第2話
何処からか聞こえてくる除夜の鐘。誰かが連打しているようで既に百八を超えている様子。年末恒例のテレビ番組も終わり、徐々に眠りに落ちていく面々。人をダメにするこたつとその周りをぐるっと取り囲んでいるソファー。年末に向け佑奈が「こんなこともあろうかと!」と、買っておいたアイテムが非常に役に立っている。
酒の入っていない勲は、この時間でも珍しく眠気に襲われず、食い散らかされた食事の後片付けをしている。
「もう一人かぁ」
洗い物をしながら呟く。大学の友人でも誘えるならそれはそれでと考えたが、佑奈と真白を見られた途端「何お前二股? 友達辞めるわ」って言われそうなので却下。大学で村八分はマズい、パス。巽は前述の通り海洋類の餌になりそうなのでパス。さてアテがない、どうしたものか。
「おめでとー」横から勲に声を掛けてきたのは真白だった。
「あ、おめでとうございます。寝てなかったんですか?」
「うん。ちょっと寝てたけど目覚めた」
「となりに布団敷いておきましたよ。誰もいってないですけど、よかったら」
「眠くないの?」逆に真白に聞かれる。
「ええ、なんか目が冴えて。年末だけはいつも夜更かしなので、この日だけ慣れてるのかもしれません」
「あ、そうだ」何か思いつく真白。
「ん?」
不意を突かれる勲。唇が自分めがけて迫ってくる。避ける暇もなく台所の片隅で行われるカップルの儀式。
「はい、今年初もーらい」慣れたもの。姫初めではないものの、今年初を奪われる。
「…、やめてくださいよ。こんなところで」
「みんな寝てるし、陰に隠れてるから大丈夫だって」
「もう…」照れながら拗ねるような表情の勲。
「旅行どうする? いつ頃行こうか?」話題が旅行のことに切り替わる。
「そうですねぇ。僕は1月からもう休みに入ってますから、バイトさえなければ何時でも構わないです」
「バイト? してたっけ?」
「大学のです。教授の手伝いなので不定期ですけど」
「へー」
「ですから、真白さんと佑奈さんの都合次第ですね。休み、2月からですよね?」
「うん、まぁそんくらいからかな」
「ニューヨークも寒いですからね。春に近い方がいいですね。3月かな」
「混まないかなぁ、飛行機。卒業旅行の時期じゃん」
「そこは大丈夫じゃないですか。なんといってもビジネスですから」
「それもそうか」
大学生が乗ってはいけない、というわけではないが。今回は自分の金ではない。ワンランク上の座席で行くため、危惧している混雑とは少し遠いところにある。勲にしてみれば人生初がビジネスクラス。もうLCCとか乗れないとか言いそうで怖い。
「それより、あと一人。どうしましょう」
「そこだよね」真白にも案を求める。既に勲には当てがない。
「うーん、今はちょっと」
「そう簡単には決まりそうにないですね」
「ま、時間あるし。今月中に何とか決めよう」
洗い物を終えキッチンの電気を消す勲。「おやすみ」と暗がりの中真白に言われると同時に頬にまたキスされる。年明けて1時間程度でもう2回目。今年は何回することになるんだろう。