狂犬騎士団Twitter小話集③(動力犬ターンスピット1~7)編集版
アフガンハウンドが珍しく講義をした。
「陛下。戦車の一部は電気で動いています」
「どうやって作るのですか?」
「動力犬ターンスピットが回転して作っています」
「?」
見学に行くと、大量の回転車を漕ぐ犬たち。
『わんこー!』
『いっぱーつ!』
カラカラカラカラ……。
「我が国は犬力発電です」
真顔で説明するアフガンハウンドの横で衝撃を受けていた陛下は、即日動力犬を廃止した。
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しかし後日、ターンスピット一族から抗議が来た。
『仕事を奪わないでいただきたい!』
『動力である誇りが、我々にはあるのです!』
女王陛下の丸い靴にわらわらと集まって、抗議をする彼ら。
鍛えられた(ようには全く見えない)小さく短い前足と肉球で、陛下の靴を叩く。
不敬ではあるが、公爵家として思うところもあるマルスは、あえて見守っていた。
「でも……」
とまどう陛下。
まさか彼らが、ここまで回転車に拘るとは思わなかったのだ。
ターンスピット一族は旧大陸時代に肉焼き器を回すために、純人に魂の変質させられた犬人である。
だが彼らはそれをむしろケンネルの動力として生かすことで、アイデンティティーにまで昇華させていたのだ。
『回転させてください!』
「――――で。どうするんです?」
王座の階段の下で、呆れて見上げているアフガンハウンド。
陛下はすっかり困り果てた。
麗人の宰相は「誇り高い彼らです。とりあえず名誉を授けましょう」と提案したことは――――。
「私の朝食のパンを焼いてください」
『よしきた!』
とりあえずトースターの発電をお願いすると、張り切って一族全員で発電をし、パンを焦がしてしまった。
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ターンスピット一族は再び抗議した。
『もっと華やかな動力になりたいです!』
『バーンとかじゃーんとか!』
『我々はパンに終わる犬じゃない。もっとすごいことが出来るはずなんです!』
陛下は頬に手を当てて、黒板の前で落書きに色を付け始めた暇犬にすがった。
「アフガンハウンド卿……」
「仕方ない。作りますか」
そして用意されたのは電気楽器。
丸い足形に棒をつけて、金属の紐が張ってある。
「バウギターです。華やかな王立楽団で使えばきっと――――」
『指揮者マサムネ・スピッツが怒りました!』
飛び込んで来たターンスピットたち。
弾くとバウバウしか鳴らない仕様だったそうだ。
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すっかりしょげてしまったターンスピットたち。
『所詮。回すことしか能がない我々ですから……』
『残っているのは、この可愛らしさだけ』
『陛下。こんな役立たずの我々を、抱き上げ抱き締め、太陽の香りがする毛皮を嗅いで慰めてやってください』
『どこかしら昔の僕を見ているようでむかつくね』
マルスの突っ込みはともかく。
陛下はしょぼつく彼らが気の毒になり、毛糸の束を渡した。
「せめて毛糸玉を作るのを手伝ってください」
カラカラ、カラ……。
毛糸の回転車をひたすら回す犬。
みんなあまり楽しくなさそうだ。
足も時々止まりがちになっていた。
(ターンスピットの皆さまの出自を考えれば、もっと自尊心を保てる活躍の場があればいいのに……)
もっと活躍の場はないものか。
陛下は頬に顔を当てて考え込んだ。
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「さて、どうしましょう」
『陛下!あれやりたいです』
悩む陛下の横で、ターンスピットの一人が前足を指したのは窓。
その奥にそびえ立っていたのは……アフガンハウンド作成のミサイルだった。
アフガンハウンド特製・最新兵器の見本として、ドッグランコートに運ばれてきたのだ。
確か「グアムなんて余裕だよ。むしろ弾道ミサイルとしては地球一周できなきゃ」と言っていた彼。
グアムとはなんやねん。
陛下は心で突っ込んだが、少なくとも窓辺に集まって前足を引っかけ、しっぽをぶんぶん振っているターンスピットたちにとっては、魅力的な存在のようだ。
そう――――――。
『動力として中に入りたいです』
「戦後のトラウマを刺激するからやめてください!」
ミサイル犬として活躍出来るから。
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「陛下が嫌がってるじゃないか。ミサイルするならもっと大きなものがあるよ」
アフガンハウンドが提案をした。
連れてこられたのはケンネル北西のアフガンハウンド領。
そこには、巨大な回転する車がそびえ立っていた。
『『ふおおおおおおおおお』』
感動するターンスピットたち。
陛下も「これはなんですか!?」とびっくりしている。
「建築中のワンワンランドの観覧車だよ」
「大きいですね…」
観覧車とは、遊ぶためだけに作られた装置だそうだ。
回転する乗り物に乗ると、高いところまで登って下りていく。
「遊びにこれだけの技術とお金を掛けられるようになるなんて、ケンネルは大分平和になりましたね」
『これを回すのですね!』
『楽しそう!』
ターンスピットたちは喜んで、観覧車の横についている発電装置の小屋に入った。
『たーのしーい!』
『やっぱり適材適所ってやつだよね!』
『我らターンスピットは素敵で楽しいことのために回転するのですよ!』
次々と回しながら発電する。
一部のターンスピットたちは観覧車に乗り込んで、自分たちの成果を味わっていた。
「では、みんなで遊びましょう」
陛下はにこにこ(当社比)と笑って(当社比)、王宮を臨時休業とした。
休暇と給料を保証して、みんなで遊園地で遊ぶのだ。
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陛下は執務室で、足下の護衛犬に声を掛けられた。
『ところでリーゼ様。ターンスピットはどうなったの?』
「毎日子供たちの歓声が聞けるから楽しいらしいですよ」
『それは良かった』
「だからマルス様も行きましょう!」
『え!? うん!』
思わぬ誘いに心臓が跳ね上がるマルス。
だが――――――。
「どうもー。リーゼからただで遊べるって聞いたから来たで」
「なんだよ、僕だけじゃないのかよ!」
当日はバドもマメタも一緒だった。
「こういうオチだと思ったけどね!」
マルスの苦労は続く。




