第5話
たこ焼き両手にお参りはできず。既に一度さい銭を投げ入れてお願いしている勲にたこ焼きを託し、これでもかと鈴が取れんばかりに振りまくる佑奈と真白。鈴の音が境内に鳴り響く。最近ちょっとずつ、真白はともかく佑奈のイメージが崩れつつある勲。たこ焼き両手に生暖かく後ろから見ている。手の上も生暖かい。
「はー、願った願った。ダーリンたこ焼きありがとう」
「旅行当てたから、今年は宝くじ5兆くらい当たらないかなー」
「第一勧銀潰れますよ…」
「あたしらちょっと絵馬書いてくるけど、行く?」メグルから誘われる。
「あ、そういえば夜にはやってなかったな。行きます。佑奈さんと真白さんは…」
声を掛けようと振り返ったら、既にそこに姿はなく、チョコバナナの屋台に喧嘩を売っている二人がいた。もうバナナのサイズが㍉単位で違うなんて、言いがかりでしょう。勘弁してやりなさい、店の人が半泣きですよ。どっちがヤクザかわかったもんじゃない。
「ぼ、僕行きます」
「おう。あの二人は腹が膨れるまでほっておこう」
佑奈と真白は置いて、残りのメンバーで絵馬を奉納しに向かう。オーソドックスなタイプのものを一つ購入し、裏面に願い事を書き入れる。
「町村君、何書いたの?」横から志帆が覗き込む。
「えと、毎年これなんですけどね」
そう言って志帆に書いた願いを見せる勲。そこには『世界平和』と書かれている。
「君はガンジーかなにかなのか?」
「神様にお願いするとしたらこれくらいしかないんで。自分の希望は自分で叶えないといけませんから」
「ますます聖人君子に見えてくるな。二股さえ掛けてなけりゃ」
「ぐ…」
「志帆さんは?」志帆の願い事を覗き込もうとする勲。
「こら。女の子の願い事を覗くなんて無粋だぞ」
「す、すいません」
「あたしは堂々と見せられるけどなー」横からアマネが絵馬を見せてくる。
「『彼氏が欲しい』って、ストレートですね」
「欲は人を突き動かす原動力やで」
「それはそうですね。しかし…」少し離れたところにいる黒雪に目をやる。
「あの人は、なんか近づけないオーラがありますね。聞くに聞けない…」
どす黒い何かが体中から湧き上がっている黒雪。どんだけ願いがあるのか、それとも深刻な何かがあるのか。神へのプレッシャーがハンパなさそう。
「そ、そろそろ二人と合流しましょうか」
「そうだね…」
置き忘れていた佑奈と真白に合流するため、その場を後にする。黒雪の負のオーラが後ろからモワモワしているのは気にせず。
「みてみてー!」
真白が何か抱えてこちらめがけて走ってくる。
「ん、あれ? これって」
「当ったー、プレステ4!」
「え!?」
「紐引っ張るヤツで当たったのー。わーい、新年からついてるー!」
インチキといわれ続けている、紐を引くくじ引きで、最もいい商品をゲットしていた真白。当然的屋のあんちゃんは膝から崩れ落ちていた。「当たり入れてたっけオレ」と小声で呟きながら。
「アレ、当たり入ってるんだ」
後ろでうなだれ膝をついているあんちゃんを見ながら、これに目を付けられた彼を不憫に思う気持ちもわいてくる勲。「ごめん、一瞬目を離した僕が悪いんだ」なんて逆責任転嫁とでもいうべきか。
しかし、これだけ年末年始ついていると、何か反動があるのではと不安になる勲。幸せと不幸せのバランスはとれているという、非科学的ではあるがそんな話を少しだけ信じている勲。
そして、その予感は的中する。といっても、それはが彼らにとって不幸と呼べるか疑問ではあるが。神社からの帰り際、勲に一通の電話が入る。
「あれ、兄貴からだ」電話を取る勲。
「もしもし、あけましておめでとう。あんた海外旅行当てたんだって?」
「どこからその情報を!?」