【12話】もう1人と遭遇 その2
訝しげな金色の瞳は、まばたきするたびに長い睫毛に隠れた。
去年、馬鹿みたいに顔近付かれたから、某白い人も睫毛がフサフサなのを知っている。
なに?王族=睫毛フサフサの法則とかあるの?
それとも主要キャラだから?
主要キャラだから睫毛フサフサなの?
ずるくない?
と、妬んだところで私には目がないから、自分の睫毛のフサフサ加減を確認する術は無かった。
ところでどうして私は、こんなにも不審者を見る目で見られているのでしょうか?
一応起こしてあげたのに……。
ちゃんと生存確認もしたよ?足でだけどさ。
私がプレイヤーの頃は、庭で起こした時に比較的優しい視線を向けてくれたのに(ゲームの中だけどね)、なんだこの差は。
モブだからか?モブだからだろ?
私だってまさか、主人公からモブ落ちするなんて思わなかったよ!
モブ差別だ!酷くない?
と、心の中でぶつぶつ悪態を付いていると、モブ差別(まだ疑惑)して来た人=ツェルが口を開く。
「アンタだれ?」
おっふ、セリフが原作と同じだ。
原作と同じなのに、雰囲気が違う。ギスギスしてる。
やっぱり私がモブだから?そうなの?
無言でいれば無言でいるほど、ツェルの視線が痛くなるから、仕方ないから答えてあげた。
「使用人です」
見習いだけどね。
「いや、それは格好見れば分かる」
「ですよね」
「じゃなくて名前をだな」
「ですよねー」
右手で1発、自分の頭をはたいてこりゃまいったってポーズをしたあとに、私はしゃがみこんでツェルに近付く。
ツェルは上半身だけ起こした形になってたから、すごく分かりやすく後ろに下がった。
そんな、お化けに近付いて来られたみたいに逃げなくてもいいんじゃんか。
と思ったけどスルーして、
「ちょっと毒にも薬にもならない話聞いてくれますー」
と言った。
しばらく沈黙。
そりゃそうだよね。
寝てたら急に起こされて、目の前に立ってた知らないモブに、急に馴れ馴れしく話しかけられたんだもの。
驚くどころか、これ普通に考えたら私処刑台行きだよ。特にこの世界なら尚更。
だけどもう1人の王子様は、
「なに……?」
別段怒ることもなく、凄まじく嫌そうな顔をしながらも話は聞いてくれると言う、優しいのか優しくないのか分からない体制に入ってくれた。
「私もね、名前言いたかったんですよ」
「はぁ」
「でもね、どっかの性悪人間のせいで私の名前いま"ナイ"なんです」
「はぁ」
「ナイってどう思います?」
「別にいいと思うけど」
「またまたご冗談を。ナイだよ?ちゃんと考えた?ナイですよ、ねぇ王子様」
本当は貴方の双子の兄のせいで、私"ナイ"になっちゃったんですよーって言いたかったけど、ツェルに罪はないし、一応話聞いてくれてるから、ガチでびっくりしてただけでモブ差別ではないと判断する。
そうだよ、このツェルが差別してたら、使用人で生粋の平民主人公と最終的にゴールインする訳ないし。
あらぬ疑いを掛けてごめんよ、ツェル。
と、やっぱり心の中で語りかけていれば、
「アンタなんで俺が"王子"だって知ってんだ?」
と言われた。
あれ、待ってまずった私?
いらんこと言っちゃった?
慌ててゲームの内容を思い出す。
3年後にこのツェルは、封印したレイの代わりに王に就任する。
と言っても仮の形に近いけど。
その時には既にレイが原因の"悪王の噂"は世に広まっていたし、封印も未完成でいつレイが復活するのか分からない。
ツェルもツェルで、例え姿だけでも子供が王になれば、レイ派や他の派閥の人間から目を付けられて暗殺されかねない。
そんな少しでも気を抜けば、あらゆる面で大変な状況だったから、敢えて、子供化したツェルの正体を隠す為、"誰も王を知らない"と言う噂を付け足しした。
だからツェルも主人公の前では【シャッテン】ではなく、【ツェル】と言う偽名をわざと使っている。
でもそれは3年後の話であって、いまはまだツェルは正体を隠していないただの王子のはず。
それなのに何故私はツェルに、いま"何故ツェルを知っているのか"と聞かれたのか。
「?」
質問の意図が分からなくて首を傾げれば、返ってきたのは至極卑屈な回答だった。
「ごめん他意は無い。ただ、その…………この国で王子と言えば、俺よりも他に居るだろう?だから……」
「あー…………レイね」
つまり、王子と言えばレイと言う方程式が現段階で出来てしまってて、ツェルが王子と周知されていない。ってことでいいのかな?
言葉を濁しちゃったから深くは分からないけれど、たぶん色々あったんだなぁっと。
第2王子としての地位もだし、就任した王の位は既にレイのせいで汚れている。
自分が原因じゃない噂の対象として晒されながら、その元凶も封じ続けなきゃいけない。
考えてみると、とんでもない苦労人のツェル。
属性も見た目も対立する双子。
それはゲームが始まってからのことだと思ってたけど、もしかしたら"ゲームが始まる前"から既に何かしらの確執が、二人の間にあったのかもしれなかった。
じゃなきゃレイの話題が出た瞬間に、あからさまに私に向けたよりも、もっと下向きな視線にならないと思うし。
まぁ、とにかく。
「あれ王子って言うか悪魔の間違いでしょ」
励ますでもなく、讃えるでもなく、私はついポツリとそう言ってしまった。
だってどんなに見た目は王子でも、中身魔王だもの。
店潰されたし。
「アシュレイのことも知ってんの?」
「まぁ……うん…………一方的に恨む程度には存じ上げておりまする」
「恨む?」
「聞いてくれます?」
「あぁ」
一応、今日初めて会ったばかりのツェルに、私はパン屋のことをブツブツ告げ口する。
流石に奴のせいで名前が固定されて困ってるってことは、言っても通じないだろうから言わなかった。
一通り話し終わるとツェルは、
「そう」
と、一言だけ言って頷く。
「あの人思考回路ぶっ飛んでますよね。最近特に酷いし」
言ってて思い出した。そうなんだよ。
私がレイを撒いたあの日から、レイは着実に暴君ルートを突き進んでいた。
流石に人殺しまではまだしてないみたいだけど、例えば気まぐれで急に解雇するとか、気が立ってない日が無いくらい毎日何かしら勘に触って怒ってる。
なんでもくしゃみをした側近の1人が気に入らなくて、城の外に叩き出したこともあったそう。
ただの王子になんでそこまで権限があるのかって思うけど、その辺はそれこそこのツェルとかヴァルデ達ーー王の近くに居る人達以外は知らないこと。
故に、私は知らない。ゲームでもこの辺の説明無かったし。
あと一番多いのが、魔法の無駄撃ち。
ある程度人事関連とかは、周りの人達がなんとか出来るみたいなんだけど、魔法使って暴れられるのだけは厳しいみたい。
その使い方ってのも、まるで魔力の高さを自慢するように、城のあちこちで意味のない魔法を使いまくる。
とにかく、あれからレイの荒れようが大変だった。




