【1話】モブ転生しました……。
なんでも1つだけ願いが叶うのなら、ここじゃない別の世界に行きたいなぁっとか、現実逃避していたらあっという間に二十歳を超えた。
ネットで検索して出てくる範囲のだいたいのおまじないは、たぶんやり尽くしたと思う。
だけど、何をやってもどれを試しても、朝起きたら別の世界でお姫様になってて……なんてことは起きなかったし、ただ夜更かしの末の倦怠感が1日中まとわりついて来るだけだった。
所詮リアルなんてそんなものなんだと、夢を見るのはもう止めようと、心機一転。
今までの精算をする為に、いつかこの世界に行けたらいいと、馬鹿みたいに憧れていたゲームを中古で売った。
価格は500円、ワンコイン。
そりゃそうだ。
もう随分前のやつだし、とっくにリメイクされてより快適なプレイが出来るように最新の機器に移植されている。
100円超えただけでもマシかって、ため息をついた瞬間、
居眠り運転の大型トラックに突っ込まれて、だいぶベタな死に方をした。
ここまでが、"私"の人生。
次に目が覚めた時に、明らかに360度ファンタジーチックに変化した街並みと、青とか緑とか自然に生える色じゃない毛髪の人々。
何より、私が私であったことをきちんと記憶していたこと。
それを瞬時に理解して、結論を導き出した。
ちょっとやだ転生成功したんじゃないこれ?!
と。
しかもだ。
店の看板とか外装とか、実際に目にした時は平面だったけれどよく見慣れたもの。
何度も何度もやり続けたせいで、頭が全部覚えていた。
猛烈にダサかったから、買ってすぐに頭に焼き付いたあのタイトル。
息をつくように言える。
ここは私がワンコインで売ったゲーム、【フォーチュンラブ❤︎アドベンチャー】の世界なんだ。
運は私に向いたのだ。
全てが私の思い描いた理想。
となると、次に気になるのは"私が誰に"なったのか。
出来れば主人公がいいけれど、ライバルキャラでもいい。
主人公の親友ポジションの子でもいいかもしれない。
悪役令嬢だったなら、破滅ルート回避に頑張る人生も割と楽しいかもしれない。
なんて、わくわくしながら街広場の噴水に姿を映してみたら……。
「……………………だれ?」
赤とかピンクとか水色とか紫とか。
色んな髪色(特に主要キャラ)なのが当たり前。
それなのに、水面に映った私の髪の毛は対して特徴も無いくすんだ茶色。
かろうじてふわふわの巻き毛はまぁまぁいい線いっているが、一切特徴のない髪型。
前髪の下から覗くお目目はぱっちりしている……どころか無い。
無い?
「嘘でしょ」
顔のパーツが鼻と口しかない。
どれだけ目を凝らしても、ある筈の目が不自然にボヤけて全く見えない。
それどころか、すれ違う人々の中に高確率で、水面に映った私とまんま同じ姿の人が居る。
このビジュアルの登場人物なんて1つしか居ないよ。
「モブやんけっっ!!!!!!!!」
それももうベスト・オブモブ。
モブの中のモブってくらい完成されたモブ。
シーンによって「わぁー」とか「きゃー」とか当たり障りのないことを、当たり障りのないように言う為に、一瞬だけ画面上に出現する、あれ。
場面によって名称は変わるが、基本見た目はそっくり同じ使い回し感半端ない、あれ。
状況によってあっさり尊い犠牲にされる、あれ。
「モブじゃん!!!!!!!!!!」
モブだ。
とりあえずモブだ。
否定出来ないくらいにモブなのだ。
更に追い打ちをかけるような事実がある。
さっきから比較的人通りが多い場所で、私は「モブだモブだ」と騒いでいるのだが、誰一人見向きもしないのだ。
だって一切声が出てないんだもん。
「CV無いパターンですかーい!!!!」
故に、結果的に脳内に響くのは"元の私"の声で。
新しい私のCV=昔の私と言う、奇跡のコラボレーションが誕生しちまっていた。
そりゃないよ……。
毒にも薬にもならない話だが、生前私は接客業を主に生業としていた。
多種多様のお客様と接してきた。
だけど現代日本って言うのは、なかなかサービス業に辛辣な構成になっているみたいで、基本的に土日祝休み無し。連勤当たり前。連日残業当たり前。
プレミアムフライデー?馬鹿言ってんじゃないよ。
働く人の為の制度の中に、私達が"働く人"としてカウントはされないのなんて定番事項。
そんな状況+入った店舗も悪かったみたいで、まぁブラックからのブラック。
寝て起きて働いて寝る。そして起きる働くその繰り返し。
慢性的な疲労から来る頭痛が、そろそろピークに陥ってきたかなぁって思った矢先に、私は死んだ。
だから何って話なんだけれど、
「頑張り料とかじゃないけど、もう少し優遇して欲しかった!!」
に、尽きる。
せめてさ!せめて!CVとか主要キャラなんて贅沢なことは言わないからさ、顔のパーツくらいは全部欲しかった!!
何?初回スタート目が無いって。
正直鬱ゲーよりも鬱展開だよ!!
自分の顔面見るまでは、「運は私に向いた」とか偉そうなこと言ってたけれど、私に向いた運は本当にちらっと向いただけで、近付いて来てはくれなかったようだ。
まぁいい歳して嫁の貰い手もいなかったし、そもそも候補すらいなかったし……。
行かず後家ルートまっしぐらだった私が、とりあえず外見(と言っても顔には鼻と口しかないのだけれど)から推測するに、若干12歳に生まれ変われただけ、まだ良かったのかもしれない。




