第10話
「パスポートいつ取りに行くの? はい、あーん」
「あ、どうも。そうですねぇ、都庁開いたらすぐにでも行こうかな」
「それがいいよ。いつ行くことになるかわからないし、早めにやっておいた方が。あ、私も実家から送ってもらわないと」
「真白さんの、何年ですか?」
「10年」
「やっぱり10年にしようかな、取るの」
「そうしとき。新婚旅行海外行きたいし」
「う、うん…」
真白に膝枕されたまま二人コタツに入り、プリンを食べさせてもらうという幸せを味わいつつパスポート取得の話をしている勲。既に10年先、新婚旅行を見据えている真白はさすがといったところか。
「実を言うと、私も佑奈も修学旅行で一度行った後、卒業旅行を二人で韓国も行ってるんだよね」
「え、そうなんですか?」
「うん」
「いいなぁ。僕もいけないわけじゃなかったんですけど、いかんせん祖父母と一緒に暮らしていて。なんか放っておけなかったので」
「そうだったね。いいじゃん、ちゃんと3年間祖父母孝行したんだから。そのご褒美かもよ」
「そうかもしれませんね」後頭部を膝につけていた恰好だったが、身をひるがえし顔を膝の間にうずめる。
「あん、こら」
「すいません、ちょっとだけ」いつもとは違い真白に甘える勲。
「珍しいな。なにかあった?」
「いえ、特にこれといったことはないんですけど…」顔をうずめたままのため、少しくぐもった声で返す勲。
「佑奈さんと真白さん、三人一緒だとどっちか一人にこういうことってできないから…。つい」
本音を漏らす勲。その本音にキューンとなってしまった真白は、膝に置いたまま勲の上に重なるように抱きしめる。母性本能でもくすぐられたのだろうか。
「あぁ、もうかわいいな!!」
「ちょっと、苦しいです」
「我慢しろ。嬉しいくせに」
「そうですけど…。あ、真白さん。ずっと聞きたかったことがあるんですけど」
「ん、なに?」そう問われ抱きしめていた腕をほどく。
「佑奈さんも真白さんも、彼氏いたことないんですか?」
「ない。少なくとも私はいないし、佑奈も私の知ってる限りではいないかな」
「そうなんですね」
「なに、急に気になった?」
「いえ、なんていうか。こんなに…可愛いのに、コスプレしててモテそうなのになって。自然と思っただけです」いつの間にかまた裏返って顔を上に向けている。
「サラッというね、恥ずかしいこと…」可愛いと面と向かって言われて柄にもなく照れる真白。
「本当のことですし、ダメですか?」目線の先、真白の顔をまっすぐ見て表情一つ変えず言い放つ。そりゃ照れて当然。
「いや…、嬉しいからいい」
「で、告白されたこととかないんですか?」
「あるよ、けっこう。これでもモテたんだから。イベントなんかじゃしょっちゅうだよ。ノリの軽い自分がイケメンと勘違いしてる男性レイヤーから私も佑奈もよくナンパされた。まぁ当然断ってたけどね、そういうのに限っていい男っていないから」
「そういうもんなんですかね」
「少なくとも、ダーリンとは天と地ほど差がある。正直私がこんな…かっこいい人彼氏でいいのかなって思うことも、あるんよ」
「それは失礼ですよ」突然起き上がり真白を見て勲が一言。
「え、なんで?」
「かっこいい人、可愛い人が自分にはもったいないっていうのは、自分を謙遜しているように聞こえますけど、実のところそれはもし仮に別の人と付き合うことになったとき、その人を『ブス・ブサイク』と言ってることと同じなんですから」
「あ、なるほど」ハッとする真白。
「だから、今好きな人のこと、付き合ってる人のことを自信をもって自分に一番だって思ってください。僕の考えはそうです」
「そっか。ダーリンは見ず知らずの人のことまで考えて言葉選んでるんだね」
「あぁ、なんか偉そうなこと言って。ごめんなさい」勢いでいってしまった勲も少しだけ気恥ずかしそうになる。
「でも、だから好きになったのかも」起き上がった勲に、今度はそっと抱き着く真白。
「あ…。なので、僕は今真白さんも佑奈さんも、最高の人だと確信してます」
「ありがとう。最高に嬉しい」またそっとキスをされる。
「東京に出てきてよかったです。本当に」
「出会えてよかった」
静かな二人の時間が過ぎる。外はいつの間にかしっかりとした雪が降りだしている。勲の予想が外れたようだ。
「じゃあ、今晩は…。よろしくね」




