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第七話 『少女』

 俺達がオックスフォード商会に入ってから、数日が経った。

 俺はというと、まだまだ新米ということで基本的に便所掃除の以来しか手伝わせてはもらえない。

 ルークはというと……あの日からずっとふさぎ込んでいた。

 彼女は誰とも話すことはなく、寂しそうに窓から外を覗いている。

 俺はそんな彼女を見ていると、ダリウスがそっと俺に耳打ちしてくる。


「……おい、あいつ一体どうしたんだ?」

「離すと長くなりますけど、色々あったんですよ」

「……色々ありすぎだろ。ありゃ相当弱ってるぞ」


 ……本当に、色々な事があった。

 どうして俺達がこんな目にあったのだろう。何故、幸せだった日々はこんなにも簡単に崩れてしまったのだろう。

 その思いだけが、俺の中に渦巻いていた。


「センリ……だったよな? お前、あいつ元気づけて来い」

「……まあ、一応やってみますけど期待しないでくださいよ」


 俺は一度ため息をついてから立ち上がり、彼女の近くに椅子を持っていく。

 そして、十分話ができる距離まで近づいてから、その椅子に座って彼女に話しかける。


「……ルーク。元気か?」

「……うん」

「なんか悩みがあったら言えよ。何でも相談に乗るからさ!」

「……うん」

「えっと……それで……」


 ……何を話せばよいのだろうか。

 ここまでルークと話すのが難しいとは思わなかった。


「……要件はそれで終わりかい?」

「あ、ああ」

「……そっか。ごめん、一人にしてくれないかい?」

「わかった。それじゃ、元気出せよ」


 ……俺は椅子を持ち上げ、ダリウスの元へ戻っていく。

 ダリウスは頭を押さえ、こちらに耳打ちする。


「アホか。女の子の『一人にしてくれ』はな、『一人にしないでくれ』という意味なんだよ!」

「……え? そうなんですか?」

「そうだよ! これだから女性経験のないガキはダメだ!」


 ……通産を考えれば俺はダリウスより年上なのだが、女性経験なんてものはない。

 というか初めて聞いたぞその理屈。


「そんなこと言うなら会長行ってきてくださいよ」

「アホ、俺が行ってきてどうすんだよ。こういうのはな、仲良い奴が話さねえと意味ないんだよ」

「……そういうもんですか」

「そういうもんだ。とにかく、今日のお前の仕事はあいつを元気づける事だ」


 俺はダリウスの言う通りもう一度椅子を持ってルークのところへ行く。


「……いい、景色だな」

「……うん」

「草原も好きだったけどさ、やっぱりこういう街並みもいいよな!」

「……うん」

「ルークはさ、草原とこの街どっちが好き?」


 俺がルークに『うん』だけでは答えにならない問いを出すと、ルークがこちらに振り向き見つめてくる。


「……あのさ」

「え? どうかしたのか?」

「……ごめん。気を使ってくれなくていいよ。大丈夫だから……」

「いや、どこら辺が大丈夫なんだよ。お前、ここに来てから明らかに元気じゃないだろ」

「いいんだ。ほっといてくれ!」


 ルークは俺に強めに言い放つと、ハッとした顔をして俯く。

 ……駄目だ。俺には彼女を元気づけることはできないのだろうか?

 俺は彼女に何も言うことが出来ず、ただ見つめているとフィオナが話しかけてくる。


「ふふ、女の子をいじめちゃダメですよ?」

「……フィオナさん」

「でもルークちゃん、駄目ですよ? 折角友達が心配してくれてるのにそんな言い方しちゃ」


 フィオナは後ろからルークを抱きしめると、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

 ルークはというと、ただ黙って俯いているだけで、反応はない。


「ルークちゃん、元気ですか? ほらほら、返事しないとほっぺいじっちゃいますよー?」

「……元気です」

「そうですか。それじゃあ今からご飯食べに行きませんか? センリ君も連れて」

「……え?」


 俺は不意に出てきた俺の名前に驚き、返事をすることが出来なかった。

 だが、返事の有無など気にせず、俺たちの手を引っ張って外に歩いていくフィオナ。


「じゃあ会長。ご飯食べてきますね?」

「おう、時間には戻って来いよー!」




 俺達は手を引っ張られたまま、商店街の真ん中まで引っ張られた。

 正直なところ、女の子に手を握られたことなど初めてなので、凄くドキドキしました。


「……しかし、さっきのセンリ君可愛かったですねぇ」

「……え? 可愛いって……」

「ほら、ルークちゃんに怒られてシュンってしてたでしょう? なんかそれが犬みたいで可愛かったんですよ」


 ……可愛い。

 前の世界で女の言う可愛いは信用してはいけないと聞いたことがあるが、実際言われると物凄く恥ずかしい。


「そうですね、センリ君は……犬です。犬コロです!」

「……犬コロ?」

「はい! 犬コロ君です!」


 なんで犬の後ろにコロがついているのかは謎だが、どうやら俺は犬のように見えたらしい。

 ルークもそれは少し思っていたらしく、ほんの少しだけ笑っていたが、すぐに表情が戻ってしまった。


 しばらく歩いていると、フィオナは急に振り返り笑顔で話しかけてくる。


「あ、ちょっとお手洗い行ってきますね」

「わかりました。それじゃあ、ちょっと待ってますね」


 俺はフィオナがトイレに行った後近くの壁に寄りかかった。

 ……なんにせよ、今回はフィオナに助けられた。彼女がいなかったら俺は気まずいままだったのだろう。


 俺は少しだけ表情の柔らかくなったルークを見て少しだけほっとする。

 しばらくそんな彼女の様子をうかがいながら待っていると、急に大柄な男たちが俺達を囲んでくる。


「……テメエら、オックスフォードの奴らだろ?」

「……そうですけど、なんですか?」

「ちょっと面貸せよ。お前らの会長にはお世話になってんだよ」


 男たちは下卑た笑みを浮かべながら路地裏に俺達を連れていく。

 フィオナに助けを求めるためにトイレを見るが、彼女の姿はそこにはなかった。




「さて、どっちから殴ろうかな?」


 俺はただ大柄な男たちにおびえていた。

 以前、俺を殺した男たちの記憶がフラッシュバックする。

 だが、怯えているのはルークも同じらしく、うつむいて黙り込む。


「……そうだな、そっちの銀髪の奴からにするか」


 俺は顔を上げ、男たちがルークを見ているのに気づいた。

 ……不味い、このままでは……!

 俺は魔力を集中させ、男たちに気付かれないように氷を作り出す。


「……おいおいボクぅ、何してんのかな?」


 だが、そんなカモフラージュも見破られてしまい、男たちの下卑た笑みもなくなっていた。

 万事休すかと思ったが、少しだけ彼らの様子がおかしい。

 どちらかというと……焦っているような、そんな気がした。


 俺は後ろを向いて確認すると、そこには数百の鋭利な氷柱が、男たちに対して突きつけられていた。

 そこで、俺は一つあることを思い出す。

『魔力を増大させる』注射を、俺はあの男に打たれていたのだと。


 俺は片手をあげて、氷柱すべてに指揮をするように振り下ろす。

 それと同時に氷柱は男たちを襲い、腕や胸、色々なところに突き刺さる。

 男たちは様々な悲鳴を上げながら逃げ出し、この場には俺とルークしかいなくなっていた。


「……セン、リ……?」

「……そっか。やっと、やっと手に入れた……!」


 俺は自分の手のひらを見つめ、あふれ出るような魔力を身に染みる。

 これで、やっと本当に誰かを守る力を手にしたのだ。

 もうこれで……誰かを失うことはなくなる!


 その時の俺は、確かな自分の力をかみしめていたのだった。

幼少期 ―終―

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