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第1話『おっさんに訪問者あり』

改めて読み返したのですが、これ前作読んでないとまったく意味が分からないですよね……。

時間があるときに改稿しようと思っておりますが、いつになるか分からないので、「このおっさん、過去にいろいろあってぶっ壊れちゃったんだな」ぐらいのふわっとした認識でお読みいただくか、お手数ですが前作をお読みいただければと……。

「平和だなぁ……」


 その呟きには、少なからず不満の要素が含まれていた。


 大下敏樹、40歳。

 在宅のフリーランス業務で細々と稼ぎながら生活を送っている。

 数年前からアラフォーを自称しつつ予防線を張っていたのだが、いざ40歳を迎えてみるとやはりくるものがある。

 なので、あと数年はアラフォーを自称するつもりであった。


 敏樹はおよそ二年前、突然独りになった。

 周りから人が、人だけではなくペットも含む動物までもが消え、さらに町境から外へ出られなくなった。

 独りきりになった町内には魔物が現れた。


 独りきりと言っても商店は利用できた。

 無人の商店でレジに品物を持っていけば物を購入できたし、ネットショップ最大手のTundra(ツンドラ)も利用出来た。

 ただし、商品の購入に使っていたのは日本円ではなくポイントだった。


 敏樹が独りになったとき、視界の端に数字が表示されるようになった。

 それを便宜上敏樹はポイントと呼ぶことにし、商品の購入にはそのポイントが使用された。

 

 なんの特殊能力もなく突然放り込まれた孤独な戦い。

 唯一の能力は死亡からの復活。

 死ねばポイントを半分消費し、復活することが出来た。

 自前の身体能力と普通に購入できる日用品、あとは知恵と勇気を頼りにトライ・アンド・エラーを何度も繰り返して戦い続け、およそ半年で敏樹は戦いに勝利。

 勝利報酬として15億円以上の現金を手に入れていた。


 収入は少ないが資産は多く、1億円近くを使って家を新築し、ランニングコストを減らすために色々と設備投資を行ったおかげで、わずかな収入でもやりくりできるようになっており、今のところ貯金は14億数千万円から減っていない。

 この先も変わることなく平穏な日々が続くのだろう。

 敏樹は漫然とそう思っていた。


ピンポン


 ドアホンが鳴る。

 スマートフォンを手に取り、アプリを起動。

 モニターに見知らぬ女性が映っていた。


「セールスか? 宗教ではなさそうだけど……」


 半年もの間独りで過ごしたせいか、敏樹は独り言が多くなっていた。

 自覚はまったくなかったのだが、戦いを終えて以降、家族や知人から指摘されて初めて気づいたのである。

 一応気をつけてはいるが、結局のところ1人で過ごすことの多い敏樹にとって独り言の癖を治すのは難しい。


 モニターの向こうにいるのはおそらく自分と同世代の女性。

 ビジネススーツに身を包んだキャリアウーマン風の格好で、容姿は十人並みといったところか。


「はい」


 応答ボタンをタップし、敏樹は応答した。

 用件次第ではこのままお帰り願おう。


『恐れ入りますが、大下敏樹さまはご在宅でしょうか』


「どちらさまでしょう?」


(わたくし)、町田と申します。大下さまに折り入ってお話がございます』


「いや、どこの町田さんだよ……あ」


 心の中で呟いたつもりが声に出てしまった。


『ふふ。例の戦いについて、と申せばお察しいただけます?』


「え……?」


 モニターの向こうに立つ女性は、すべてを見透かしたような笑みを浮かべていた。



**********



「世界間戦争管理局……?」


 敏樹は女性に渡された名刺を見ながら、敏樹は眉をしかめた。


「日本にそんな組織が?」


「あ、日本とか関係ないです。町田っていうのも仮名ですし」


 特に悪びれるようするなく、町田と名乗った女性は敏樹が出したコーヒーを啜りながら答えた。

 結局あの後ドアを開けて応対すると、あれよという間に家に上がりこまれたので、敏樹は仕方なくコーヒーを出してもてなした。

 敏樹は現在母親と二人暮らしだが、この日母親は近所の知人たちと旅行に出かけていた。


「はぁ……」


 訪問時の慇懃さはなくなり、町田は随分とフランクに対応してくるようになった。


「さて、改めまして大下さん、勝利おめでとうございます」


「あ、どうも。ってか、あれってなんだったんです?」


「お察しの通り異世界からの侵略ですけど?」


「いや、お察しって……」


 と言いつつも、名刺にある『世界間戦争』の文字で想像していたことではあるが。


「ま、簡単に説明しますと、世界の境界線を越えて発生した侵略戦争を、我々は管理する立場にあります」


「えーっと、一応訊きますがなんでそんなことを?」


「そりゃもう一方的な蹂躙になるからですよ。昔それで色々ありましてね」


「そんな一方的になります?」


「だって相手は世界の境界を越えてくるだけの文明を持ってるわけですよ?」


「……と言われても実感が」


「あー、そうですねぇ。光速ぐらいはサクッと超えられないとお話になりませんね」


「はぁ。竹槍で戦闘機と戦う、みたいな?」


「いえいえ、自転車で太陽に突っ込むぐらいのもんです」


「うへぁ……」


「ま、とにかくですね。あまりにも文明の差が開きすぎる世界同士の戦争になった場合、我々管理局が介入します。そこで主に行われるのが代表戦ですね」


「代表戦、ねぇ」


「侵略された側の世界の代表者を無作為に選出し、戦場を固定。あとはそこで色々なルールの元、戦ってもらうというものです」


「つまり、俺は世界の命運を背負ってたと?」


「はい。それに勝利したんですから、誇っていいですよ」


「……もし負けてたら?」


「蹂躙です」


 敏樹は背筋が寒くなるのを感じていた。


「あ、いや、でもあれってこっちに有利過ぎやしませんか?」


「そうでもないですよ。我々は互いの文明の差を考慮の上、攻撃側にある程度のアドバンテージを持たせてますから。防衛側の勝率は平均3割ですからね」


「ええー、そうですか? 何回死んでも生き返れるってんじゃあ、根気よくやればいつかは勝てるんじゃ……」


「事情も知らされず意味不明な状況に陥った代表者の心が折れて終わるのが約5割。ポイントを使い切るのはこのパターンですね」


「え……」


 ポイントは1日毎に定額で消費されるので、魔物を倒して稼がない限りいずれは消費してしまう。


「大下さんは最後まで知らずに済みましたが、同じ敵に10回倒されると降参を選択できます。それで脱落するのが1割。あとはラスボス戦でコンティニューを使い切って終わるのが1割といったところでしょうか」


 敏樹が巻き込まれた戦いは、ポイントが有る限り何度でも復活は可能だった。

 しかしラスボス戦が始まると、コンティニュー残数が表示される。

 敏樹の場合は5回中1回を消費していた。


「ちなみに勝率3割というのはあくまで平均ですからね。大下さんの場合は1割未満と予想されてました」


「そんなシビアだった!?」


「はい。だってこの町には銃も何もないじゃないですか」


 どこにでもある日本の平和な街である。

 敏樹も最初は農機具と包丁を合わせた武器やフライパンを改造した防具を作るなど、試行錯誤を繰り返したものだ。


「少ない手札であれこれ考えながら異世界の魔物と戦う大下さんの姿は、管理局でもすごく話題にまってましたからね」


「いや、見てたの!?」


「そりゃ見ますよ。管理局ですもん」


「ええー……」


 敏樹は戦いの間、ただ戦っていただけではない。

 色々とアレすることもあるのだ。


「ああ、ご心配なく。ご自宅の中は覗いてませんから」


「あ、そうですか。よかった……」


「まぁ、周りに人っ子一人いなくなる状況にはっちゃけて、野外でアレする人もたまにいますけど」


「うへぇ」


「ひどい場合だと魔物相手にナニする人なんかもいますから、そういう意味でも健全に戦った大下さんの評価は高いですね」


「そりゃどうも」


 敏樹は少し照れながら、自分で淹れたコーヒーを啜った。


「じゃあ、あの時現れた魔物ってのは侵略して来た側の世界の存在?」


「いえいえ、あれは大下さんの嗜好に合わせてこちらが用意したものになります。侵略側はそれらをいろいろなルールに従って配置していったという感じですかね」


「なるほど」


「っていうか、世界を超えるような文明がもつ戦闘ユニットやら戦術兵器なんて、この世界の一般市民じゃ相手にできませんて」


「そんなもんですか」


「そんなもんです」


「あ! 再侵攻みたいなのは?」


「ないです。向こう100年は管理局でこの世界を保護しますので。それも防衛側報酬の一貫ですから」


「うん、そりゃよかった――、いや、100年? 短すぎない?」


「んー、どうでしょ? あと30年足らずで技術特異点が来ますし、なんとなるんじゃないですかね」


 技術特異点というのは人間が自分たちより優れた存在を作り上げることで起こる現象のことである。

 今のまま順当に行けば、コンピューターの演算能力が人の能力を超越するといわれている。

 自分より優れた存在を創ることが出来る能力を持つ人間により生み出された人間より優れた存在は、さらに優れた存在を生み出す力があるので、次の世代のより優れた存在を創り出し、新たな世代は更に優れた次の世代を――、と言った具合に猛スピードで進化が繰り返されてエラいことになるというお話でである。

 今のペースで行くと2045年あたりにその技術特異点が訪れるといわれている。


「いや、あれって都市伝説じゃないんです?」


「どうでしょうねぇ」


 町田は意味深な笑みを浮かべていたが、コーヒーを啜り表情を改めた。


「さて、そろそろ本題に入りましょうかね」


 そういえば、この町田という女性は、一体なぜ自分の前に現れたのか。


「大下さん、行きたくありませんか?」


「行きたいって、どこへ?」


「異世界へ」


本日はあと2話更新します


技術特異点については適当に流して頂ければ……。

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以下ももよろしくお願いします

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