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(広い心で呼んでくれると嬉しいです。より良い作品にしたいので、アドバイスなどお願いします。本音でいいんでよろしくお願いします)

桜散る四月の朝、君との連絡は取れなくなった。通信的ではなく、もう、物理的にも無理だろう。

「此方の世界」はまだ、「其方の世界」と連絡する術を持たない。

いや、この先もずっと連絡できるようにはならないだろう。それは揺るぎない事実であって、僕の心は茨のムチで締め付けられた。

そう、君はもういないのだ。あの連絡しあっていた頃には戻れない。君のその顔は、眠っているだけのようで、さながら天使のようだった。

鼻に残る「死」の香りと、服につく「線香」の匂い。目の前にいる「眠っている君」は花に埋もれていて、周りには君を想う人々。

…僕はその中の一人なのかな、それとも「輝久」として残っているのかな。


…今日、君が死んだ。


君が亡くなっても、世界は何一つ変わりはしなかった。それなら、君が死ぬ理由はあったのだろうか。

世界が何も変わらないのなら、死ぬ理由なんてなかったんじゃないか。

君が死んだ日、君は君ではなくなった。肌、声、心、表情、それらを持っていた身体は、ものの数時間で白い棒の数々になってしまった。

病気の巣であったそれは、穴が無数に空いていて、触れれば崩れてしまう。この季節に似合わない雪のように君は溶けていった。

それから数年、僕はすっかり大人になった。あの頃の日々のような楽しみなんてものはなく、「生きるため」と薄っぺらい建前を作って生きてきた。正直、もう生きることに執着心なんてなくて、自分の人生なのだから好きにしたかった。

だからこそ、誰にも迷惑をかけない歳まで生きてきたのだ。君のいない世界はモノクロで、音も香りも色もない。僕の生きる価値は君だったのだ。

『もうそろそろかな…』

一通り「今」を振り返り、あの美しかった「過去」にしがみついたまま、僕は「其方の世界」へ向かった。


目が覚めると、そこは白い空間だった。人気はなく、『あぁ、やっぱり「其方の世界」なんてなかったんだ。』と気を落とした。

『お客さん!大当たりですよ!』

その声の主は見えないが、声は聞こえてくる。

『いや〜、君ね、まず自分の身体が無いのに、どうやって考えてるんだろう…とか、考えないの?』

焦る必要なんてないんだ。「其方の世界」に行けてないのは一目瞭然だ。自暴自棄になったところで何にもならない。目的地に着けずに「死んだ」だけだ。それがどうした。

『…普通は、死んだ人って『生き返りたい〜!』とか馬鹿なこと言うんですけどね…。やっぱり、君が「当たり」でよかったよ、うんうん。…え?当たりってなにかって?それはもちろん…定番の「あれ」ですよ…?』

…もしかして、俺は生き返ってしまうのか!?やめろ…あいつがいない…桃のいない世界なんて…生きていても仕方がない…。

『取り乱してますねぇ…。お客さんは「大当たり」なんですよ…?オプションくらい当たりよりも良いに決まってるじゃないですか…つまり、「好きな時間」に生き返る事が出来るんですよ…?』

そう言い終わる頃には「声の主」が現れた。いや、正確には「ようやく見えるようになった」のほうが正しいだろう。

その身なりは不思議で、軍服に道化師のような仮面。青年であり、髪の色は晴天の空のような明るいホワイトブルーだった。仮面から覗く瞳は、真っ直ぐとしていて心を見られている感覚に陥った。

『うんうん、僕の評価、高いね〜。まぁ、僕は美少年だしね、声もかっこいいし。うんうん。そう思うのも仕方ないよね〜!あと、心を読み取れるのは合ってるよ〜、僕って本当すごい!』

…やはり、心を読み取れるみたいだ…。

『…さて、「大当たり」を聞いて、気持ち変わりましたか?変わりましたよね〜、わかりやすい人ですね〜催園くんって。自分の欲望や理想に正直。でも、人間そんなもんですよね〜…うんうん。よし、じゃ、生き返りましょうか』

あぁ…そうしよう。この状況がどうとかじゃない。焦ったり戸惑ったりすることはないんだ。こんな千載一遇のチャンスを逃してたまるか。生き返る…生き返って桃を助けるんだ…病気にかかってしまったのは僕の所為なんだ。…だから、こんな未来にならないようにするため…あの、出来事を取り消せるギリギリの時に…戻してくれ。

『…承ったよ。…それじゃ、キミが求める「あの頃」戻すよ。…後悔だけは、しないようにね。それじゃ、またどこかで』

青年は優しく、何処と無く不安そうな悲しそうな顔をして、僕に別れを告げた。それは、僕の未来を案ずるような顔だった。



目を覚ました時、僕はあの通学路に立っていた。

「輝久!おはよ〜!」その声に少し驚いて、聞こえた方を向いた。元気な声とともに明るい笑顔を向けて来た雨水 桃〈うすい もも〉が立っていた。

「…?どうしたの輝久?」その言葉で我に返って、僕…催園 輝久〈さいえん かがく〉は優しい笑みとともに「おはよう、桃」と言った。

「えへへ〜おはよ〜!今日も輝久はかっこいいね〜!」そう言いながら手を繋いでくる。こんな事を毎朝していたのだ。

「そんな事ないよ、桃の方が断然可愛い。…いいの?僕みたいなやつと付き合っちゃってて…?」

「いいんです!私が輝久を選んだんですから!」ニコニコしながら、声を張って言った。その発言に羞恥心はなさそうで、逆に僕が恥ずかしくなった。そして、「そっか…じゃあいいんじゃない?俺もそんな桃が好きだよ」そう、僕は桃にとても甘い。大抵のことは許してしまっている。

「えへへ〜、輝久好き〜」…本当、天使だと思います。いや、やっぱり天使です。…そうだ、この日常を取り戻すために僕は戻って来たんだ…。

「思い詰めた顔してるけど…私でいいなら相談に乗るよ…?」「あ、あぁ、ごめん。心配させちゃった?大丈夫だよ、桃がいれば僕は幸せだからさ」「えへへ〜よかったです…!」…どうだ?幸せそうだろう?あぁ、幸せだ。幸せだった。これを取り戻すんだ。


通学路を歩いて、ものの数分で学校に着いた。僕と桃は同じクラスなので、クラスに2人で入って毎朝友達にからかわれる。しかし、それでいい。

その時の桃の恥ずかしそうな顔が見たいのだ。おっと、ここだけ聞くと変態かもしれない。違うんだ、耳を紅くして、頬が朱色に染まっていき、照れてるって感じるのがものすごく可愛い。正直、これ以上可愛いものはないだろう。

「やっぱり…恥ずかしいね…輝久…」

「こんなの慣れただろ?ほら、教室に入るぞ」

と、言って、肩に手を置いて体をこちらに抱き寄せてから教室に入った。桃の体が熱くなってるのが肌で感じられた。多分、僕の心臓もドクドクとなっているだろう。桃も同じなんだろうな、と思うと、不思議と笑みがこぼれた。


授業が終わり、帰宅の時間になった。HRが終わり、僕らも帰る時間だ。

「一緒に帰るか、桃?」

「あ、うん!一緒に帰る〜!」

「よし、じゃあ、おいで」

「うん!…ぎゅー!」

当番の仕事で2人で教室に残っていた。誰もいなくなった教室で僕らは抱き合った。桃の髪の匂いや体温、息遣いを感じられるこの距離、この時間をずっと過ごしたいと思ってしまう。いつまでもずっと、このままで。

「…ねぇ、輝久。私のこと…好き…?」

「…?もちろんだろ?」

「…えへへ…よかった…私も大好きだよ…!」

そこから、なんて事もなく、唇を合わせた。ムードがそうさせた、とかではなく、無意識のうちに2人で合わせていた。

ほんの数秒、その時間がとても長く、いつまでも続く気がした。学校でこんな事していいのか、桃はどう思ってるのだろうか、そんな考えが頭の中の「この時間が幸せ」と感じる水の中に、泡のように浮かんでは消えていく。沈んでいく夕日に照らされ、紅く染まっていく町を後ろに、僕らは一生を感じた。


帰り道、僕らは少し距離を置いて歩いた。多分近くにいると、2人とも恥ずかしくなってしまうからだと思う。…自分でも初々しいなと思った。

「…ねぇ、輝久。私ね、輝久の事、大好きだよ…!」

そう、桃が言ってきた。満面の笑顔で、これ以上ないと言うほど可愛く、綺麗だった。風になびくその長髪と一緒に、僕の感情も風に流された。

…あれ、前に僕は何を言っていたのだろう…ここで、何を言えば、幸せな未来に進める「正解」の受け答えなのだろう…。

そう考えると、僕は笑う事しか出来なかった。

その時だった。桃の背後にトラックが迫ってきた。

「…!桃…!危ない!」「…え?」

僕は桃を庇った。一瞬の判断だった。守ると決めた人を守ったのだ。…あれ、これ、幸せじゃないじゃん…。

目の中に入る液体のせいで、赤く滲んでいく君が見えた。その顔は泣いていた。そうだ、まだ、僕は死ねないじゃないか…そう、遠のく意識の中、僕の人生は幕を下ろした。


『…間違いだけはしないでって言ったじゃないですか…』そう、遠くで声が聞こえた。

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