第11話
翌日、「じゃあまたねー。大きく育つといいねー」と、お腹をさすりながら帰宅する真白を、漫画の下書きのようなモノトーンになりながら見送る勲。玄関の扉を閉め即「ぐおおおおおおおお!!」と、一人頭を抱えて転げまわっている。
しばらくのたうち回った後ピタっと止まり、そのままの状態で考え込み「…、名前どうしようかな?」と一言ボソリ。まだ確定していないのにそんなことに頭を回している彼はアホなのかな。
「いやいやそうじゃないだろう。もしその時は親になんて説明すれば…。大学生続けられるかだって怪しいぞ、働かなくちゃいけないかも」そう、まずはそっちが先。
「向こうの親御さんに会ったこともないのに。なんて挨拶すればいいんだろう。東大生でーすっていえば許してくれるかな?」
名声で推しきろうというあたり、姑息さしか感じないこの東大生。そんなことしたらきっと二度と矢沢家の敷居は跨げまい。
「と、とりあえず結果出るまでは冷静に過ごそう。その前にニューヨークいかなきゃいけないしね、あはははは」
笑い声に生気がないのは確か。海を渡るころには何らかの結果が出るであろう。ヤっちまったもんはしかたがないと腹を括り、とりあえず目先のイベントに頭を切り替える、ふりをする。
「明日からもう都庁は開庁するよね。…行ってしまおうかもう」
幸いにもカレンダーは明日から平日で公共機関は仕事始めとなる。大学もなくヒマな勲は持て余している時間を有意義に、やらねばならぬことを最優先にと明日都庁行をほぼ心の中で決めている。
「お金も…、あるよね」念のため財布の中を確認。問題なし。
「よし、明日起きたら朝一で行こう。あー、大学休みになるとこうもゆとりがあるのか。でも週に何回か行かないとさぼり癖ついちゃうな、ダメダメ」
大学の休みは長い。2か月以上にわたって休みが続くなんてことは当然だが今までの人生で経験がない、幼少期は除くが。苦学生でもないので今のところ定期的なバイトも入れていない勲は、感覚維持のため休みの間も大学へと通学し、本分である学業に勤しむことにした。正しい大学生の姿、昨晩のことを除けばだが。
「…………」
「…………」
「…落ち着かない」
ひとしきり調べ物も終わりコタツでゴロゴロしだしていた勲だが、やはり心ここにあらず。
「そうだ」起き上がりスマホを手に取る。
「…こんにちは。どうかしましたか?」電話の相手は佑奈だった。
「あぁ、ごめんなさい。今忙しくないですか?」
「はい、大丈夫ですよ。この後部屋出て実家に行きますけど」
「よかった。あの、佑奈さん。ちょっと聞きたいことがありまして、すぐ終わります」
「はい、なんでしょう?」
「えっと…。危険日って、いつですか?」
電話の向こうから妙な殺気を感じそして電話は即切れる。本当にすぐ終わった。
「やっちまったかな、僕…」やっちまってる。その後しばらく口をきいてくれなかったらしい。
(実家から戻って土下座して謝ったら何とかなった)




