第4話
翌朝、物置部屋で転がっていた勲を起こしにくる誰か。
「おはようございます。新年ですよ」
その言葉を夢うつつの状態で耳にし、そして頬にやわらかいものが当たる感触で一気に目が覚める勲。
「えっ、なに!?」
そこにいたのは佑奈だった。頬に触れたものは佑奈の唇だった。
「おはようございます」布団の端、正座して三つ指突くような姿勢で勲を見ている。
「お、おはようございます。んでもっておめでとうございます」
「みんな起きてますよ。着替えて向こうに来てくださいね。お雑煮作ってますから」
「あ、はい…」
キスのことには触れず、そのまま部屋を後にする佑奈。佑奈が気にしていないのが余計に恥ずかしくなる。今年に入ってもう三回。今年どっちと多く出来るか数えることにした勲。スマホを取り出してカウントのメモをとることにする。新年から幸せすぎるが、さっそく昨晩の「静かに」という願いは叶っていない感じがする。
「おはよー、おめでとー。遅いじゃないか」
既にリビングには全員が起きている。雑煮、おせち、磯辺焼きetc、ありとあらゆる正月料理を広げて口にしている。
「おはようございます。新年おめでとうございます」
「いやー、後片付け全部させちゃったみたいで申し訳ない」
「いえ、あのくらい」
「いい旦那になるわー。ついでに子供も産まないかい?」
「人類がひっくり返るので、さすがに無理でしょう」
こたつの一角に滑り込む勲。佑奈が持ってきてくれたお雑煮を手に取る。かまぼこも鶏肉も、ほうれん草も鰹節も、全てしっかり入ったお雑煮。考えてみれば佑奈の手料理を食べるのは久しぶり。ジーンとしながら口に運ぶ。
「さて、これからどこに行こう?」メグルから今後の予定を尋ねられる。
「そうだなー。明治神宮は死ぬほど混んでるからパスとして」
「すぐそこの神社でいいんじゃナイデスカ?」
「そうだね。近いし楽だし有名だし」
「あれ、あそこ有名なんですか?」勲が驚く。
「ん、結構有名だけど。なに町村君、行ったことあるの?」
「あ…」裏切者には制裁を。この後の洗いものはまたすべて勲の役目となる。
「11時くらいになったら出発するか。大丈夫、洗い終わるのだけは待ってやるから」
「へい…」
アマゾネスの村に迷い込んだ男が一人。言うことを聞けばハブらないと、いいようにこき使われる構図。
「おみくじとか、お守りは買ってないんだよね?」
「ええ。お参りしただけで帰ってきました」
「なるほど。一斉にやる恒例行事だけは手を付けなんだか、許そう」
「終わりました。お待たせしました」
「よっしゃ、いくかー」
一斉にこたつから抜け出しコートを着て準備する面々。勲も年末に買ったばかりのコートを着て準備完了。志帆から「センスいいねぇ」と、お褒めの言葉を貰う。
「いきますよー。先出てください、鍵閉めます」佑奈のそれに呼応して、我先にと玄関に群がる面々。火の元を確認した勲が、最後に家を出る。
神社に到着する。と同時に、既にたこ焼きを両手に携えている佑奈と真白。お参りより「出店潰し」をする気らしい。一同に戦慄が走る。
「あんだけ餅食ったのに…」