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第二十話 『心』

 俺達はあの後、二人に連れられてクロフォード城内に入ることが出来た。

 城内に入り、しばらくすると紅い月が消え失せ、ゴブリンの鳴き声が城の外から耳に入ってくる。

 俺はその状況に少しだけ焦ると、急に二人が振り向き後ろにいたルークとフィオナを見る。


「……心配しなくても、裏切らないの」

「その証拠に、答えられることならすべて答えます」

「そうは言いますけど、逆の立場だったら信用できますか?」

「……悪いけど、自分は君たちを信用する気はないよ」


 ……確かに、ここまでは無事についたが、ここが罠じゃないとは限らない。

 だが、外から聞こえてくるゴブリンの鳴き声を除けば、場内はやけに静かだった。

 いや、静かすぎるくらいだ。


「こっち。もうみんな揃ってるの」

「そこですべてをお話しします。信用していただけなくても構いません」


 双子はそう静かに言い残すと、奥の部屋に入っていく。

 その奥の部屋の扉の前には、騎士団長であるシンが、腕を組み壁に寄りかかり、あたりをはばかるような小さな声で話しかけてくる。


「……彼女らが妙な真似をしたらすぐに……」

「……ええ、わかってます」


 フィオナが小さくうなずくと、扉を開けてくれる。

 もう片方の手は、剣の柄を握ったまま。


 俺達は案内されるままに部屋に入ると、ダリウスとセシル、そしてライオットがソファーに座っていた。


「みんな、無事だったんですね!」

「……俺達は無事だが、もうこの街は壊滅的だ。人っ子一人生きてやしねぇ。つーか、お前髪色どうした?」

「……あー、色々あったんです。話すと長くなるので、後程……」


 俺が言葉に詰まっていると、ルークが話を遮ってくれる。


「……会長、お姫様はどうしたんだい?」

「……今は奥の部屋で寝てる。そっとしとけ」


 ダリウスはルークの言葉に静かに答えると、気まずい沈黙が流れる。

 本当に、クロフォードは彼らに滅ぼされてしまったのだろうか。

 それに、国王や兵士たちはどこへ消えたのだろうか。


「……狗、その前にティナを渡せ。彼女は今とても疲れている」

「あ、はい。すいません」

「……ライお兄ちゃん」

「……フン、無事か。どうだ、ケガはないか?」

「……うん。二人のお姉ちゃんが助けてくれたの」


 ティナはライオットの膝の上に座ると、シュガーとミルクを指さす。

 それでも彼女たちは眉一つ動かさず、こちらを見つめていた。

 俺はその二人の紅い瞳に取り込まれそうになるほど見つめていると、ダリウスが急に話を始める。


「……さて、シュガーさんとミルクさんよ。お前たち『慈愛の会』の目的を聞かせてもらおうじゃねえか」

「わかったの。それは……」

「全人類を魔族にし、監視下に置くこと、です」

「あぁ? 世界を監視下に置くぅ?」

「待ってくれ。つまりそれって、実質的な……!」

「はい。『世界征服』です」


『世界征服』。

 俺はその四文字を何度か夢にしたことがあるが、本当に目の当たりにするとここが現実なのか疑いたくなる。


「次の質問です。ルシフールは敵なのですか?」

「敵なの。『慈愛の会』を悪く言っている人もいたけど、基本的には全員敵なの」

「シャルル皇女を逃がすためにわざと火を放った人達が『慈愛の会』反対派だったのですが、今はもう彼らはゴブリンとなってしまいました」

「……つまり、奴らは俺達を逃がすために火を放った、とでも言うつもりか?」

「はい」

「……馬鹿馬鹿しい。口で知らせればよいものを」

「それはできません。彼らはすでに魔族となりかけていたため、言葉を失っていました」


 つまり、最後の理性で俺達を助け出したという事か?

 だが、そうなると少しだけ矛盾していることがある。


「……なあ、俺は以前魔族は高い知性を持っているって聞いたんだけど、どういう事なんだ?」

「はい。本来魔族は高い知性を持つ生き物。ですが、まだ脳が未発達のため、それを使いこなすことが出来ません」

「つまり、まだ彼らは畜生と変わらないって事なの」


 彼女らは無表情で離し終えると、今度はセシルが口を開く。


「……ルシフールは、なんでクロフォードを攻めたんだ?」

「簡単な事なの」

「実験体が欲しいから。それだけです」

「……ふざけるなァ!」


 ダリウスがその言葉を聞くやいなやソファーから立ち上がり、二人につかみかかる。


「テメェら、自分たちの未来のためならここの奴らがどうなってもいいのかよ! ふざけてんのか!?」

「……」

「申し訳、ありません」

「謝ったってな、もうここの奴らは戻ってこねえんだよ! まだ未来のあったガキやその成長を見守る年寄り、全員テメエらが奪ったも同然なんだぞ!」


 ダリウスが今にも殴り掛かりそうな勢いで怒声を浴びせていると、フィオナがダリウスの肩を掴む。


「落ち着いてください、ダリウス。激高する気持ちはわかりますが、今は抑えて」

「フィオナ、引っ込んでろ!」

「抑えて」


 フィオナがそう静かに命令すると、ダリウスは大きな舌打ちをした後ソファーに座る。

 フィオナはそんな彼を一瞥した後、いつもよりもどこか涼しい声で話し始める。


「……センリ君やここの町の人。それらが全員人間に戻れる薬はありますか?」

「……ないの」

「本来『慈愛の会』は魔族を崇拝する会。人間に戻る薬は魔族への冒涜とみなされますので」

「……それじゃあ、私のお父様もああなったままのなの……?」


 俺は急に会話に入り込んできた声の持ち主を探すと、壁に寄りかかって今にも崩れ落ちそうなシャルルがこちらを見つめていた。


「……ねえ? どうして、どうしてみんなを殺したの?」

「……」

「……申し訳ありません」

「私たちが何か悪いことした? 人間が魔族を滅ぼしたのだって、もうかなり昔の話じゃない」


 シャルルは二人に話しかけるも、ただ虚空を見つめるような目で涙を流し続けている。


「……センリ、アイツを奥の部屋に連れていけ。このままでは、彼女の心が壊れちまう」

「わかりました」


 俺はダリウスの指示にしたがいシャルルの肩を持って奥の部屋へ入る。

 ……一体、何か俺達は悪い事をしたのだろうか。

 その疑問だけが、胸の中を渦巻いていた。

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