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狂犬騎士団Twitter小話集③(動力犬ターンスピット1~7)編集版


 アフガンハウンドが珍しく講義をした。


「陛下。戦車の一部は電気で動いています」

「どうやって作るのですか?」

「動力犬ターンスピットが回転して作っています」

「?」


 見学に行くと、大量の回転車を漕ぐ犬たち。


『わんこー!』

『いっぱーつ!』


 カラカラカラカラ……。


「我が国は犬力発電です」


 真顔で説明するアフガンハウンドの横で衝撃を受けていた陛下は、即日動力犬を廃止した。




****




 しかし後日、ターンスピット一族から抗議が来た。


『仕事を奪わないでいただきたい!』

『動力である誇りが、我々にはあるのです!』


 女王陛下かいぬしの丸い靴にわらわらと集まって、抗議をする彼ら。

 鍛えられた(ようには全く見えない)小さく短い前足と肉球で、陛下の靴を叩く。

 不敬ではあるが、公爵家として思うところもあるマルスは、あえて見守っていた。


「でも……」


 とまどう陛下。

 まさか彼らが、ここまで回転車に拘るとは思わなかったのだ。


 ターンスピット一族は旧大陸時代に肉焼き器を回すために、純人に魂の変質させられた犬人である。 

 だが彼らはそれをむしろケンネルの動力として生かすことで、アイデンティティーにまで昇華させていたのだ。

 


『回転させてください!』

「――――で。どうするんです?」


 王座の階段の下で、呆れて見上げているアフガンハウンド。

 陛下はすっかり困り果てた。


 麗人の宰相は「誇り高い彼らです。とりあえず名誉を授けましょう」と提案したことは――――。

 

「私の朝食のパンを焼いてください」

『よしきた!』


 とりあえずトースターの発電をお願いすると、張り切って一族全員で発電をし、パンを焦がしてしまった。




****




 ターンスピット一族は再び抗議した。


『もっと華やかな動力になりたいです!』

『バーンとかじゃーんとか!』

『我々はパンに終わる犬じゃない。もっとすごいことが出来るはずなんです!』


 陛下は頬に手を当てて、黒板の前で落書きに色を付け始めた暇犬にすがった。


「アフガンハウンド卿……」

「仕方ない。作りますか」


 そして用意されたのは電気楽器。

 丸い足形に棒をつけて、金属の紐が張ってある。


「バウギターです。華やかな王立楽団で使えばきっと――――」

『指揮者マサムネ・スピッツが怒りました!』


 飛び込んで来たターンスピットたち。

 弾くとバウバウしか鳴らない仕様だったそうだ。




****




 すっかりしょげてしまったターンスピットたち。


『所詮。回すことしか能がない我々ですから……』

『残っているのは、この可愛らしさだけ』

『陛下。こんな役立たずの我々を、抱き上げ抱き締め、太陽の香りがする毛皮を嗅いで慰めてやってください』

『どこかしら昔の僕を見ているようでむかつくね』


 マルスの突っ込みはともかく。

 陛下はしょぼつく彼らが気の毒になり、毛糸の束を渡した。


「せめて毛糸玉を作るのを手伝ってください」


 カラカラ、カラ……。


 毛糸の回転車をひたすら回す犬。

 みんなあまり楽しくなさそうだ。

 足も時々止まりがちになっていた。


(ターンスピットの皆さまの出自を考えれば、もっと自尊心を保てる活躍の場があればいいのに……)


 もっと活躍の場はないものか。

 陛下は頬に顔を当てて考え込んだ。




****




 

「さて、どうしましょう」

『陛下!あれやりたいです』


 悩む陛下の横で、ターンスピットの一人が前足を指したのは窓。

 その奥にそびえ立っていたのは……アフガンハウンド作成のミサイルだった。

 アフガンハウンド特製・最新兵器の見本として、ドッグランコートに運ばれてきたのだ。

 

 確か「グアムなんて余裕だよ。むしろ弾道ミサイルとしては地球一周できなきゃ」と言っていた彼。 

 グアムとはなんやねん。

 陛下は心で突っ込んだが、少なくとも窓辺に集まって前足を引っかけ、しっぽをぶんぶん振っているターンスピットたちにとっては、魅力的な存在のようだ。


 そう――――――。


『動力として中に入りたいです』

「戦後のトラウマを刺激するからやめてください!」


 ミサイル犬として活躍出来るから。 

 



****




「陛下が嫌がってるじゃないか。ミサイルするならもっと大きなものがあるよ」


 アフガンハウンドが提案をした。

 連れてこられたのはケンネル北西のアフガンハウンド領。

 そこには、巨大な回転する車がそびえ立っていた。


『『ふおおおおおおおおお』』


 感動するターンスピットたち。

 陛下も「これはなんですか!?」とびっくりしている。


「建築中のワンワンランドの観覧車だよ」

「大きいですね…」


 観覧車とは、遊ぶためだけに作られた装置だそうだ。

 回転する乗り物に乗ると、高いところまで登って下りていく。


「遊びにこれだけの技術とお金を掛けられるようになるなんて、ケンネルは大分平和になりましたね」

『これを回すのですね!』

『楽しそう!』


 ターンスピットたちは喜んで、観覧車の横についている発電装置の小屋に入った。


『たーのしーい!』

『やっぱり適材適所ってやつだよね!』

『我らターンスピットは素敵で楽しいことのために回転するのですよ!』


 次々と回しながら発電する。

 一部のターンスピットたちは観覧車に乗り込んで、自分たちの成果を味わっていた。


「では、みんなで遊びましょう」


 陛下はにこにこ(当社比)と笑って(当社比)、王宮を臨時休業とした。

 休暇と給料を保証して、みんなで遊園地で遊ぶのだ。




****




 陛下は執務室で、足下の護衛犬に声を掛けられた。


『ところでリーゼ様。ターンスピットはどうなったの?』

「毎日子供たちの歓声が聞けるから楽しいらしいですよ」

『それは良かった』

「だからマルス様も行きましょう!」

『え!? うん!』


 思わぬ誘いに心臓が跳ね上がるマルス。

 だが――――――。


「どうもー。リーゼからただで遊べるって聞いたから来たで」

「なんだよ、僕だけじゃないのかよ!」


 当日はバドもマメタも一緒だった。


「こういうオチだと思ったけどね!」


 マルスの苦労は続く。




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