
基本的にずっとエリーの後ろにくっ付いてるから、あの時エリーが1人だった方が稀だったんだと早々に気付いた。
なんで敵対されてるのか、全くもって身に覚えが無いのだけども……。
とにかく当面の問題を、現状打破することも出来なかった私は、ひたすらメイドとしての仕事をするしか無かった訳で。
「…………は?」
現在、洗濯物がいっぱい詰まった桶を抱えて、私は廊下に立ち尽くしていた。
人が、落ちている。
一言で表すならそれだ。
ツェルみたいにお昼寝かしらって思ったけど、廊下の丁度曲がり角の所でうつ伏せでお昼寝する人なんか居る?居ないよね。
明らかに倒れてるとしか思えない体勢だから、生存確認の為に近寄った。
頭まですっぽりフードを被っていたから男か女か分からなくて、とりあえずそのフードを取ってみて、
「レ……」
とてつもなく後悔した。
なんで、王子が廊下に落ちてるの?!
それともこの国の王子って役職の人は、地面大好き同好会にでも入ってるわけ?!
経験上、レイと関わるとろくなことがない。
故に、薄情だがそのままほっといて逃げようと思った。
だけど。
「うぅ…………」
眉間に皺を寄せて呻くレイ。
あまりにもらしくない。
弱った姿を見てしまえば、心が揺らぐ。
私もそこまで、非情な人間ではないと思いたいから。
「レイー、レイ起きてー。大丈夫ー?お水持ってこようかー?」
レイの体を、乱暴にならないように注意して揺する。
「…………光」
「なに?光?」
「…………眩しい」
レイが居たのは、洗濯場に続く廊下の曲がり角。
外だけど曲がり角だから、そこまで太陽の光は当たっていないはずだった。
それなのにレイは、まるで光から逃げるように体を縮こませる。
「(どうしよう……)」
ツェルのお昼寝場所の庭に連れて行こうとしたけど、どう考えても光を嫌がってる手前、日光浴じゃんじゃんしてくださいとでも言えるような庭には連れて行けない。
どこか光を遮れる場所は無いかなって探して思い付いた。
洗濯場の近くの倉庫。
予備の洗剤とか緊急時の止血用のシーツとかが置いてある場所で、普段は特に用がないから近寄らないけれど。
あそこなら、扉さえ開けなければほとんど光は入らない。
幸いなことにここから近い場所にあるし。
目的地は決まったから、意を決してレイをそこに運ぶことにした。
◆
洗剤のツンとした香りが鼻につく。
いくら成人はまだしてないとは言え(正確にはしてるけど)、男の人1人抱えて歩くのはかなり骨が折れた。
それでも多少時間は掛かったけど、頑張ってレイを倉庫に運び入れた私は、薄暗いそこの中でも更に光が当たっていない所にレイを寝かせる。
予備用のシーツを掛け布団代わりに掛けようと思ったけど、レイの額が汗ばんでるのに気付いてやめた。
「レイさーん。丸まって寝ると曲がってる箇所の血流止まるよー」
と言ったところでレイから何か返ってくる訳でもなく、仕方ないから足を引っ張って体を真っ直ぐ仰向けにする。
それからレイの腰の下とか膝の裏とかに、あまり厚くならないように畳んだシーツを敷く。
こうするだけでも、身体への負担が少し減るから。
「あとは枕だけど……」
困った。
シーツじゃ薄すぎるし、頑張って畳んでも今度は厚すぎる。
低すぎると気道が塞がるし、逆に高すぎても首の負担になりかねない。
柔らかすぎてもダメだし、硬すぎてもダメ。
「んー……」
とりあえず魘されてるし可哀想だから、何かいい案が思い付くまで膝枕でもしてあげようかなって実行してみたら、
「おや、ぴったり」
(レイにとっての)理想の枕がここにあった。
「視線よし、喉の状態よし。素晴らしい」
ぱちぱち小さく手を叩く。
いや、こんなんで感動してちゃいけないんだけどさ。
もっとこうこの状況に鼓動の1つでも、早めなきゃいけないんだろうけどさ。
仕方ないじゃん、寝具店に居たんだもん私。
死に物狂いで勉強し続けたせいで、睡眠に関してはちょっと煩いんだもん。
「まさか役に立つとは思わなかったけど」
異世界転生して、自分の持った生前のスキルを駆使して大活躍する。
そうやって生き抜いたり、新しい世界に新しい技術を伝える。
とても素敵なことだと思うけど、この世界に転生してすぐに、自分の持った知識は役には立たないんだと諦めた。
ベッドも毛布も枕も、私が提案しなくたって当たり前のように存在するし、質は分かっても作り方なんて分からない。
羽毛布団って言う商品は存在しなかったみたいだけど、なまじ無駄に知識だけはあるから、ただ鳥の羽根を毟り取って詰めればいい訳でもないことを知っていた。
だから接客能力だけを使ってきたのだ。
高額商品を扱う以上、店員に求められるのは何よりもコミニュケーション能力の高さと、信用に値する人間だと思わせることだから。
伊達にクレーム0件記録を保持していた訳でもなかった。
「そのせいで仕事増える一方だったんだけどねー」
休日は不定期だったし、連休取ろうものなら睨まれたし。
お客様は店員を店員としてしか見てないから、休憩が全く取れないまま、ご飯も食べれない水分補給すら出来ない状態で1日が終わることもざらにあった。
使用人ですら、お昼休憩があるのに。
だから今、仕事内容があまり苦痛ではないのだ。
自分がひたすら笑顔で対応するだけの機械なんかじゃなくて、ちゃんと息を抜かないと簡単に壊れてしまう人間なのだと知ることが出来たから。
まぁあまり長く倉庫に居たら、流石に怒られちゃうんだけどね。




