第2章:都庁の地下1階ってここですか? え、ここ地上?(第7話)
勲はパスポートを持っていない。そのため、三が日が明けて公共機関が動きだしたら、早めにパスポートを作りにいかなくてはならない。別にそれは大したことではない。日にして一月二日。例の駅伝を見ながら、毎度の如く佑奈邸で三人揃ってゴロゴロしている。
「都庁わかる?」
「さすがにわかりますよ」
「パスポートセンターの場所わかりますか?」
「ネットで調べればすぐですよね」
「あそこ迷うぞ?」
「そうなんですか?」
「ただでさえ新宿大迷宮の一角なんだ。ついていってあげようか?」
「いえ、そこまでしてもらわなくても」
「じゃあ一人でいけますね」
「お、うちの大学順位上がった」
子供のお使いのような会話が繰り広げられている。勲は、二人に頼まれて昼食の準備中。年越しの際余った蕎麦を調理中。完全に二人のお抱えシェフになっている。
「たまご入れる人ー」
「はーい」佑奈が挙手。
「私は抜きでー。あ、ネギ多め―」
「ネギ了解。たまご半熟ですか?」
「お願いしますー」
それぞれから事細かな注文が入る。それを忠実に仕上げる勲。
「はい、お待たせしました」
「ありがとうございます」
「ありがとう。いただきまーす」
「僕も食べよう」
料理を終え、改めてこたつに潜り込む。多めに七味を振りかける、そして勢いよく蕎麦をすする。
「何年の取るんですか?」パスポートの期間の話だろう。佑奈から聞かれる。
「そうですね。10年にしようかと。この後使う機会もあるかもしれないし、持っていれば行く気にもなるかもしれませんから」
「懸命だねー、ずるずる」蕎麦をすすりながら答える真白。
「そういえば工程ですけど。ツアーじゃないから自分たちで行くところ決められるみたいですね」
「そう、そこなんですよ。全然前情報無いから、今から決めないといけませんね」
「自由の女神とアルカトラズは見たいな」真白の希望取り敢えず二か所。
「アルカトラズって…」
「私、ブロードウェイは行きたいです。世界一のエンターテインメントの街ですし」
「そうだな、僕は…。グラウンドゼロは見ておきたいな」
勲は9.11の跡地である『グラウンドゼロ』を希望。頭がいいからとかそういう訳ではなく、世界が動いたその現場を見たいという純粋な気持ち。
「あぁ、あそこか。さすが社会派」
「社会派って言うほどのものじゃないですけどね、時代が動いた場所ですから」
「あとはミランダねえさんの希望か。てか、ねえさんのほうが詳しいんじゃない?」
「兄貴は何度かアメリカにも行ってるはずです。だったら今回ついてこなくてもいいはずなんですけど」
「詳しい人が一人いるとありがたいです。英語喋れるのも心強いですし」
「んー、どういうつもりなんだろ。早めに連絡付けないと」
「だよね、芸能人だし。予定空いてるのかな?」
あれでも一応芸能人。予定が詰まっている可能性が大である。既に二か月もない出発までの期間。6日も予定を開けることが可能なのだろうか。そこが勲の危惧していた部分である。
「ニューヨークも寒い時期ですけど仕方がないです。2月の真ん中くらいをめどに予定をたてましょう」
「うん」
「はぁい」
おのずと行ける時期は決まってくる。あとは兄の予定がどうなるか。そこだけが問題である。もし仮にいけないとでもなれば、一人探すしかない。無駄にだけはしたくない。勲主体で旅行の計画は練られていくことになる。
「さて、おかわり」
二人から空になったどんぶりを突き出される勲。まだ半分も食べていないのに、箸を置き改めてキッチンへ向かう。
「速いなぁ、もう」