聖杖物語黒の剣編エピソード5黒の剣第1章オーガの罠Part3
虎牙を救い出す為、魔獣界へ乗り込んだ獅道と美琴。
二人の前に現れたのは四天王オーガと、虎牙だった。
ゲートを出ると、結界の穴が閉じる。
「ここは、魔獣の巣だ。何時ヤツラが襲ってくるか解らない。警戒を怠るな、美琴。」
「はい、獅道兄さん。」あたしは右手を握り締め、そう答える。獅道兄さんは、右手に剣を出して辺りを窺う。
「くっくっくっ、良く来たな。水晶の巫女よ。」前方の祭壇から声が響き亘った。
「誰だ!貴様っ。」獅道兄さんが声の主に問う。
「ふふふっ、オレ様はオーガ。これから支配者になる者だ。」
「兄さんを、虎牙兄さんを返してもらおう。」獅道兄さんがオーガに叫ぶ。
「くっくっくっ、返して欲しくば、闘って勝つ事だな。この男と。」
祭壇に立つオーがの横から現れたのは、
「虎牙兄さん!」獅道兄さんが呼び掛ける。ゆらりと剣を持つ虎牙が一歩前へ進みだす。
「この男を返して欲しくば、勝つ事だな。この男に。」
「なんだと!兄さんに何をした。」
「ふふふっ、知れた事だ、もはやこの男はオレ様の下僕となった。助けたくばこの男を打ち負かせば良い。死すれば助かり、取り戻す事が出来よう。」
「なんて事をしやがるんだ。貴様!」獅道兄さんが怒りに燃えた声を出し、
「聖召還<ビースト>!」白銀色の鎧を身に纏った。
「美琴、良く聞いて。僕はオーガを倒す。それまで、兄さんの動きを止めておいてくれないか。頼んだよ。」そこまで言うと、獅道兄さんは一気に躍り出た。
「うおおおおっ!」獅道兄さんはオーが目掛けて剣を繰り出した。
ー虎牙、操られているんだよね。-あたしは虎牙の瞳に生気が無い事を瞬時に悟った。
ーどうしても、戻らないなら・・・あたしは、虎牙と刺し違えて・・・死のう・・・-あたしは虎牙に近付く。
「虎牙。聞こえる?あたしだよ、美琴だよ?ねぇ、虎牙。」虎牙に聞こえるように、心の中に訴える様に、あたしは語りかける。
「水晶の巫女を黒王に届けるのが、オレの使命・・・」誰に話すわけでも無い言葉を発する虎牙、
「虎牙!目を醒まして、お願い。あたしの虎牙に戻って、でないと・・・」
「どうするのだ、巫女。」虎牙が剣を構える。あたしはゆっくりと言う。
「でないと、あなたを殺して、あたしも死ぬから。」あたしは右手を高く掲げて光を呼ぶ。
「では、殺してみろ。」そう叫んで、虎牙があたしに剣を向けて飛び込んできた。
ーああ。こんな時が来てしまうなんて・・・でも、もう挫けない。迷わない。あたしは信じる、自分を。そして、愛する虎牙を。・・・だから!-
「聖なる風<ホーリーウィンド>」光の嵐が、虎牙に向けて放たれる。
「ぐっ!」虎牙が、それをまともに受けて怯む。
ー虎牙!ああ、あたしが虎牙を攻撃してる。この心の痛みが虎牙に伝わる事を信じてる。早く戻って、虎牙!-
「ぬぅおおおおっ!」嵐の中から虎牙が飛び出して、あたしに斬りかかって来る。
「光の矢<ブライトアロー>」光り輝く弓矢が、虎牙に向けて放たれる。それを剣で弾き返しながら、
「斬!」剣が閃く。
「くっ!」あたしはぎりぎりの処でそれをかわす。聖導服のマントが裂け、千切れ飛ぶ。
「はあはあはあっ。」あたし達は、息を切らして対峙した。
ーこのまま力を使い果たせば、あたしは虎牙を止める事は出来なくなる。・・・もう虎牙が元に戻れないなら。最期の時を迎えるのみ・・ね。-
「虎牙!お願い。あたしの大好きな虎牙に戻って!」あたしは目に生気の無い虎牙に向って叫ぶ。だが、返事の代わりに剣を振り翳す虎牙。
ーもう、駄目なのかな。虎牙。-あたしも右手を高く掲げ、強く祈った。
「超破弾<メガバースト>」巨大な破壊波が、虎牙に向う。それを虎牙の剣が受け止めようとするが、
(ズガーッ)破壊波が虎牙を包み、爆発した。
「虎牙!!」あたしは爆発煙が消えた跡で、倒れている虎牙に駆け寄った。
「虎牙!虎牙ぁ!!」あたしは虎牙の肩を揺すって、目を醒まさせる。
「うぐっ、巫女。まだ勝負は・・・」生気の無い目で言う虎牙を見て、あたしは涙が出てくる。
「虎牙・・・もう駄目なの?戻ってくれないの?・・だったら、死のう。一緒に・・・」そう言って、あたしはブレスレットから、光の短剣を出し虎牙に向って、
「虎牙、あたしも逝くから、すぐに逝くから・・・。」そう言いながら剣を振り上げて、虎牙の胸に剣を、
ー虎牙を殺すなんて・・・出来ない。あたしには無理だよ。そこまで、あたし強くなれないよ、虎牙。ごめん、あたし・・・あたしが先に逝くから。・・待ってるから・・ごめんなさい。あたしの虎牙、愛してます・・ずっと・・・-そう、思いつめて剣を自分に突き入れようとした時、背後から・・・
「あっ!!ぐっ!うっ!!」あたしは背中から胸に突き抜ける激痛で、目が眩む。
「あっ!あうぅっ!!」目の奥が白く霞む中、あたしの胸から黒い霧のような物が突き出ていた。
ーあたし、刺されたの?-霞む意識の中で、
ー虎牙!やっぱりあなたと一緒にいたい!-その意識だけが、残っていた。
「くははははっ、ついに捕らえたぞ。水晶の巫女を我が手に!」闇の中から黒王ジキムの声が響き亘った。
美琴は気を失い、ジキムに囚われてしまう。
一方獅道はオーガとの決闘を開始した。
次回第2章友情
次回も読んでくれなきゃだめよーん。