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第一話 『魔法』

 あれから一年がたった。

 俺はすでに自力で歩け、言葉もある程度までは話すことが出来る。そして、自分の置かれた状況も、ある程度は把握できた。


 俺は、この世界に生まれ変わった。その認識で間違いはないらしい。

 そして、俺の世話をしてくれているアマンダは俺と血がつながった肉親ではなく、箱に入れられて捨てられていたのを見つけたそうだ。

 その時に、俺の名前である『センリ・ブリュンスタッド』という名前の書かれた紙が一緒に入っていたそうだ。

 もちろん、聞いたわけではない。一週間前にアマンダが呟いた独り言を俺が盗み聞きしたのだ。

 ちなみに、老婆の名前は『アマンダ・フィールハイド』というらしい。


 さらに、俺の置かれた状況に一つだけ大きな問題があった。

 文字が前の世界とはまるで違うのだ。

 数字はある程度の形は一緒だが、文字はある程度……といっても、童話に書かれている文字ぐらいしか読み取ることはできない。

 ただ、それでも俺の頭は優秀な方らしいのか、俺はアマンダによく褒められる。

 ただ優しいだけ……という可能性はなくはないが、それでも、俺が一歳の時よりもはるかに頭がいい。

 いや、むしろ悪かったら大問題なのだが。


 最後に、この家は基本的に何もかもが木で出来ている。

 この家自体森に囲まれているため、そうおかしな話ではないのだが、老婆が一人で森に暮らすなど、不便ではないのだろうか?


 俺はそんな疑問を抱きながらも、文字をもっとよく理解するため童話を手に取り軽くページをめくってみる。

 内容は、悪事を働いた鬼を懲らしめる話や、うさぎのお友達の洋服を汚して謝る話など、ありきたりな童話がほとんどだ。

 中には、初めての魔法の使い方なんてものもある。こういうのを信じなくなったのはいつ頃だっただろうか……?


 ただ、一つだけ明らかに内容がおかしい本がある。

 良くは理解できないのだが、読めるところだけ読むとこうなる。


『――は、――となって世界を―――、その時に―を―られ、この世界を―る』


 ほとんど理解できてはいないのだが、明らかに童話の内容ではないし、そもそも『世界』なんて言葉は童話には出てこない。

 そして、なんというか……すごく不気味なのだ。

 背景は真っ赤に塗られ、下の方に何人かの人間と思われる『人型の何か』は、空高く飛んでいる何かに手を挙げている。

 その、『人型の何か』は怒っているとも、泣いているとも取れない表情をしていて、形もいびつだった。

 角が生えているものや、翼が生えているもの。果ては、その両方。

 絵が下手……という訳ではない、どこか嫌な雰囲気をも感じる。

 俺が本当に一歳だったら泣いていただろう。確実に。


「センリ、何を読んでいるんだい?」


 俺はその本に集中するあまり、後ろにいるアマンダに気付かずに驚いて声を上げてしまう。


「え? えっと、なんでもないよ」

「……ああ、その本かい? その本はね、本当は置いておきたくなんかないんだけどね、私のおばあちゃんやひいおばあちゃんからずっと引き継がれてきたからねぇ……捨てるにも捨てられないんだよ」

「ふーん……」


 何故、こんな薄気味悪いものを取っておくのだろうか?

 確かに先祖代々……と聞くと捨てられないが、家宝にするにしてももっと他になかったのだろうか?


「そうだ。そろそろご飯にするから、そのお絵本を閉まってきなさい」

「はーい」


 俺は返事を返すと、嬉しそうにアマンダは頷く。

 言いつけ通り本を片付けると、走ってキッチンに向かうことにした。



「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした!」


 俺は昼食のカレーを食べ終え、台所に皿を持っていく。

 今現在、この家には俺とこのアマンダしかいないのだ。それならば、少しくらい手伝わないといけないだろう。

 ……そして、俺には一つだけ疑問があったのだ。


 どこから皿を洗う水が出てくるのだろうか?


 俺はある程度台所から離れた後、椅子に座って今から皿洗いを始めようとしているアマンダを見つめる。

 今まで見ようとしては居たが、気が付くと俺は食後の眠気からか眠ってしまっていたのだ。

 だが、今回は違う。たっぷりとお昼寝したので、まだ眠くないのだ。


 俺は他流試合を見るがごとく視神経の一本に至るまで集中してアマンダの後姿を見る。

 すると、アマンダが小さな声で何かをつぶやき始める。

 だが、とても難しい言葉だったので、俺には理解には至らなかった。


 俺はため息をついて前を向くと、そこにはどこからか現れた水が、空気に浮かんでいた。

 水の塊……と表現するのも変な話だが、俺にはそう表現するしかなかったのだ。

 見た目的には、スライムが一番近いだろうか。


 アマンダはその球体に皿を突っ込み、汚れを落とした後に皿を取り出す。

 そして、もう一つの皿も同様に洗った後、エプロンを外す。

 その姿は、現実的にはありえないものだったが、現に実際起きてしまったのだ。

 その幻想的な姿は、まさに一言でいうなら『魔法』だった。


 俺はアマンダに気付かれないように踵を返し、先程の本があったところに歩いていく。

 そして、初めての魔法の使い方という本を手に取り、注意深く本を読み始める。


 こうして、俺は『魔法』という存在に初めて触れたのだった。

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