聖杖物語(セインステッキストーリーズ)黒の剣編エピソード5黒の剣最終章聖杖Part3
魔王は黄金騎士が打ち破り、闘いは終わりを告げた。
しかし、真聖巫女の運命を受け入れた美琴は倒れたまま、動かなかった・・
光の中であたしは一人、佇んでいた。目の前に、何かの呪文を描いた大きな扉があった。
ーああ。もうすぐ、あの扉の中に、闇の中へ入らなくてはいけない。-
やがて扉がゆっくりと開き始める。扉の中から闇のオーラが溢れ、あたしに近づいて来る。
ーあそこに入ってしまえば万に一つ、もう一度ピンク水晶の光を浴びる事が出来なければ、二度とここから出られない。今、あたしがピンク水晶を使ってしまったから、あたし以外の巫女に出会える確率は・・・
万に一つも無いかもしれない。そうだとしても挫けない。諦めない。-
あたしは右手を強く握り締め、決意を新たにしようとした。だけど・・
ーでも、本当にそうなのかな。-弱虫だった頃のあたしが現れる。
ー本当にあたしは帰れるのかな・・。ずっとこの闇の中で探し続けないといけないのかな。-
あたしはだんだん自信が無くなってくる。
ーあたしの想いって、こんなに弱かったのかな。あたし、挫けそうになっている。諦めそうになっている。確かめたい、あたしの想い、あたしの願いを昔に戻って!-あたしの想いが光になって過去へと戻った。
光の雲が晴れていく・・・
ーここは?え?あたし?あたしと虎牙が・・え?なんで・・抱き合ってる・・の?え?ええっ!ちょ、ちょっと!うわっ!あわあわっ!ここはっ、これはっ!どう言う事っ!?あたしと虎牙が・・初めて・・Hしてるっ!うわっ!あたしこんな大胆だったんだ。ううーっ、赤面しちゃう・・。あんな顔してたんだ、あたし。あははっ我ながら恥ずかしいよ。・・・でも、ほんと、嬉しそう。と、言うか、嬉しかったんだよね、あの時。虎牙と一つになれたって言うか、まあ、その。気持ち良かったし・・あわあわ。
じゃあ、もっと昔に行ってみよう。次は、と。あれ?あたしと虎牙がいるけど・・虎牙!苦しんでるっ、目を澱ませて。それなのにあたしは何か迷っているみたい。助けなきゃいけないのに、何を迷っているの?ー
あたしは目の前にいる美琴に向って、
「美琴。救いたいよね。愛する人を。」あたしの言葉に、びっくりした様に振り向いて、
「は・・い。助けたいです。虎牙兄を。」
「そう、助けたいよね。」あたしは自分に言い聞かせる様に、今の心境を語った。
「なら、覚悟がいるわ。」
「覚悟?」
「そう、美琴の記憶が無くなってしまうかも知れない。そう、全て。愛する人の記憶さえも・・・その覚悟が出来る?美琴。」あたしの言葉に、美琴は少し俯いて訊いて来た。
「全ての・・・記憶が・・無くなる?」
昔の美琴は、何かを決意した様にあたしに言った。
「出来ます!記憶を失う事より、虎牙兄を助けられない方がもっと、もっと嫌だから!・・だから助ける方法を教えてください!!」叫ぶ様に訊く美琴に、あたしは”はっ”とする。
ーそうだった、忘れかけていた。この想い。-
「そう!そうだよね美琴。愛しているのだものね。虎牙の事。」あたしは美琴に微笑みかけ、手を握った。
「その勇気があれば、この後も虎牙を愛し続けていけるわ。だから、一緒に行きましょう。虎牙の元へ。
さあ!」あたしの手を強く握り返して、
「はい!」あたしは美琴を虎牙の元へ連れて行き、様子を見守った。
ーあ。あたし虎牙に抱きついて、わっ!虎牙らんぼー。上着引き裂いた。わわっ、今度はブラウス破った。わあっ!スカートまで。落ち着いてよ虎牙もう見ちゃいられないよ。美琴必死に耐えてるじゃないの。あっ、漸く落ち着いたかな。・・・そっか、この時はロストバージンしていなかったんだ。まあ、良かったかな。-
あたしは、微笑みながら美琴を見ている。それに気付いた美琴に、
「大丈夫、大丈夫だから昔のあたし。恐れないで強くなって、強くなってね。」と、語りかけた。
あたしは気付いた大切な事を、それを確かめる為にもっとずっと昔に戻る。狼牙お父さんが居なくなった11歳の誕生日。誕生日を迎えたあたしが泣いている。虎牙が頭を撫でてくれている。
ーあたし、昔から泣き虫だったんだ。ー
18歳の虎牙は頭を撫でながら言っている。
「美琴、心配するなよ。オレが必ずお前を守る。約束するから、オレ、美琴が好きだから。ずっと一緒に居てやるからな。」11歳の美琴は泣きやんでこう言った。
「うん!あたしも虎牙お兄ちゃんの事、大好き。」
ーああ、そっか。そうだったっけ。ずっと昔にあたしは虎牙に告白されてたんだ。どうして忘れてたんだろう。・・こんな大切な事・・・-
光が晴れていく中、あたしの目が開いていく。その瞳の中で扉が開いていた。
ーうん!わかった。あたしもう大丈夫。きっときっと帰る。虎牙の元へ、愛する人の元へ。どんなに苦しくても、高い壁が立ち塞がったとしても挫けない、恐れない、負けない。だから、虎牙待っていてね。あたしきっと帰るよ、あなたの元へ。-
あたしは歩を進めて、扉の内へ入った。闇が支配する真っ暗闇の扉の中へ。
<ぎぃぎぎぎぃーっ>
あたしの後ろで、扉が閉まった・・・・・
美琴は自らの意志で、聖獣界幽閉の扉に入って行った。
必ず帰ると心に強く念じて・・・
さよなら、美琴。さよなら真聖巫女。また逢える日まで・・・。
次回、聖杖物語最終回。エピロローグ
生きていてくれ!生きていてさえくれれば、また愛を始める事が出来るから!
次回も読んでくれなきゃ駄目よーん!