聖杖物語(セインステッキストーリーズ)黒の剣編エピソード5黒の剣 最終話エピロローグ
黒の剣 最終回 未来へ
美琴を何とか甦生する事に成功した虎牙達は病院に運び込むが・・・
巫女の運命は変えられるのか。
白猫堂へ結界を通じて帰り着いたオレ達は、美琴をソファに寝かせて祈った。
取猫が呪法を開き、美琴の上に魔法陣が描かれる。
「うむ。いま少し時間が掛かりますが、命は繋ぎ止めました。」取猫が、額の汗を拭おうともせず報告した。肩で荒い息を吐きながら・・・
「やった!美琴っ、よかったね。」
「ミコッタン。頑張った・・です。」
マコとヒナが、小躍りして喜んだ。
「後どの位掛かる?」オレの問いに、
「これ以上は、普通の病院に入院され、体力の回復を待たれるのが上策かと。」取猫が答えた。
「うん、早速病院の手配をしよう。」パクネが携帯を取り出し連絡を入れる。
「取猫、それでどうなんだ。美琴は・・・何を失ったのだ?」
「・・・多分・・全て・・」
「全てって、何の?」マコが訊く。
「思い出、過去の記憶。何もかも・・です。」
「そっそんなっ、それじゃあ。美琴が目覚めてもここに居るのは別人って事じゃ無い!」
「酷い・・・です。」マコとヒナが、泣き顔になる。
「マコ、ヒナ。今はそうだけど・・あいつが言った様に必ず帰って来るさ。」パクネは天井を見ながら言った。その瞳に涙が溢れていた。
「さあ、病院へ美琴を運ぶからな。」オレが吹っ切れた様に言うと、
「虎牙兄さんは、気にならないのか!」マコが少し怒りぎみにオレに言う。
「気にならないのではないよ。今は久音が言った様に、美琴を信じて待つしかないだけだから・・」
「ごっごめんなさいっ!あたし、酷い事を言ってしまいました。」マコが謝る。
「いいんだ。病院で身体のケアをしてもらう事が先決だから。」オレは美琴を抱き上げ、病院に向った。
・・・それから3日、美琴は眠り続けた。そして、
「そろそろ、目覚められますよ。」心電図と、脳波計を見ながら、医師が言った。
「声を掛けてあげてください。」
オレは早鐘を打つ心臓を押さえきれず、
「美琴、聞こえるか?美琴。」
「ミコッタン!」
「美琴!」
オレに続いてヒナ、マコが次々に声を掛けた。
「ん、んんっ。」眉を震わせ、その瞳が開いていく。
「美琴!」マコが感極まって、抱きついた。ゆっくり瞼を開いた美琴は、暫く目を見開いたまま声を出さない。
「美・・琴・・?」マコは異変に気付いた。抱きついたままその瞳を見つめる。
「先生?」ヒナが医師に促す。
慌てて医師が、美琴の瞳にライトをあてる。そして、訊いた。
「聞こえていますか?此処が何処だか判りますか?」
美琴はまだ何も言わない。
暫く口篭もった医師が、最後の言葉を言った。
「あなたの・・お名前が解りますか?」
その言葉を聞いて、始めて美琴が口を開いた。
「・・わかりません・・。」
唯、一言だった。
マコとヒナは泣いて、泣き崩れて帰って行った。
医師がはっきりと言った。
「記憶喪失です。しかも重度の。何時記憶が取り戻せるのかさえも判らない。何かのショックで、取り戻す事も有るかも知れませんが・・・。」
オレは美琴を見ながら訊く。
「可能性は、有るのですか?」医師がばつが悪そうに、
「万に一つ・・・ですな。」
「万に一つ・・・それでもゼロではないのですね。」
「そうです。」
オレは顔を上げて医師を見て言った。
「なら、その可能性を期待します。それまでは、彼女を昔通り、妹として接していきます。」
医師は頷き、
「それが良いでしょう。それでは・・お大事に。」そう言って、医師は部屋から出て行った。
ー万に一つ・・それでもオレは、美琴を信じる。あいつはオレと約束した。必ず帰ると。だから、オレは待つよ、ずっと、きっと。美琴が帰るまで。-
オレは美琴のベットに近寄り、声を掛けた。
「美琴、ああ、それが君の名だよ。オレは虎牙。コーガって呼んでくれ、君の兄なんだ。これからも宜しく。」
「あ、あの。私の名、ミコトって呼ぶのですか?」
「そ、ミコト。美しい琴。ことは音を奏でる琴って意味。」
「そうなのですか。」
「君はオレの妹なのだから、何か気になったら何でも訊いて。判る事は答えるから。」優しく笑いながら話し掛けると、美琴は赤い顔をして布団に潜った。
「?」オレが不思議そうに見つめると、
「あ、あの・・・あんまり見ないで下さい。恥ずかしいから・・。」
「なぜ、恥ずかしいの?」
オレが訊くと、布団から顔を出して、
「何故だか判らないのですけど、胸がどきんどきんして、私。あの、その、お兄・・ちゃん、ですよね。昔から知っているような気がして、その、当たり前なんでしょうけど。すごく懐かしいって言うか、
その・・」
「なんだい?」オレが微笑んで訊くと、顔を赤らめた美琴が、
「あ、あのぉ。お兄ちゃんって呼んで良いですか?」
「ああ、良いよ。美琴。」
「ふぇ、良かったァ。あの、それでお兄ちゃん。私ってどんな子だったの?」
オレはくすっと笑って、
「そうだな、結構ドジっ娘だったっけ。」
「え?ドジ・・娘・・・ですか?」
「うん。結構学校でも、友達仲間でも有名だったよ。」
美琴はびっくりした様に、
「ええっ!そうだったんですか・・あははっ、参っちゃうな。」
オレは久しぶりに屈託のない美琴の笑顔を見て、少しほっとした。
ーもし、記憶が戻らなくても、また美琴の笑顔を見られる。また美琴と話すことが出来る。ー
一緒に居られる事が、今の自分には何より嬉しかった。
「また、始めような美琴。オレ達の未来を。」
美琴が不思議そうに、
「未来?」
オレは美琴に力いっぱい答えた。
「そう!未来!!」
「ふーん、変なお兄ちゃん。」
そう言って、素直な笑顔で、美琴が笑いかけてきた。
黒の剣 編 The End
聖杖物語黒の剣編。
この物語は、ここで一旦終わりを迎えます。ですが、巫女の運命を受け入れた美琴の物語は、
まだまだ終わりません。何故ならそれは彼女が生き続けているから。生きているのなら、その
人の物語はこれからも、終わりはしません。きっと、きっと。願いが叶うまで・・・。
今迄応援してくださった皆様に、感謝を込めて。「ありがとう」と、言わせてください。
そして、また何時の日にか、美琴のこの後の物語を描いていきたいと思います。
それでは、また。
次の物語も、絶対読んでくれなきゃ、駄目よーん!
さば・ノーブ