【2話】役職を手に入れよう!
さて「よりによってモブ転生かよ!」とか、うだうだしていても埒が明かないので、街をぐるっと巡って情報を仕入れてみた。と言うかそれしか、現状出来そうな事が無かった……。
まぁいい、まぁいいよ。
分かった事を纏めるんだ、私は。
分かった事1つ目!
【モブの中にもランクがある】
性別の違いしかない、量産型の所謂「女A」とかに表記される"目のないモブ"が、見た限りだと1番最下層。私はこれに当てはまる。
次に、商店の店員とかある程度の肩書きや役職のあるモブ。これは量産型より比較的少ないように見えたから、たぶん個としてはまだ独立している方……だと思う。
最後に、"目のあるモブ"。
これはどうしてか分からないけれど、街の栄えてる場所に主に集中しているように見えた。
分かった事2つ目!
【基本的に目のないモブ同士で会話は出来ない】
数人で話してるように見えるモブも、実際は"数人で話してるように立っている"だけで、話しかけても反応は無い。何してもずっと無反応過ぎて、お陰様で心が折れそうになった……。
但し、商店の店員とか"他の人物と接触がありそうな者"は、目のないモブでも会話をする事が出来るようで、話しかけると返って来る言葉は一定だが反応を返してくれた。ちょっとメンタル回復した。でも同じ事しか言わないから頭がおかしくなりそうだった。
分かった事3つ目!
【役職持ちのモブの中には"目のあるモブ"も存在する】
残念ながら、その判定基準はまだ分からない。街の栄えている所に集中しているのと、何か関係がありそうだから要観察。
分かった事4つ目!
【"反応をしたモブ"と会話をする時は、声こそ出ないし聞こえないが、考えは正確に伝わってくる】
これも詳しいことは分からないが、もしかしたら見えないメッセージウィンドウみたいなのがあるのかもしれない。
分かった事5つ目!
【個人名を持ったモブには目と声がある】
こうなるともうモブじゃなくて、脇キャラ扱いかも?
以上が街をひたすら歩き回って得た情報。モブの事しか分からなかったけれど……。
まぁ現状分かった情報を元に、私がまずしなければいけない事を導き出した。
とりあえず役職を手に入れよう。
つまり、働け私。
役職のあるモブとただの生物学上の性別のみのモブでは、雲泥の差にも程がある。
それに、仕事としての地位がある程度固定されれば、自ずと目と声が手に入るって言うのは、街を見回して十分に知った。
それからこの世界は、職業に年齢制限がないようで、流石に赤ちゃんは難しいけれど、明らかに5~6歳の子供が働いているのもちらほら目撃した。
つまり、日本では働けない12歳と言う年齢も、この世界では働く為の枷にはならないと言う事だ。
となると私がすべきことは、職業斡旋所を探す事。それに尽きる。
と言ってもこの国。
確か魔法は存在していたと思うけれど、基本的に争い事は人対人。モンスターらしき倒す対象は居ない。多分ね?
だから冒険者と言う職業はなかった筈。
つまり、こうやって異世界転生しちゃった時の職業探しのド定番。
"ギルド"が無いのだ。はい、詰んだこれー。
転生するとよくあるじゃん!
ゲームの世界に転生するとさ、とりあえずギルド行っときゃなんとかなるだろ的な感じの流れ。
こちとら定番のサポート的な神様とか案内人みたいな、ほら、姿の見えない声だけのやつとか!ああ言うのすらいないどころか、社会的地位すらない。
だって、モブだから。
前世の記憶が戻るまでのその人格としての記憶とかも、残念ながら無い。
何故なら、モブだから。
12歳まで共に育ってきた幼馴染ポジションとか、むしろ家族すら居るかどうか怪しい……。
所謂、モブだから。
何回でも言おう。モブなんだよ。
とりあえず私、モブなんだよ。
どうしたってモブなんだよ。
せめて転生初心者にちょっとは優しくしてほしかった……。攻略難易度が鬼畜過ぎる。
まぁとにかく、私は仕事を探すしかないのだ。
幸いな事にこの国の文字は日本語では無かったけれど、通りすがっただけの運は、どうやら翻訳オプションみたいな物だけは付けてくれていたみたいで、問題なく読むことが出来た。
だからなるべく私は、"反応するモブ"が居る商店を中心に、扉だったり柱だったり壁をくまなく見ている。
縋る物が記憶しか無いので生前の記憶を頼りに言うと、このゲームのヒロインの職業はメイド基使用人だった。
モンスターはいないけれど絶対王政はきっちり存在してて、当然国を治める王様的な人が居る。
その王様って言うのがちょっと厄介で、あまり良くない噂が国中に広まっているのだ。
その噂って言うのが、
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王様は残虐非道な悪魔のよう。
シャツに皺をつけた召使いの首をはねたり、
くしゃみひとつ零した兵士の首もはねたり、
挙句の果てに邪魔だったとかなんとかで、
パン屋が主人ごとごっそりなくなった。
理不尽極まりない統治。
まさに悪王ではあるけれど、戦に滅法強いから、彼が居る限り他国からこの国は守られる。
王様は冷酷非情の怖い人。
誰も姿を知らないが、
誰も声すら知らないが。
それでも決して彼には逆らうな。
でないと、首を飛ばされる。
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まぁ誰も正体知らないらしいけれど、私全クリしちゃったから知ってんだよねー。とか夢のない事を言ってみる。だって置かれた状況に夢も何も無いんだもん。
ゲームの中では噂のせいで、国中から王様が恐れられた結果、王宮の使用人達の離職率がとんでもない事になった。
猫の手も借りたいくらいに困り果てた王宮が、白羽の矢を立てたのが、男爵家で働いていたメイド--つまりヒロイン。
王宮の使用人としてスカウトされたヒロインは、紆余曲折有りながらも攻略対象達と出会い、そして彼らと恋に落ちていく。そんな感じのあらすじだった。
まぁ私モブなんで、そんな事どうでもいいんですけどね。
大事なのはヒロインの前職。男爵家使用人になった経緯。
このヒロイン。
乙女ゲームでは珍しい非の打ち所がないくらい完璧な使用人だったから、当然紹介だったり然るべき順序の後に男爵家で働いているのかと思いきや、どっかのルートでポロッと、なんかそこはかとなく現実に引き戻されるような単語を言っていた。
「男爵様の元へは、求人募集の貼り紙を見て斡旋してもらいました」
つまり、仕事したきゃ貼り紙探せって事。
と言う訳で求人募集の貼り紙を探して、とにかく街を徘徊する事にしたのだった。