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第13話

「ありがとうございましたー」

 ここまで来るには紆余曲折あったが、到着してからはつつがなくパスポート取得まで完了する。スムーズにここまで来ることができたのも、本来年が明けてから実家に戸籍謄本の取得をお願いする必要があったのだが、別件で使う予定だったものが手元に一枚あった。先行してこちらに使うことにしたこともあり、年明け早々ミッションコンプ。後は昼飯をかっくらって帰るだけ。

「PPP」とスマホが鳴動する。

「誰だろ、って兄貴かい」ミランダこと佑からの電話だった。

「もしもし。何用?」

「パスポート取った?」どこかで見ていたんじゃなかろうかと思うほどのタイミング。

「今パスポートセンターで取ったところ…」

「おや偶然。じゃあもう問題ないわね」

「そりゃ無駄にはできないし、やることさっさとやっときたいし。で、なに?」

「行けるわよ、2月の真ん中くらいからなら」

「ぇー」本音が出ちゃった勲。

「何よ、誘っておいてその言い草は」

「誘ったの真白さんだし。俺は三人でもいいと思ってたのに」

「まぁそうでしょうね。あたしいちゃ落ち着いてヤれないし」

 あれ、なんかばれてる。その場で血反吐を吐きそうになる勲。昨日のことをまだ引きずっていることもあり、かなりクリティカルにヒットした様子。人の往来があるにもかかわらず、片膝が崩れる。何事かと気にする人数名。

「なぁに、それは旅行先じゃなくてもいいわけで…」

「そうでしょうね。にしても声が動揺してるわよ。なに、ミスっちゃった?」

 右ストレートが綺麗に入る。まだまだ冷たい地べたに横たわり得体のしれないものを口から出している。一人の傍観者が救急車を呼ぼうとしている(即止めた

「そういう話は、兄弟でするもんじゃないし…。とりあえず来れるってこと、だね?」

「そうね。2月10日から10日間、スケジュール開けたから。旅行社にそれで手配できる?」

「わかった。すぐに二人にも確認して確定させるから。明日くらいには連絡する」

「よろしく。早めによろしくね」

「ういっす」電話を切る。

「はぁ」ため息が出る、そんなにイヤか。

「ま、とりあえず二人に連絡しておかないと」

 改めてスマホと向き合い、佑奈と真白に「ミランダおk」と連絡を入れる。合わせて予定を決めなくてはいけないので、週末佑奈が実家から戻り次第集合したいと付け加える。その時勲は土下座することになるのだが。真白も合わせて佑奈から説教される。

「あ”ー、結局かー。ま、一人分無駄になるよりはマシか。別行動取ればいいだけだし。でも二人は一緒にいたがるだろうな。…ってことは僕一人別行動!?」

 あり得る話。兄と一緒にいたくないのは弟だけ。他に名はミランダ姉さんという愛してやまない存在が隣にいるなら、そりゃ終始べったりのはず。自然とハブられるのは勲で決定。

「部屋割り1:3にしてもらおうかな。兄貴と一緒だけは絶対イヤだ」

 その願いがかなうかどうか。数日後に旅行社で悶絶している勲がいることだけは今お伝えしておこう。どっちの意味かはいずれ。

「…ご飯食べて帰ろう」

 コーヒーチェーンはやめて富士そばにした勲。体以上に心が冷えたため、中からあったまるため、蕎麦とかつ丼を所望しに新宿西口へと消えていく。

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