【13話】もう1人と遭遇 side:ツェル/その3
諸事情にて、次回22日に更新予定です。
目の前の知らない使用人が、1人で怒っているのを俺はひたすら聞いていた。
初対面の相手に、この娘はなんだか普通言わなそうなことまで言ってくる。
旧知の仲なら分かる。
ただもう一度言おう。
俺とこの使用人は、初対面だ。
目覚めたらこの娘が何故か俺のことを見下ろしていて、逆光のせいで顔が見えないわ、そもそも誰だか分からないから、動揺して、
「アンタだれ?」
と聞いたら、どうも対応が悪かったらしくなんだかとても悲しそうな顔をされた。
ころころと、まぁよく表情が変わる女だと思った。
悲しそうな顔をしていた次の瞬間には、もう何かしらについて憤慨していたから。
情緒不安定。
もしかしたら、頭がおかしいのかもしれない。
本来ならあまり関わりたくないタイプだったが、この娘が怒っているのは、次期国王のアシュレイのことだった。
アシュレイは俺の双子の兄。
だから俺には聞く義務があったし、アシュレイの最近の悪評はよく耳にしている。
俺とアシュレイが、仲が悪いと言われているのも知っている。
元々は、特別仲がいい訳でもなかったが、それでも兄弟仲はそこまで悪くはなかったんだ。
アシュレイが歪み始めたのは、魔法の勉強をし始めたあたりから。
あの頃から少しずつ、アシュレイの様子が変わっていった。
アイツはなんでも出来るのに、何故か何かが出来るようになるたびに、諦めたような表情をよくするようになり、徐々に俺を見る目も変わった。
見下されている訳では無いけれど、「コイツではダメだ」と、そう思われている視線。
言われなくても分かった。
実際アシュレイと俺の魔力の差は圧倒的だったし、実力だけじゃ、どうしようとアイツを超えられないことも知っている。
ただそれでも、俺はアイツと対等でありたかったけれど、アシュレイはそれを望まなかった。
俺は、唯一の片割れの、対等にはなれなかったのだ。
ただアシュレイが決定的に歪んだのは、去年のことだと思う。
俺が"王子としての務め"らしい、短期視察から帰ってきたら、アシュレイが見たことも無いような顔をしていた。
その日アシュレイと共に居たらしいバルに聞けば、複雑そうな顔をして「魚を逃がしまして……」と言われた。
深い意味は分からなかったが、ただあの日から、アイツの行動は度が過ぎるようになっている。
元から我儘な奴ではあったけど、ここまでではなかったし。
原因は分からなかった。
話すことも極端に少なくなってしまっているから、聞くことも難しい。
そうして"何か"を聞く前に、俺はいまこの娘の口から、アシュレイが民へしたことを知った。
この娘ーーナイの話によれば、俺が視察で城を離れている間に、アシュレイがナイが働いていたパン屋を魔法で潰したらしい。
ナイ曰く"青い髪の人"が店主を助けたそうで、死傷者は出なかったが、
「お陰様で私はここで使用人になるしかなくなっちゃったんですよ」
と、ナイは怒りながら言っていた。
上に立つ者は、下で支えてくれる多くの者を守らなくてはいけない。
力に驕って、踏み付けるなんて有り得ないことなのだ。
それは、いずれこの国の最高位に付くアシュレイこそ、固く誓わなくてはいけないことなのに。
そのアシュレイが、民を苦しめた。
いまはまだ、周りの援護もあって死傷者は出ていないが、それも時間の問題だと思う。
アイツはいずれ、誰かを殺す。
決して認められはしなかったけど、俺はアイツのことを誰よりも濃く知っているんだ。
「ねぇ、バル居る?」
件の"青い髪の人"=バルの元へ行けば、薄々何かを気付いているような顔をされる。
とにかく1度、ナイの言っていたことが本当なのかどうか確認しなくてはいけない。
動くのはそれからだ。
◆
と、ツェルが考えているなんて、私は全く知らないまま、己の犯した愚行をひたすら反省していた。
いやもうね、いくら画面上では結婚式まで挙げたお相手でもさ、流石にあれもこれも言い過ぎたと思う。
仮想世界ではよく知ってる仲でも、実際いまリアルでは初めましてなのに……。
不思議なんだけど、私、レイのことは1番最後に攻略したから覚えていてもいい筈なのに、ほとんどレイルートのことを覚えてなかった。
思い出せることと言えば、レイが目覚めて主人公と初めて会うシーン。
レイは開口一番に、主人公に妙なことを言ってたんだ。
『やっと見付けた』
って。
でもその時まで主人公は、レイに会ったことも無かったし、もちろん過去にレイと遭遇してもいなかった。
それなのに「やっと」って、レイは言ったんだ。
もしかしたら、なんだろう?バグかなぁって思って、そこだけはしっかり覚えちゃったせいで、他のことは思い出せないのかもしれない。
隠れキャラだし、忘れるほど内容の浅いルートじゃなかったとは思うんだけど……。
ただその反面、他のルート(特にツェル)の内容はまだかなり綿密に覚えている。
どうしてツェルがレイを封じようとしたかってエピソードは、レイのことをツェルが主人公に説明する時に言ってたと思う。
元々レイのことを若干危険視してたツェルは、確かパン屋の店員の子に店のことを言われて、それで本格的にレイについて調べるようになったってのが発端だった。
封じきるまでに何人か死傷者も出ちゃってて、その内の1人が、レイかツェルどちらかの婚約者候補の子だったから、それで長い間、ツェルが悔やむようになっちゃったんだって。
そう考えてて。
ちょっと待って。
"パン屋の店員の子に、店のことを言われて"っていま私言った?
え、待って、もしかしなくてもそのパン屋の店員って私だったりしない?!
と言うか間違いなく私だよね?!
よく考えろ私。
このままレイに接触しないまま、レイが封印されて、最悪の場合バッドエンドになっちゃったら、私の固定された名前はどうなっちゃうの?
ナイで固定されたまま???
「やばい!ツェルを止めなきゃ!!」
どうもなんか思わぬ所で、嘘だって思いたいけどツェルの背中を結果的に押してしまったらしく、せめて、せめて私の名前がまともな名前に変わるまでは、ちょっと勘弁してやってくれと訴える為に、私は走り出した。




