【17話】立ち上がるシナリオフラグ
とてつもなくお久しぶりです。
長期更新停止してしまいすみません。
更新停止中の感想ありがとうございました。
「舞踏会?」
「そう」
自室のベッドに腰掛けて何をするでもなくだらだら過ごしていたら、同室のマリーナからそう言われた。
相変わらずどうやって作られたのか分からない色素の髪を、ちょっと無骨な形のブラシで梳かしている。
その何気ない動作すらちょっとした絵になりかけてるんだから、サブキャラって凄いよなぁってまじまじと見ていれば、少し気まずそうな顔で目を逸らされた。
見すぎたみたい、ごめんね。
王宮ってこともあって、何に使うんだ!ってくらい部屋数も多い。
流石に離れた所に建っているけれど、当然のように使用人専用の部屋もあって、王宮に仕える使用人とか下働きの人達は、殆どこの建物の中で寝泊まりしている。
たまに家から直接通っている人もいるけれど、そんなの本当にひと握りで、だいたいが身分が下層の人だったり、遠くの田舎から出稼ぎで出てきている人が大半だから、そう言った処置をしているんだと思う。
規則はかなり厳しいけれど、ちゃんと決められた時間にご飯は出てくるし、ベッドもしっかりしてる。
毎日は入れないけれど、使用人専用のお風呂も完備されてるし。
元から家が無い私なんかには、凄く助かってはいるのだけど、マリーナはどう思っているんだろうと、ちらっと横目で見てみる。
同い年だからと言う理由なだけで、同室になったり同じ洗濯班に回されたりと、私は何かとマリーナと組むことが多かった。
話しかけてもうんともすんとも言わない人と居るより、自我があって会話が問題なく出来るマリーナと一緒に居た方が何倍も楽だったから助かっているんだけれど。
厨房のお兄さんに聞いた話では、いくら子供でも疑問に思われることなく働けるこのファンタジーな世界でも、王宮で働く人に子供は早々いないらしい。
1番若くても16歳くらいなのだけど、私もマリーナも13歳だ。
姑息な手を使って王宮入りを果たした私とは違って、マリーナはきちんと決められた規則に則ってここに来たことだけは憶測できる。
でもどうしてそうなったのかまでは分からなかった。
サブキャラクターについて詳しくは、ゲームの中でも話すことなんてないし、キャラ紹介文にも突飛出たことは書いていなかった。
事情があるのかもしれないけれど、それを深く聞くのはただの迷惑だから聞けないし。
「うーむ」
好奇心に物言わせて、ずけずけと人の領域に足を踏み入れてもいいものなのか否か、悩んでいれば、
「そんなに悩まなくても私達には特に関係ないから大丈夫だよ」
髪を梳かし終えたマリーナがふっと笑った。
「舞踏会の給仕に配属されるのは上級使用人の人達だし、見習いはいつも通り洗濯してればいいんだから」
「そう言うものなの?」
「そう言うものだよ」
くすくす笑うマリーナ。
そうだった舞踏会の話をしてたんだ。
年に1回。
一定数の貴族を集めて王宮で開かれる催し。
毎年盛大に開かれてるから、注目している庶民も多いのだと。
普通の舞踏会なら庶民には関係ないのだと思うんだけど、ここは乙女ゲームの世界。
普通じゃないことだって、全国の乙女達をきゅんきゅんさせる為ならば、当たり前のように起こる。
例えばそう。
「でも凄いよね毎年。期間中は階級関係なくお城の中に入れるし、許可と相応しい格好さえあれば舞踏会に参加も出来るんでしょ」
これだ。
本来ならそんな危険な舞踏会なんてない。
言うなれば期間中は、それなりのことをすればどんな不審者も王宮内に入り放題なんだから。
名だたる貴族だけじゃなくて王族も参加するのに、それでいいのかと思ってしまうけど、乙女ゲームクオリティには勝てない。
この仕組みも全部、たった数枚のスチルとシナリオの為だけなのに。
「見習いだって夜は空いてるんだから、夜会くらいには参加出来るじゃない。マリーナは行かないの?」
「無理よ。ドレスが無いし相応しい振る舞いも出来ないから」
「でも私達くらいの年代から婚約者を探すらしいじゃん。出会いが舞踏会だったとかよく聞くけど……」
「ナイ、それは貴族の話だよ。使用人が貴族に見初められてなんて、そんなおとぎ話みたいなこと起こらないもの」
そうため息を吐くマリーナ。
それが起こるんだよ。
と言うかそう言うゲームだからこの世界。
とは、口が裂けても言えなかったけど。
「はい、この話もうおしまーい。そろそろ寝なきゃ明日も早いしね」
そう言ってマリーナはベッドに潜り込んだ。
舞踏会の話をしてる時のマリーナは、年相応の女の子って感じがして可愛かったんだけど、そんなに身分って大事なのかなぁって、そう物思いに耽った夜だった。
◆
血に染まった金色の髪。
力なく倒れた彼女に俺は駆け寄った。
「なんで……どうしてこんなこと」
視線の先には、顔色一つ変えないまま立っているアシュレイ。
「どうして?」
小首を傾げた兄弟は、口角を上げた。
「邪魔だったから」
嗚呼、そうだ。
この男はいつだって、"邪魔"と言う言葉だけで非道な行いをする。
今まではそれでも、行き過ぎなところまではいかなかったから黙ってたが、遂に人に手を掛けてしまった。
少しでも良心が見えたのなら、或いは罪悪感の片鱗でも見せたのならば、救いはあったかもしれないのに。
自分の罪に臆するどころか、笑ってみせたのだ。
「アシュレイ、アンタは俺が止める」
この男にこの国は任せられない。
これ以上罪が広がる前に、断罪しなければならないのだ。
誰にも出来ないのなら俺がやろう。
それが同じ血を引いた者の運命だ。
例え、この命に変えてでも。
勢いよく体を起こす。
木で簡単に作られたベッドが盛大に軋んだが、そんなことはどうでもいい。
「待って……」
頭を抱えて呻く。
「殺されるの今年なのっっ?!」
そう叫べば「なーにー」と、寝惚けたマリーナが呟いた。
◆
状況を整理しよう。
3年後の未来でレイはツェルに封印される。
それからが物語のスタートだ。
きっかけは悪行の限りをし尽くしたレイが、遂に人を殺してしまったことから始まる。
その殺した相手って言うのが、レイとツェル2人の婚約者候補だったご令嬢。
王族の従姉妹に当たる人物で、レイとツェルとは幼少期からの仲。
どちらか片方の婚約者ではなく、両方の"婚約者候補"なのにはそれなりの訳があって、元々そのご令嬢は后妃として育てられていた。
だけど王子は2人居て、現国王は何故か次期国王を選ばず、2人共"次期国王候補"に選定したのだ。
だから次期国王の婚約者になる筈だったご令嬢も、国王候補が2人居る為、どちらかの許嫁になると派閥争いから、余計な争いに巻き込まれかねなかった為、応急処置として両方の婚約者候補に収まった訳。
更に厄介なことに、レイはあんな性格だったからご令嬢にほとんど見向きもしてなかったようだけど、ツェルの方は違った。
根っからのお人好し基世話焼きのツェルは、そのご令嬢と懇意にしていたらしい。
好意を抱いてたかどうかまでは作中に書かれてなかったから分からないけれど、そのご令嬢がツェルにとって特別な人であったことは間違いない。
そのご令嬢がレイに殺されてしまったからこそ、彼はレイの封印に尽力するのだ。
最も、殺されるのはもっと先だと思っていた。
レイが完全に封印されるのは3年後で、きっかけがご令嬢の死だったから、余裕で対策なりなんなり組めるだろうとタカをくくっていたけれど。
ツェルはレイよりも遥かに弱い。
最終的には彼の血のにじむような努力とヒロインの力で、対等なまでに成長するとしても、封印した頃は力の差は歴然だった筈。
そのツェルがたった1回の封印で、自分よりも遥かに強いレイを押し留めることなんて出来るのだろうか?
もしかして仮説でしかないけれど、
「何回にも分けて封印したとか……」
毒を徐々に盛るように、感覚を少しずつ麻痺させていくように。
微量な物も、蓄積させれば脅威に成りうる。
もし、もしもそうなのだとしたら、
「封印の邪魔しなきゃ」
私はまだ、名前の解除をされていないのだから。




