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【18話】デジャブを感じる出来事/side.???


シャッテン・スティロ・ア・ビーユ殿下は、今日も今日とて庭にゴロンと横になっていた。


探している時は見つからないのに、探さないとぽっと現われる。


ただ今日は用があるのに珍しくすぐに見付けることが出来たから、助かってはいた。


私はと言えば相変わらず、洗濯物を運ぶフリしてまた持ち場を抜け出して、物陰でこっそりシャッテン殿下ことツェルの様子を伺っている。


冷静になって考えたら、めちゃくちゃ愚痴を言いたい放題言ってからの初接触になるから。


フレンドリーに話しかけていいものなのかどうなのか、そればかりずっと思い悩んでいたらこうなった。


「不用心だと思わないのかなぁ。一応王族なのにあの人」


「いつも不用意にお昼寝しない方がいいって言ってるのですけど、聞かなくて……」


「あ、そうなんです?そう言うところが似てるんだよなぁあの兄弟」


「アシュレイ殿下のことも知っていらっしゃるのね。彼にはなかなか困ったところがありまして」


「分かります分かります。私もあんな事が無ければ、こうやって守るようなこともして…………ない……です、けど」


なんだ。


なんかデジャブ感じるよ。


前にもあったよこんなこと。


1人だと思って話してたら1人じゃなかったよー的な。


恐る恐るあの時と同じように左隣を見る。


「あれ、いない」


目線の先には長く続く廊下のみで、人の気配はしない。


「残念ですけれど、逆ですよ」


ほっとしたのもつかの間、頭の後ろから声がしてばっと振り向く。


「こんにちは」


腰までかかった、絹糸みたいにキラキラ輝いているブロンドの髪の毛。

質素だけど、布や糸の1本1本全てが1級品だと分かるドレス。

長年培ってきたのか、指先まで洗練された動作。

ふんわり微笑を浮かべる顔は、天使そのもの。


「…………誰です、か?」


見知らぬお嬢様が、私と同じようにしゃがみ込んでじっと見てきたものだから、流石の私もド肝が抜かれた。


「あら、どうでもいいじゃないですかそんなこと」


「そうですか」


とてつもない品の良さに心が痛くなる。


なんだこの優雅の塊みたいな人。


そんな人を、しゃがませてしまっている事実にも目を逸らしたくなる。


でも誰がどう見ても主要キャラクターの1人なのに、頭をフル回転しても思い出せない。


「シャッテン殿下にご用事ですか?」


明らかに私の真似をしてるのは丸分かりなんだけど、まるで悪戯をするように口元に手を置いて小さく話すお嬢様。


「いや、あの、用というかその」


「お手伝いしましょうか?」


「はい?」


「かくれんぼみたいで楽しいですけど、いつまでもここに隠れてる訳にもいかないでしょう?」


優雅に立ち上がったお嬢様は、ドレスの裾を軽く叩いた。


「安心して。殿下のことはよく知っているから、きっと咎められないわ」


金色の髪がふわりと揺れる。


物語に出てくるお姫様って、きっとこんな人なんだろうと、そんな夢みたいなことを思った。


「でん、」


「まままま待ってください!」


「?」


「まだ!今は!色々言うことを考えあぐねていると言うか!」


やっちゃった。


どう見ても階級が上の人の言葉を遮るどころか、行動まで邪魔してしまった。


ぶっ飛んだ人が多いから忘れかけるけど、ここは王宮で私は使用人なのだ。


少しのことが罰になりかねないのに、いちいちやることが迂闊すぎる。


怒られるなぁどうしようかって、顔から血の気が引くのが自分でも分かったんだけど、当のお嬢様はちょっと考えてから、私には爆弾級のことを投げかけてきた。


「それは、貴方の目元が見えないことと何か関係があるのかしら?」


「え……」


思わず固まる。


今、このお嬢様なんて言った?


「見えない?」


「ええ、おかしいなって思ったのよ。"いつもの人達"はあまり目立つようなことはしないから」


「見えてないんですかっ?!」


「ええ」


食い付いて話しても、優しそうに笑うだけで特に怒る素振りは見せない。


私の"目元が見えない"と、確かにこのお嬢様は言った。


どう言うことなんだろう。


モブをモブとして、認識することのできる主要キャラが居たってこと?


混乱して訳が分からなくなってくる。


「ごめんなさいね。驚かせるつもりは無かったのよ。でもその感じだと、貴方も"そう"見えてるのかしら?」


「…………はい」


思わぬ所で、思わぬ人物が同じだと発言してきて、力の抜けた返事しか出来なかったのは仕方ないと思いたい。









地位も名誉もいらないなんてよく言った話だけれど、それを本当に口にしようにも、実際に地位も名誉もある者には、発言の許可すら与えられない。


生まれた瞬間から自分の立ち位置を決められたのならどれだけよかったか、ずっとそう考えている。


背筋を伸ばして、目線を真っ直ぐ上げて、だけど口元には貼り付けた笑みを忘れない。


幼い頃から叩き込まれた作法の全ては、息をするように身に付いている。


極めて優雅に上品に。


たった一言ですら、誰かを傷付ける武器となるのだから。


その点幼馴染み達は、全てにおいて自由だった。


誰よりも縛られる立場にいるのに、2人共やりたいことをやりたいだけやるのだ。


兄は力を手にして、弟は周囲の無関心を手に入れた。


到底太刀打ち等出来ない能力を振りかざし、力を持って周りを制するのも。


自分の地位を気にせずに、地べたに寝転んで現実逃避してるのも。


どちらも、私には許されないことだった。


羨ましい。


口に出そうとして押し込めた言葉はいつもそれで、それを理解する人なんていなかったけれど。


今日も私は抗わずに、使命のように根付いた通りに行動するのだ。


我が物顔で玉座に座る兄の方に苦言を伝えることもしないし、逃げてばかりで向き合わない弟との方を窘めることもしない。


だから言われてしまったのだろう。


あの光の殿下に。


「君は面白くないね」


と。


「こんなんだからつまらないんだよ。あの子みたいな子が増えればいいのに」


珍しくあの人が興味を持った、"あの子"が誰かは分からない。


知ろうとも思わない。


私の役目は、ただここに座って顔色を変えないことだ。


何を言われても笑っていることだけなのだ。


無知で儚いお嬢様でいれば、望んだものではなくても確固たる地位に付くことが出来る。


嘘で塗り固めて生きる。


本当なんてどこにも存在しない。


それが"何もしない"私の唯一の反抗。


どちらが王位に付いても、それらしく振舞ってあげるから。


でも願うことなら、兄よりも弟の方に王位に付いて欲しいとは思う。


そうすれば"彼"のような寂しい人が、増えない筈だから。


だから、差し出す手は1つだけにしている。


ほんの少し助言を与えるのも、1人だけにしている。


そこになんの感情も湧いたことはないけれど、国が良い方に動くのならそれでいいのだ。


本当に欲しいものなんて、手に入らないのだから。


次期国王婚約者候補。


人は私を"光の令嬢"と呼ぶ。


私はそう、エヴェリーチェ・ヴァーレンと言う人間なのだ。


いつまでも。

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